ネアンデルタール人の歯の手入れ、ネアンデルタール人の絶滅と気候との関係

 ネアンデルタール人について、二つほど報道がありました。一つ目は、ネアンデルタール人の歯の手入れについてです。鹿などの化石とともにマドリッドで発見された、63400年前頃のネアンデルタール人(推定30歳)の二つの臼歯を調べたところ、歯の手入れをしていたことが判明した、との見解が報道されました。二つの臼歯には、鋭い物体が通ったことにより形成される溝がありましたが、これは歯を磨くために小さな棒が使用されたことを確定します、と研究者は指摘しています。

 現生人類のアフリカ単一起源説が優勢となって以降、ネアンデルタール人と現生人類との違いを強調し、ネアンデルタール人の「人間らしさ」を否定する見解が優勢になりましたが、この見解が妥当なものだとすると、ネアンデルタール人の「人間らしさ」を印象づけることになるかもしれません。

 もっとも、人類の歯の手入れについては、200万年前頃までさかのぼるとの見解もあるようなので、歯の手入れを根拠にネアンデルタール人と現生人類との行動面での類似性を強調するのには慎重でなければならないでしょう。ネアンデルタール人の歯はかなりの数が発見されているはずですので、ネアンデルタール人が本当に歯の手入れをしていたのか、今後の研究の進展に期待したいところです。


 もう一つの報道は、ネアンデルタール人の絶滅と気候とを関連づけた研究です。21500年前よりもさかのぼる年代の放射性炭素年代を暦年代に較正することが難しいことと、気候上の出来事を年代順に配置する基準年表がないことが原因で、旧石器時代の化石や遺物を正確な気候的枠組みに位置づけることは、これまであまり進んでいませんでした。しかし、今回提示された手法においては、ベネズエラ沖のカリアコ海盆の深海から得られた記録により、最終氷期の千年単位での気候的文脈に、放射性炭素年代を位置づけることができます。

 この方法を、ジブラルタルのゴーラム洞窟で発見された、32000年前・28000年前・24000年前(この年代には疑問が呈されています)のムスティエ文化の遺物(おそらくネアンデルタール人の産物)に用いると、32000年前・28000年前は、亜氷期と亜間氷期が訪れる気候の不安定な時期に対応し、24000年前は、欧州北部において氷床の拡大が始まるという大きな気候変動の始まりの時期に相当します。

 しかし、この24000年前においても、温暖な海流のため、ジブラルタル周辺はあまり気候的影響を受けなかっただろう、と研究者たちは推測しています。ネアンデルタール人は気候の不安定な時期をも生き延びており、研究者たちは、ネアンデルタール人の絶滅を単一の気候上の出来事に帰することはできないだろう、と推測しています。

 現在のところ、ネアンデルタール人が生存していた年代としては最古であり、ネアンデルタール人の絶滅時期とも考えられる24000年前の気候変動についても、気候変動はネアンデルタール人の絶滅に直接影響を与えたのではなく、他の人類集団との競争激化といった間接的影響を与えたのではないか、と研究者たちは推測しています。

 以前このブログで紹介した、気候変動とネアンデルタール人の絶滅との関係を追及した研究とは異なる結論になっていますが、ネアンデルタール人にかぎらず、更新世の気候変動と人類進化との関係は興味深い研究課題であり、今後こうした研究が進展することを期待しています。

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