人類の直立歩行の起源と大型類人猿
現存種と絶滅種のあわせて250種以上の哺乳綱(哺乳類)の骨(分析対象とした絶滅種の骨は、2億2千万年前までさかのぼります)を分析し、人類の二足歩行の起源について言及したフィラー博士の研究が発表され、報道されました。この研究では、直立歩行を示唆するような一連の変化が、現生大型類人猿の祖先にとって、標準的だったかもしれない、とされています。つまり、人類と、チンパンジーやゴリラやオランウータンのような大型類人猿の祖先は、人類のような祖先から進化したのではないか、というわけです。
フィラー博士は、直立姿勢のみに適した形態はかなり古くに現れ、現在のところ確認できる最古の直立姿勢の哺乳綱は、2100万年前頃にウガンダにいたモロトピテクス=ビショッピだ、と指摘しています。またフィラー博士は、フクロテナガザルの赤ん坊は直立二足歩行をするが、それは彼らにとって自然な歩き方なのだ、とも指摘しています。フィラー博士の見解は、近年有力になってきた、人類の直立二足歩行が樹上で始まったとする見解とも整合的です。
これは、人類の直立二足歩行こそが原始的行動形態なのであって、ゴリラやチンパンジーのようなナックルウォーク(手を丸めて手の甲の側を地面に当てつつ移動する歩き方)は、派生的特徴に基づく行動形態なのだ、ということです。しかし、ゴリラはチンパンジーと人類が分岐する前に三者の共通祖先から分岐していますから、ゴリラとチンパンジーは別々にナックルウォークを発展させていったことになります。
以上、ざっとフィラー博士の研究についての報道を見てきましたが、直立二足歩行のほうがナックルウォークよりも古いという見解は、革命的なものと言えます。そういう見解もあり得るという噂は聞いたことがありますが、こうして具体的に論じられると、やはり驚きを隠せません。
直立二足歩行のほうがナックルウォークよりも新しいと考えられたのは、人類にもっとも近縁な現存生物であるチンパンジーとゴリラが、ともにナックルウォークをしているからなのですが、チンパンジーとゴリラは原始的形態を維持しており、人類のほうが特殊化しているのであって、直立二足歩行こそが、人類と他の生物を分かつ最重要の基準なのだ、という大前提(思い込み)がその背景にあったとも言えます。
もっとも、ナックルウォークが直立二足歩行よりも先んじていたと考えられたのには、じゅうぶんな根拠もありました。分子系統学の進展により、上述したように、人類・チンパンジー・ゴリラの共通祖先からまずゴリラが分岐し、次に人類とチンパンジーが分岐したことが判明しましたが、そうすると、人類とチンパンジーの共通祖先の段階まで、直立二足歩行ではなく、ナックルウォークが行なわれていたと考えるほうが合理的です。そうでないと、上述したように、チンパンジーとゴリラが別々にナックルウォークを発展させていったことになります。
これは、進化のうえではあまりなさそうなことなのですが、フィラー博士はもちろんそれを承知の上で、直立二足歩行が先行していた、と論じているわけです。もし、フィラー博士の見解が妥当だとすると、人類の再定義も必要になってくるわけで、フィラー博士の研究はたいへん大きな問題を提示したと言えます。また、500万年前よりもさかのぼる、人骨とされている化石(サヘラントロプス=チャデンシスやオロリン=トゥゲネンシスなど)も、現代人とつながるのか、そもそも人類に含まれるのか(チンパンジーよりも現代人に近いのか)、怪しいことになりかねません。
フィラー博士の研究は、チンパンジーとゴリラで別々にナックルウォークが発展してきたことを意味しますから、私はすぐには全面的に賛同できません。しかし、チンパンジーとゴリラのナックルウォークが、どのように似ていてどのように異なっているのか、形態学・遺伝学から研究が進み、チンパンジーとゴリラのナックルウォークは相似であって相同ではない、との見解が導かれれば、フィラー博士の研究を支持することになるでしょう。ともかく、今後の研究の進展に期待しています。
フィラー博士は、直立姿勢のみに適した形態はかなり古くに現れ、現在のところ確認できる最古の直立姿勢の哺乳綱は、2100万年前頃にウガンダにいたモロトピテクス=ビショッピだ、と指摘しています。またフィラー博士は、フクロテナガザルの赤ん坊は直立二足歩行をするが、それは彼らにとって自然な歩き方なのだ、とも指摘しています。フィラー博士の見解は、近年有力になってきた、人類の直立二足歩行が樹上で始まったとする見解とも整合的です。
これは、人類の直立二足歩行こそが原始的行動形態なのであって、ゴリラやチンパンジーのようなナックルウォーク(手を丸めて手の甲の側を地面に当てつつ移動する歩き方)は、派生的特徴に基づく行動形態なのだ、ということです。しかし、ゴリラはチンパンジーと人類が分岐する前に三者の共通祖先から分岐していますから、ゴリラとチンパンジーは別々にナックルウォークを発展させていったことになります。
以上、ざっとフィラー博士の研究についての報道を見てきましたが、直立二足歩行のほうがナックルウォークよりも古いという見解は、革命的なものと言えます。そういう見解もあり得るという噂は聞いたことがありますが、こうして具体的に論じられると、やはり驚きを隠せません。
直立二足歩行のほうがナックルウォークよりも新しいと考えられたのは、人類にもっとも近縁な現存生物であるチンパンジーとゴリラが、ともにナックルウォークをしているからなのですが、チンパンジーとゴリラは原始的形態を維持しており、人類のほうが特殊化しているのであって、直立二足歩行こそが、人類と他の生物を分かつ最重要の基準なのだ、という大前提(思い込み)がその背景にあったとも言えます。
もっとも、ナックルウォークが直立二足歩行よりも先んじていたと考えられたのには、じゅうぶんな根拠もありました。分子系統学の進展により、上述したように、人類・チンパンジー・ゴリラの共通祖先からまずゴリラが分岐し、次に人類とチンパンジーが分岐したことが判明しましたが、そうすると、人類とチンパンジーの共通祖先の段階まで、直立二足歩行ではなく、ナックルウォークが行なわれていたと考えるほうが合理的です。そうでないと、上述したように、チンパンジーとゴリラが別々にナックルウォークを発展させていったことになります。
これは、進化のうえではあまりなさそうなことなのですが、フィラー博士はもちろんそれを承知の上で、直立二足歩行が先行していた、と論じているわけです。もし、フィラー博士の見解が妥当だとすると、人類の再定義も必要になってくるわけで、フィラー博士の研究はたいへん大きな問題を提示したと言えます。また、500万年前よりもさかのぼる、人骨とされている化石(サヘラントロプス=チャデンシスやオロリン=トゥゲネンシスなど)も、現代人とつながるのか、そもそも人類に含まれるのか(チンパンジーよりも現代人に近いのか)、怪しいことになりかねません。
フィラー博士の研究は、チンパンジーとゴリラで別々にナックルウォークが発展してきたことを意味しますから、私はすぐには全面的に賛同できません。しかし、チンパンジーとゴリラのナックルウォークが、どのように似ていてどのように異なっているのか、形態学・遺伝学から研究が進み、チンパンジーとゴリラのナックルウォークは相似であって相同ではない、との見解が導かれれば、フィラー博士の研究を支持することになるでしょう。ともかく、今後の研究の進展に期待しています。
この記事へのコメント
ただ、本文中でも述べたように、解決すべき問題があるので、かりに定説になるとしても、ずいぶんと先のことでしょう。
もしフィラー博士の見解が真相に近いとすると、中新世と鮮新世においては、直立二足歩行のヒト上科の生物が多数いて、そのなかのごく一部が現代人へとつながっていたのでしょう。
そうすると、現在のところ人類と分類されている中新世と鮮新世の化石のなかには、現代人の祖先とはかなり遠い関係にあるものも含まれているのかもしれません。