ドマニシ人骨群の分析

 グルジアのドマニシで発見された180~170万年前頃の人骨群を分析した研究が、ニューヨークタイムズBBCなどで報道されました。8月10日分の記事でも紹介したように、エレクトス(アフリカの初期エレクトスをエルガスターと区分する見解もあります)がアフリカにおいてハビリスから進化したという通説を疑う見解が提示されており、エレクトスだけではなくホモ属自体がアフリカ以外の地域で進化したのではないか、という見解もあり、このブログで紹介したことがあります。

 上記に引用した報道では、このように異説が唱えられている要因として、300~200万年前頃のホモ属もしくはホモ属へとつながる化石が少ないことから、ホモ属誕生の過程の復元が困難であることが強調されています。

 そうした状況のなか公表されたこの研究では、ドマニシで新たに発掘された思春期の個体一人分の人骨と、成人個体三人分の人骨との分析により、これまで不充分だった後頭部の形態学的分析も含みつつ、ドマニシの人骨群の複雑な特徴が検討されています。

 ドマニシの人骨群がハビリスもしくはアウストラロピテクス属からエレクトスへと移行する過渡的な形態をしていることは以前から指摘されていましたが、この研究でも、ドマニシの人骨群の形態は原始的特徴と派生的特徴の混在である、と指摘されています。原始的特徴としては、小柄な体型・低い脳化指数(全体重に占める脳の重さの割合)・上腕骨後捻角の不在が、派生的特徴としては、現生人類のような身体比と下肢の形態(長距離歩行の能力を示しています)が認められます。

 こうした分析から、ドマニシの人類集団はハビリスからエレクトスへと進化する過渡的な存在であり、ホモ属の起源がアフリカ外にあることを示唆している、との解釈も可能でしょう。しかし、上記に引用した報道にあるように、ドマニシの人類集団は、エレクトスの多様性と地域的適応を示している、とのアントン博士の解釈も可能でしょう。

 私は、アフリカにおいてハビリス的な人類の一部からエレクトス(エルガスターという種区分を認めればエルガスターということになります)が進化し、ハビリス的な人類も典型的なエレクトスも両者の中間的な人類もアフリカ外に進出した、という可能性が高いと思います。その場合、フローレス島の更新世の人骨群(フロレシエンシス)が、病変の個体も含む現生人類の一集団でないとしたら、フロレシエンシスは、ハビリス的な人類集団の子孫か、ハビリスとエレクトスとの中間的な人類集団の子孫である可能性が高そうです。

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