中朝戦争?
今年になって、中国と北朝鮮が数年後に戦争をするというコピペが出回っていますが、元ネタは佐々木敏氏のメルマガです。
http://www.akashic-record.com/index.html
中朝戦争が直接扱われてはいませんが、じゅうような背景として描かれたのが佐々木氏の小説『天使の軍隊』です。小説という形式ですが、中朝戦争後の中国の分裂という予測が書かれており、以前このブログでも雑感を述べたことがあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/200708article_31.html
これは、地政学的観点からの科学的予測とのことですが、確かに地政学的観点はひじょうに重要であるものの、近い将来の中朝開戦という予測には疑問の残るところです。
中朝の利害には対立するところも少なからずあり、中朝間の関係は必ずしも良好ではない(北朝鮮のミサイルは、日本だけではなく中国をも標的としているでしょう)というよりも、むしろ険悪な関係に近いと言ってよく、それは2回目の南北首脳会談における終戦宣言をめぐる交渉で、北朝鮮が「中国排除論」を主張し、中国が激怒したことからもうかがえますが、北朝鮮が米国や日本と結んでも、中国と戦うことはないだろうと思います。まあそもそも、日本の経済界もそうですが、米国の経済界の主流も中朝戦争を望んでいるわけでもなさそうであり、米国が朝鮮戦争を画策するとは思えないのですが、もう少しこの問題について考えてみます。
北朝鮮にとって、技術面では中国よりも米国と組んだほうがよいでしょうし、陸地で国境を接している大国よりは、遠く離れた大国と組むほうが政治的自立という観点からもましなのは確かでしょう。北朝鮮側には、長期的に見れば中国は北朝鮮を併合するのではないか、との警戒もあるでしょう。北朝鮮が中国から米国に「鞍替え」しようとし、中国がその動きを警戒している、との報道もありました。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/korea/75344/
また、イラクで手一杯の米国としても、北朝鮮を攻める余裕はないでしょうから、北朝鮮との国交樹立には積極的だと思います。しかし、だからといって北朝鮮が中国に戦争を仕掛けるのは、いかに米国の支援があるとしても、北朝鮮にとって危険な選択となるのは間違いないでしょう。また中国としても、自国の安全保障という観点からすると、簡単に北朝鮮を米国・日本側に渡すつもりはないでしょう。
北朝鮮としては、冷戦期において中ソの間をしたたかに立ち回ったように、米中の間をも同様に立ち回ることが理想でしょう。もっとも、これはかなりの外交手腕が要求されるので、現在の日本がそうであるように、大国に従属するほうが安全であり楽でもあると言えます。
ただ、中国と違って米国は人権にうるさい国ですし、イラクのフセイン政権の軌跡を想起すれば、北朝鮮というか金王朝にとって、米国に全面的に依拠するのはかなり危険だという判断もあるでしょう。しかし、米国はイランやイラクの問題で手一杯ですから、北朝鮮が米国にかなり依存するようになっても、体制転覆の心配は短中期的にはない、という判断も可能です。
今後ありそうなのは、中国にたいする防波堤・中国の喉元につきつけられた匕首という立場(冷戦期のキューバと似ています)になり得る、と北朝鮮が日米に自国を高く売り込み、日米と北朝鮮との間で国交が樹立され、さまざまな援助を含む条約が締結される、という展開でしょうか。その場合、中国と北朝鮮の関係は険悪なままで、かつての中ソのように国境で武力衝突が起きる可能性はありますが、さすがに全面的な戦争にはならないと思います。
さまざまな援助を含む北朝鮮との国交樹立が、日本にとって法外に高い買い物になるのか、それとも適正な価格の買い物になるのか、私ていどの見識では予想しがたいところですが、北朝鮮との国交樹立は、日本にとって必ずしも悪い選択ではないように思います。
日朝国交樹立にさいして、最大の障害となるのは、拉致問題にたいする多数の日本国民の怒りの感情でしょうが、少なくとも表向きには北朝鮮への強硬姿勢を唱えた安倍政権下でも、拉致問題が解決する目処は立たなかったわけですから、方針転換が必要かもしれません。ただ、日朝国交樹立への障害にならないていどに、日本国民の拉致問題への怒りが静まるまでには、まだかなり時間がかかりそうですから、米朝の国交樹立の時期にもよりますが、日朝の国交樹立はすぐというわけにはいかないでしょう。
話を中朝戦争とその後の中国の分裂という問題に戻しますと、そもそも、中朝開戦とそれに伴う中国の分裂という発想は、中国の覇権・発展を阻止したいという、少なからぬ日本人の願望を反映したもので、それに現実の状況と地政学的観点を都合よく組み合わせたものにすぎないのではないか、というのが私の正直な感想です。確かに、中国が大混乱なく分裂すれば、日米にとって中国からの脅威は減少しますが、その一方で、再び大国として復興しつつあるロシアにたいする中国の圧力が減少したら、それはそれで日米にとって新たな難問になるようにも思われます。
まあそれはともかくとして、中国が分裂するような状況になったら、やはり混乱は避けられず、日本にもさまざまな悪影響が及ぶとみるのが妥当なところでしょう。はたしてその場合、そうした不利益を上回るような安全保障上の利益が日本にもたらされるかというと、かなり疑問です。中国がこのまま順調に大国として発展し、東アジアや東南アジアで覇権を確立するとの予想も楽観的にすぎるでしょうが、だからといって中国が分裂するという予想も疑問で、願望にすぎないように思われます。
中国では分裂は珍しくなかったと歴史を持ち出す見解もありますが、情報通信や軍事などの面での諸技術の発展・世界経済と深く結びついた中国経済など、過去とは大きく異なる社会になった現在、中国分裂の根拠に過去を持ち出してもあまり意味はないでしょう。
中国の前途は多難でしょうが、それでも、スケールメリットの問題があるので、中国が分裂する可能性は高くないと思います。おそらく、中朝開戦と中国の分裂という言説が日本の一部に浸透していることを知った中国人のなかには、中朝の対立と米朝接近は認めるにしても、日本人の焦りと劣等感を読み取り、優越感に浸る人もいることでしょう。
また、福田首相は中朝戦争に賛成なのにたいして、安倍前首相は統一教会の方針に背けないので、中朝戦争に反対していたとの指摘についても疑問です。確かに、安倍前首相と統一教会とは今でも関係があるでしょうし、東アジアでは必ずしも冷戦構造が崩壊したとは言えないでしょうが、安倍前首相の祖父の岸元首相の時ほどの親密な関係があるかというと、疑わしいのではないでしょうか。ただ、安倍前首相が拉致問題を利用してきたとの評価は、おおむね妥当だと思います。
今年9月の首相交代劇を受けて、中朝戦争に賛成の福田首相と、統一教会の意向に背けず中朝戦争に反対の安倍前首相、というメルマガでたびたび説かれた構図が真実だと語られるようになるかもしれませんが、それは虚構である可能性が高いように思われます。
確かに、北朝鮮と関係を改善するよう米国が安倍前首相に圧力をかけ、それが安倍前首相の辞任の要因になった可能性はありますが、それは中朝戦争のためではなく、イラクやイランの問題で手一杯の米国が、東アジア情勢を安定させるためだと思います。これまでは、拉致問題を抱える日本への配慮から、米国が日本に北朝鮮と国交を樹立するよう強い圧力をかけることはなかったのでしょうが、米国としてもこれいじょうは待てないということなのでしょう。
http://www.akashic-record.com/index.html
中朝戦争が直接扱われてはいませんが、じゅうような背景として描かれたのが佐々木氏の小説『天使の軍隊』です。小説という形式ですが、中朝戦争後の中国の分裂という予測が書かれており、以前このブログでも雑感を述べたことがあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/200708article_31.html
これは、地政学的観点からの科学的予測とのことですが、確かに地政学的観点はひじょうに重要であるものの、近い将来の中朝開戦という予測には疑問の残るところです。
中朝の利害には対立するところも少なからずあり、中朝間の関係は必ずしも良好ではない(北朝鮮のミサイルは、日本だけではなく中国をも標的としているでしょう)というよりも、むしろ険悪な関係に近いと言ってよく、それは2回目の南北首脳会談における終戦宣言をめぐる交渉で、北朝鮮が「中国排除論」を主張し、中国が激怒したことからもうかがえますが、北朝鮮が米国や日本と結んでも、中国と戦うことはないだろうと思います。まあそもそも、日本の経済界もそうですが、米国の経済界の主流も中朝戦争を望んでいるわけでもなさそうであり、米国が朝鮮戦争を画策するとは思えないのですが、もう少しこの問題について考えてみます。
北朝鮮にとって、技術面では中国よりも米国と組んだほうがよいでしょうし、陸地で国境を接している大国よりは、遠く離れた大国と組むほうが政治的自立という観点からもましなのは確かでしょう。北朝鮮側には、長期的に見れば中国は北朝鮮を併合するのではないか、との警戒もあるでしょう。北朝鮮が中国から米国に「鞍替え」しようとし、中国がその動きを警戒している、との報道もありました。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/korea/75344/
また、イラクで手一杯の米国としても、北朝鮮を攻める余裕はないでしょうから、北朝鮮との国交樹立には積極的だと思います。しかし、だからといって北朝鮮が中国に戦争を仕掛けるのは、いかに米国の支援があるとしても、北朝鮮にとって危険な選択となるのは間違いないでしょう。また中国としても、自国の安全保障という観点からすると、簡単に北朝鮮を米国・日本側に渡すつもりはないでしょう。
北朝鮮としては、冷戦期において中ソの間をしたたかに立ち回ったように、米中の間をも同様に立ち回ることが理想でしょう。もっとも、これはかなりの外交手腕が要求されるので、現在の日本がそうであるように、大国に従属するほうが安全であり楽でもあると言えます。
ただ、中国と違って米国は人権にうるさい国ですし、イラクのフセイン政権の軌跡を想起すれば、北朝鮮というか金王朝にとって、米国に全面的に依拠するのはかなり危険だという判断もあるでしょう。しかし、米国はイランやイラクの問題で手一杯ですから、北朝鮮が米国にかなり依存するようになっても、体制転覆の心配は短中期的にはない、という判断も可能です。
今後ありそうなのは、中国にたいする防波堤・中国の喉元につきつけられた匕首という立場(冷戦期のキューバと似ています)になり得る、と北朝鮮が日米に自国を高く売り込み、日米と北朝鮮との間で国交が樹立され、さまざまな援助を含む条約が締結される、という展開でしょうか。その場合、中国と北朝鮮の関係は険悪なままで、かつての中ソのように国境で武力衝突が起きる可能性はありますが、さすがに全面的な戦争にはならないと思います。
さまざまな援助を含む北朝鮮との国交樹立が、日本にとって法外に高い買い物になるのか、それとも適正な価格の買い物になるのか、私ていどの見識では予想しがたいところですが、北朝鮮との国交樹立は、日本にとって必ずしも悪い選択ではないように思います。
日朝国交樹立にさいして、最大の障害となるのは、拉致問題にたいする多数の日本国民の怒りの感情でしょうが、少なくとも表向きには北朝鮮への強硬姿勢を唱えた安倍政権下でも、拉致問題が解決する目処は立たなかったわけですから、方針転換が必要かもしれません。ただ、日朝国交樹立への障害にならないていどに、日本国民の拉致問題への怒りが静まるまでには、まだかなり時間がかかりそうですから、米朝の国交樹立の時期にもよりますが、日朝の国交樹立はすぐというわけにはいかないでしょう。
話を中朝戦争とその後の中国の分裂という問題に戻しますと、そもそも、中朝開戦とそれに伴う中国の分裂という発想は、中国の覇権・発展を阻止したいという、少なからぬ日本人の願望を反映したもので、それに現実の状況と地政学的観点を都合よく組み合わせたものにすぎないのではないか、というのが私の正直な感想です。確かに、中国が大混乱なく分裂すれば、日米にとって中国からの脅威は減少しますが、その一方で、再び大国として復興しつつあるロシアにたいする中国の圧力が減少したら、それはそれで日米にとって新たな難問になるようにも思われます。
まあそれはともかくとして、中国が分裂するような状況になったら、やはり混乱は避けられず、日本にもさまざまな悪影響が及ぶとみるのが妥当なところでしょう。はたしてその場合、そうした不利益を上回るような安全保障上の利益が日本にもたらされるかというと、かなり疑問です。中国がこのまま順調に大国として発展し、東アジアや東南アジアで覇権を確立するとの予想も楽観的にすぎるでしょうが、だからといって中国が分裂するという予想も疑問で、願望にすぎないように思われます。
中国では分裂は珍しくなかったと歴史を持ち出す見解もありますが、情報通信や軍事などの面での諸技術の発展・世界経済と深く結びついた中国経済など、過去とは大きく異なる社会になった現在、中国分裂の根拠に過去を持ち出してもあまり意味はないでしょう。
中国の前途は多難でしょうが、それでも、スケールメリットの問題があるので、中国が分裂する可能性は高くないと思います。おそらく、中朝開戦と中国の分裂という言説が日本の一部に浸透していることを知った中国人のなかには、中朝の対立と米朝接近は認めるにしても、日本人の焦りと劣等感を読み取り、優越感に浸る人もいることでしょう。
また、福田首相は中朝戦争に賛成なのにたいして、安倍前首相は統一教会の方針に背けないので、中朝戦争に反対していたとの指摘についても疑問です。確かに、安倍前首相と統一教会とは今でも関係があるでしょうし、東アジアでは必ずしも冷戦構造が崩壊したとは言えないでしょうが、安倍前首相の祖父の岸元首相の時ほどの親密な関係があるかというと、疑わしいのではないでしょうか。ただ、安倍前首相が拉致問題を利用してきたとの評価は、おおむね妥当だと思います。
今年9月の首相交代劇を受けて、中朝戦争に賛成の福田首相と、統一教会の意向に背けず中朝戦争に反対の安倍前首相、というメルマガでたびたび説かれた構図が真実だと語られるようになるかもしれませんが、それは虚構である可能性が高いように思われます。
確かに、北朝鮮と関係を改善するよう米国が安倍前首相に圧力をかけ、それが安倍前首相の辞任の要因になった可能性はありますが、それは中朝戦争のためではなく、イラクやイランの問題で手一杯の米国が、東アジア情勢を安定させるためだと思います。これまでは、拉致問題を抱える日本への配慮から、米国が日本に北朝鮮と国交を樹立するよう強い圧力をかけることはなかったのでしょうが、米国としてもこれいじょうは待てないということなのでしょう。
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