ハビリスは現代人の祖先ではない?

 ケニアのトゥルカナ湖近くで2000年に発見された、155万年前頃のホモ=エレクトス(鮮新世末?~更新世前期におけるアフリカのエレクトス的な人骨を、エルガスターという種に区分する研究者います)人骨と、144万年前頃のホモ=ハビリス人骨は、エレクトスがハビリスから進化したという、人類進化の通説を修正するものになるかもしれない、との研究報道されました。BBCなどでも報道されています。

 これまで、ハビリスが存在した下限年代は170~160万年前頃とされていましたから、144万年前頃となると、現在のところ最新のハビリス人骨ということになります。ハビリスとエレクトスが50万年ほど共存していたとなると、ハビリスをエレクトスの祖先みなすのは難しく、ハビリスとエレクトスには、まだ発見されていない共通の祖先がいたのではないか、と発見者たちは指摘しています。また、ハビリスとエレクトスとの長期間の共存があったということは、食性が違うなど、両者の生態学的地位が異なっていたためではないか、とも指摘されています。

 人類の系統樹の見直し以外にも、この報道には注目すべき点があります。155万年前頃のエレクトス人骨は、これまで知られていたエレクトス人骨と比較してかなり小さく、エレクトスの性的二型の大きさと、ハーレム的な生活形態を研究者たちは示唆しています。真のホモ属であるエレクトスは、かなりホモ=サピエンス(現生人類)に近いとされており、性差は小さかったと推測されていただけに、意外な発見だと言えます。

 ただ、この報道で示された見解には疑問があります。そもそも、ハビリスはかなり定義の曖昧な種であり、アウストラロピテクス属ではなく、真のホモ属であるエレクトス(またはエルガスター)でもない、中間的な人骨群を寄せ集めたような側面が多分にありました。おそらく、ハビリスと分類されている多様な人類集団のうちの一部がエレクトスに進化した一方で、ハビリス的な特徴を保持した人類も、かなり後まで生存していたということなのでしょう。ハビリスがエレクトス(またはエルガスター)の登場後にも存在していたことは以前より判明していたことで、興味深い発見ではありますが、人類進化の通説を覆すほどの驚くべき発見ではないように思われます。

 また、エレクトスの性的二型の大きさとの指摘も疑問で、エレクトスの個体差の大きさを示しているだけの可能性が高いように思われます。エレクトスの祖先である可能性が高いアウストラロピテクス=アファレンシスも、以前は性的二型の大きさが指摘されていましたが、近年では、現代人とさほど変らない性差だったと指摘されています。おそらくエレクトスも、性差はさほど大きくなく、個体差が大きかったということなのでしょう。

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