ネアンデルタール人のゲノム解読の問題点

 ネアンデルタール人のゲノム解読の途中成果が『ネイチャー』『サイエンス』で発表されたことは、昨年11月16日分の記事で紹介しましたが、ネアンデルタール人と現生人類の分岐年代や、ネアンデルタール人と現生人類との交雑の可能性といった問題について、この二つの論文の結論が異なる点については、当時から指摘されていました。

 『ネイチャー』論文は、ネアンデルタール人と現生人類分岐年代を『サイエンス』論文よりも新しく推定しており、ネアンデルタール人と現生人類との交雑の可能性についても、『サイエンス』論文では否定的だったのに、『ネイチャー』論文ではその可能性が示唆されていました。では、なぜ異なったのかということを追求した研究が最近になって発表され、報道されました。

 この研究では、『ネイチャー』論文と『サイエンス』論文のそれぞれのデータが再検証されています。『ネイチャー』論文のデータを再検証すると、分析対象の核DNAが大きな断片だと、『サイエンス』論文の提示した分岐年代よりも新しい結果になりますが、小さな断片の場合は、『サイエンス』論文と近い分岐年代が得られます。これは、大きな断片だと、現生人類のDNAにより汚染された部分が入り込むからではないか、と推測されています。

 『ネイチャー』論文の提示した結論が、じゅうらいの遺伝学や人類学の研究とは整合的でないのは、こうした現代人のDNAによる汚染のためではないか、とこの研究では推測されています。いっぽう、『サイエンス論文』においては、現代人のDNAによる汚染の可能性を発見することはできなかった、とのことです。

 またこの研究では、生物の死後のDNAの変化(DNAを構成する塩基において、シトシン→チミン、グアニン→アデニンといった変化が生じます)も指摘されています。この研究では、人類進化についての結論を下す前に、DNAデータを慎重に評価することが重要だと締めくくられています。


 以上、この研究についてざっと述べましたが、『ネイチャー』論文の依拠した試料が汚染されていたのか、現時点では断言の難しいところだと思います(その可能性は高そうですが)。確かに、ネアンデルタール人のDNA分析のさいに問題となるのは試料汚染で、今年7月23日分の記事でも紹介しましたが、この問題の解決はなかなか難しいようです。汚染の可能性を排除する手法の確立とともに、汚染かどうかを見分ける方法論の確立も必要になってくるのでしょう。次にネアンデルタール人のゲノム解読の成果が公表されたときに、試料汚染の問題も含めて、どのような成果が提示されるのか、期待しています。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック