『イリヤッド』の検証・・・人類の禁忌について(3)
前回
https://sicambre.seesaa.net/article/200707article_19.html
の続きです。
前回は、ギリシアのミハリス=アウゲリス編纂の『イソップ物語』・出雲民話・アフリカのコイ族の伝説を取り上げて、人類の禁忌について検証しました。今回は、
(D)ヘラクレス神話
(E)ギリシアのミハリス=アウゲリス編纂の『イソップ物語』所収の「柱の王国」
(F) 『千一夜物語』「真鍮の都」
について検証していくことにしますが、まずは、それぞれの説話について粗筋を紹介しておきます。
なお、作中においては、『千一夜物語』「真鍮の都」には原型となった物語があり、それはエジプトにおいて語り伝えられていた、とされています。そこで、通常版は(F-1)、その原型であるエジプト版は(F-2)とします。(F-2)は、(F-1)と異なる箇所を紹介します。「真鍮の都」については、今年の3月29日分の記事
https://sicambre.seesaa.net/article/200703article_30.html
にてやや詳しく紹介しています。
(D) 結婚して平穏な日々を送るヘラクレスに嫉妬した女神ヘラは、ヘラクレスに「狂乱」という名の呪いをかけます。狂乱から目覚めたヘラクレスは、自分が妻子を殺してしまったことに気づき、その大罪を悔いて、私は悪夢を見ていた、そして二度と夢は見ない、と語ります。
ヘラクレスは自らの大罪を償うためにデルポイへと赴き、エウリュステウス王を訪れ、王の命じる十二の難行をやり遂げねばならない、とのアポロンの神託を巫女のピュティアより受けます。さらに巫女は、十二の難行をやり遂げたとき、必ず安寧が訪れる、とヘラクレスに告げます。
西の果ての島(ヘスペリデス)から黄金の林檎を持ち帰るよう命ぜられたヘラクレスでしたが、その島の場所が分からず、途方にくれていたところ、その林檎がアトラスの三人の娘に守られていることを知り、天空を支える神であるアトラスを訪ねます。
アトラスは、自分が西方の島に赴き、黄金の林檎を渡すよう娘を説得するから、その間、自分の代わりに天空を支えてもらえないだろうか、と述べます。無事に十二の難行をやり遂げたヘラクレスには、再び安寧が訪れました。
(E) 夢を見ることのできない梟の女王は、どうしたら夢を見られるのか?と兎の女王に相談しました。兎の女王は、夜寝ないからだ、と梟の女王に答えます。夜寝ることにした梟ですが、それでも夢を見られませんでした。そこで梟の女王は、本当のことを教えてくれないとあなたを食べてしまう、と兎の女王を脅しました。
慌てた兎の女王は、「兎の国の中央にそびえる柱のてっぺんには神様が住んでいます。夢を見たいなら、柱を登って神様にお願いしなければなりません」と本当のことを教えました。梟の女王はその柱を自分のものにしようと、兎の国に宣戦布告しました。戦うことが嫌いな兎の女王はあっさりと国を明け渡し、梟の女王は神様に会うために柱を登っていきました。
夢を見たい梟の女王は一心に柱を登っていきましたが、登っても登っても神様のいる頂上にたどり着きません。梟の女王はとても疲れて、神様に会うことを諦めました。梟の女王は神様に会おうとした傲慢さを恥じ、自ら飛ぶことをやめました。天の神様は梟の女王をあわれに思い、落ちていく彼女に夢を贈りました。
梟の女王は死んでしまいました。梟の女王の遺体を見た兎の女王は、神様が落ちてきたと勘違いしました。神様が死んだと思った兎の女王は悲しみに暮れ、泣きながら大地を踏み鳴らしました。やがて女王の悲しみは国中に広がり、すべての兎が地面を踏み鳴らしました。すると地震が起きて兎の国は沈み、兎たちはちりじりに逃げていきました。
(F-1) アブド=アル=マリク=ビン=マルワン大公は、真鍮の都とソロモンの壺の探索を、部下のエジプト太守ムサ=ビン=ヌサイルに命じます。真鍮の都は、二つの巨大な塔、もしくは真鍮の柱が立つ、かつて栄えた都市でしたが、後にゴーストタウンとなりました。ヌサイル率いる一行は、二年数ヶ月の苦難の旅の末に真鍮の都にたどり着きますが、その途中、今のモロッコ近辺で、ヌサイルは煙突に似た石柱に括りつけられた魔物と出会い、真鍮の都の場所を聞き出します。
しかし、都の近辺にはノアの子ハムの末裔が住んでいるが、他のアダムの子らと一度も接触したことがない、と魔物は奇妙なことを言います。ゴーストタウンとなった真鍮の都には、金銀財宝が眠っており、都の中には美しい女王のミイラがありました。一行は真鍮の都から金銀財宝をかっさらい、アル=カルカル海からソロモンの壺を引き上げて凱旋帰国しました。
(F-2)真鍮の都への道中、今のモロッコ付近で、天空を支え、動くことのできない神と一行は出会います。しかし、都の近辺にはノアの子ヤペテの末裔が住んでいるが、他のアダムの子らと一度も接触したことがない、とこの神は奇妙なことを話します。この神から真鍮の都への行きかたを詳しく聞いた一行は、泥で淀んだ海を歩いて渡り、かつてフェニキア人が砦と呼んだ島に行きます。一行はその島から再び海を歩き、砂漠と沼地を進んで、真鍮の都にたどり着きました。
しかし、財宝をどうするか、一行の間で意見が分かれ、大公に献上しようと言う隊長にたいして、呪われた場所だから封印すべきだ、と案内役の長老は主張します。両者は互いに欲や主張をむき出しにして譲らず、全員が殺し合って死んでしまい、真鍮の都はゴーストタウンに戻り、沼と砂の底に沈んでしまいました。
まずは(D)ヘラクレス神話についてですが、作中においては、デル=ポスト教授の言うように、ヘスペリデスはアトランティスのことです。また、ヘラクレスが求めたのは黄金の林檎ではなく、黄金の羊だという伝承もあり、作中では、後者のほうがより真実を反映している、とされているようです。アトランティス文明を築いた人々は、羊の皮で川の泥をすくい、砂金を採取していた、とグレコ神父は語っています。黄金の羊は、砂金採取の事実を象徴的に語ったものであり、アトランティス文明の豊かさ・先進性を象徴したものでもあるのでしょう。
アトラスの三人の娘とは、作中ではネート・アテナ・メドゥーサの三女神とされています。入矢の言うように、この三女神は元々一体だったのでしょうし、地中海沿岸の諸文明の信仰が、アトランティス文明にあることをも示しているのでしょう。人類の禁忌との関連では、ヘラクレスが絶望して夢を見なくなった経緯が、重要な手がかりではないのかと思ったのですが、どうもこれは、バシャの行為(10~11巻)と重ね合わせるために引用されたようにも思われます。と言いますか、ヘラクレスの神話になぞらえるように、バシャの物語が作られたということなのでしょう。
次に(E)「柱の王国」についてです。兎とはイベリア族のことで、梟とはアテナ神を信奉する信奉する種族(ディオドロスの云うアマゾネスで、ベルベル人の祖先)のことだ、と入矢は推測しています。ただ、作中での流れからすると、兎は、イベリア族のみというより、アトランティス文明を担った人々と解釈するほうがよさそうに思えます。まあどちらにしても、「柱の王国」とは、アトランティス滅亡の様相を象徴的に語り伝えた説話と言えそうですが、梟の女王は夢を見られない、とされているのが気になります。
連載の完結した現時点では、アトランティス人のみがはっきりと人類の禁忌を伝えてきたため、アトランティス人は絶望して夢を見られなくなったので、アトランティス文明の本拠?である「彼の島」は沈んだ、と考えるのがよさそうに思えます。しかし「柱の王国」では、夢を見られないのは梟の女王であり、兎の女王は夢を見る方法を知っているとされています。
以前は、兎の女王は夢を見られるようになる方法は知っていても、夢を見られるとはされていないので、兎=アトランティス人も夢を見られない、と解釈していましたが、梟の女王も夢を見られないことについては、改めて考え直す必要があります。ただ、梟の女神の彫像は、本当はネアンデルタール人を意味していたのだ、ということが判明した後でも、梟の女王が夢を見られないことの意味がよく分かりません。
夢を見ることを、高度な精神生活とその結果としての文明だとみなすと、「柱の王国」とは、アトランティスの高度な文明を手に入れるために、後進的なアマゾネスがアトランティスに攻め入ったことを、象徴的に語った説話かなと思いますが、どうも自信はありません。ただ、ほかに上手い解釈を思いつかないので、とりあえずこの見解を採っておきます。
フクロウの女王が神に会えずに墜落したのは、アマゾネスが人類の禁忌を知り、絶望したことを象徴しているのかもしれませんし、侵攻したアマゾネス軍も、地震と津波?で全滅したか、大打撃を受けたことを意味しているのかもしれません。兎の女王が、梟の女王の遺体を見て、神が死んだと誤解し、嘆き悲しんだのは、梟が元々はネアンデルタール人を意味していたという視点から読み直すと、人類の禁忌についての私の見解と通ずるところがあるかな、とも思います。
梟=ネアンデルタール人が絶滅したことを見たアトランティス人は、自らの絶滅の不可避と信仰の空しさを知って絶望した、というわけですが、「柱の王国」がアマゾネスのアトランティス侵攻を物語っているのだとしたら、梟の女王の死をネアンデルタール人の絶滅の象徴と考えるのは、かなり厳しいと言わねばなりません。説話とは時系列に曖昧なところがあるもので、「柱の王国」は、アトランティス文明の滅亡と人類の禁忌を物語っているのだ、とまとめておきますが、強引なのは否めません。
なぜアトランティスが「柱の王国」とされたのか、どうもよく分からなかったのですが、新石器時代のイベリア半島でよく見つかる、梟を模したとされる柱状の彫像に由来するのかな、と思います。以前、柱とは高度なアトランティス文明の象徴だと推測したのですが、すでに述べたように、この梟が元々はネアンデルタール人を意味していたとすると、「柱の王国」とは、ネアンデルタール人が、アトランティス文明または全人類の文明の源である、ということを意味しているのかなと思います。そうすると、知恵の源という意味のバフォメッドはネアンデルタール人である、という入矢の推測とも合致します。
(F-1・2)は、基本的にはアトランティスの場所の手がかりであり、作中では、(F-2)エジプト版のほうが、真相に近いものとされているようです。人類の禁忌との関わりについてはどうもよく分からないのですが、エジプト版では、都の近辺の住人がヤペテの末裔とされているのが気になるところです。とはいえ、これが何を意味しているのかとなると、私の見識では推測の難しいところがあります。
エジプト版における仲間割れは、アトランティス文明の探索者が、「偉大なるウサギ」遺跡の地下宮殿にたどり着き、アトランティス文明が伝えてきた人類の禁忌を知ってしまった結果、アトランティス文明を封印するか否かで対立したことを象徴しているのかな、と思います。また、アトランティス文明を封印しようとする秘密結社が、アトランティス探索者を殺害してきたことをも象徴しているのかな、と思います。おそらく「真鍮の都」は、そのエジプト版も含めて、人類の禁忌の直接的な手がかりにはならないのでしょう。
これまで三回にわたって、人類の禁忌について推測してきましたが、人類の禁忌にしぼって検証するのはここまでとします。次回以降は、さまざまな視点から、改めて1話より順に作中の設定や物語を検証していきます。
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の続きです。
前回は、ギリシアのミハリス=アウゲリス編纂の『イソップ物語』・出雲民話・アフリカのコイ族の伝説を取り上げて、人類の禁忌について検証しました。今回は、
(D)ヘラクレス神話
(E)ギリシアのミハリス=アウゲリス編纂の『イソップ物語』所収の「柱の王国」
(F) 『千一夜物語』「真鍮の都」
について検証していくことにしますが、まずは、それぞれの説話について粗筋を紹介しておきます。
なお、作中においては、『千一夜物語』「真鍮の都」には原型となった物語があり、それはエジプトにおいて語り伝えられていた、とされています。そこで、通常版は(F-1)、その原型であるエジプト版は(F-2)とします。(F-2)は、(F-1)と異なる箇所を紹介します。「真鍮の都」については、今年の3月29日分の記事
https://sicambre.seesaa.net/article/200703article_30.html
にてやや詳しく紹介しています。
(D) 結婚して平穏な日々を送るヘラクレスに嫉妬した女神ヘラは、ヘラクレスに「狂乱」という名の呪いをかけます。狂乱から目覚めたヘラクレスは、自分が妻子を殺してしまったことに気づき、その大罪を悔いて、私は悪夢を見ていた、そして二度と夢は見ない、と語ります。
ヘラクレスは自らの大罪を償うためにデルポイへと赴き、エウリュステウス王を訪れ、王の命じる十二の難行をやり遂げねばならない、とのアポロンの神託を巫女のピュティアより受けます。さらに巫女は、十二の難行をやり遂げたとき、必ず安寧が訪れる、とヘラクレスに告げます。
西の果ての島(ヘスペリデス)から黄金の林檎を持ち帰るよう命ぜられたヘラクレスでしたが、その島の場所が分からず、途方にくれていたところ、その林檎がアトラスの三人の娘に守られていることを知り、天空を支える神であるアトラスを訪ねます。
アトラスは、自分が西方の島に赴き、黄金の林檎を渡すよう娘を説得するから、その間、自分の代わりに天空を支えてもらえないだろうか、と述べます。無事に十二の難行をやり遂げたヘラクレスには、再び安寧が訪れました。
(E) 夢を見ることのできない梟の女王は、どうしたら夢を見られるのか?と兎の女王に相談しました。兎の女王は、夜寝ないからだ、と梟の女王に答えます。夜寝ることにした梟ですが、それでも夢を見られませんでした。そこで梟の女王は、本当のことを教えてくれないとあなたを食べてしまう、と兎の女王を脅しました。
慌てた兎の女王は、「兎の国の中央にそびえる柱のてっぺんには神様が住んでいます。夢を見たいなら、柱を登って神様にお願いしなければなりません」と本当のことを教えました。梟の女王はその柱を自分のものにしようと、兎の国に宣戦布告しました。戦うことが嫌いな兎の女王はあっさりと国を明け渡し、梟の女王は神様に会うために柱を登っていきました。
夢を見たい梟の女王は一心に柱を登っていきましたが、登っても登っても神様のいる頂上にたどり着きません。梟の女王はとても疲れて、神様に会うことを諦めました。梟の女王は神様に会おうとした傲慢さを恥じ、自ら飛ぶことをやめました。天の神様は梟の女王をあわれに思い、落ちていく彼女に夢を贈りました。
梟の女王は死んでしまいました。梟の女王の遺体を見た兎の女王は、神様が落ちてきたと勘違いしました。神様が死んだと思った兎の女王は悲しみに暮れ、泣きながら大地を踏み鳴らしました。やがて女王の悲しみは国中に広がり、すべての兎が地面を踏み鳴らしました。すると地震が起きて兎の国は沈み、兎たちはちりじりに逃げていきました。
(F-1) アブド=アル=マリク=ビン=マルワン大公は、真鍮の都とソロモンの壺の探索を、部下のエジプト太守ムサ=ビン=ヌサイルに命じます。真鍮の都は、二つの巨大な塔、もしくは真鍮の柱が立つ、かつて栄えた都市でしたが、後にゴーストタウンとなりました。ヌサイル率いる一行は、二年数ヶ月の苦難の旅の末に真鍮の都にたどり着きますが、その途中、今のモロッコ近辺で、ヌサイルは煙突に似た石柱に括りつけられた魔物と出会い、真鍮の都の場所を聞き出します。
しかし、都の近辺にはノアの子ハムの末裔が住んでいるが、他のアダムの子らと一度も接触したことがない、と魔物は奇妙なことを言います。ゴーストタウンとなった真鍮の都には、金銀財宝が眠っており、都の中には美しい女王のミイラがありました。一行は真鍮の都から金銀財宝をかっさらい、アル=カルカル海からソロモンの壺を引き上げて凱旋帰国しました。
(F-2)真鍮の都への道中、今のモロッコ付近で、天空を支え、動くことのできない神と一行は出会います。しかし、都の近辺にはノアの子ヤペテの末裔が住んでいるが、他のアダムの子らと一度も接触したことがない、とこの神は奇妙なことを話します。この神から真鍮の都への行きかたを詳しく聞いた一行は、泥で淀んだ海を歩いて渡り、かつてフェニキア人が砦と呼んだ島に行きます。一行はその島から再び海を歩き、砂漠と沼地を進んで、真鍮の都にたどり着きました。
しかし、財宝をどうするか、一行の間で意見が分かれ、大公に献上しようと言う隊長にたいして、呪われた場所だから封印すべきだ、と案内役の長老は主張します。両者は互いに欲や主張をむき出しにして譲らず、全員が殺し合って死んでしまい、真鍮の都はゴーストタウンに戻り、沼と砂の底に沈んでしまいました。
まずは(D)ヘラクレス神話についてですが、作中においては、デル=ポスト教授の言うように、ヘスペリデスはアトランティスのことです。また、ヘラクレスが求めたのは黄金の林檎ではなく、黄金の羊だという伝承もあり、作中では、後者のほうがより真実を反映している、とされているようです。アトランティス文明を築いた人々は、羊の皮で川の泥をすくい、砂金を採取していた、とグレコ神父は語っています。黄金の羊は、砂金採取の事実を象徴的に語ったものであり、アトランティス文明の豊かさ・先進性を象徴したものでもあるのでしょう。
アトラスの三人の娘とは、作中ではネート・アテナ・メドゥーサの三女神とされています。入矢の言うように、この三女神は元々一体だったのでしょうし、地中海沿岸の諸文明の信仰が、アトランティス文明にあることをも示しているのでしょう。人類の禁忌との関連では、ヘラクレスが絶望して夢を見なくなった経緯が、重要な手がかりではないのかと思ったのですが、どうもこれは、バシャの行為(10~11巻)と重ね合わせるために引用されたようにも思われます。と言いますか、ヘラクレスの神話になぞらえるように、バシャの物語が作られたということなのでしょう。
次に(E)「柱の王国」についてです。兎とはイベリア族のことで、梟とはアテナ神を信奉する信奉する種族(ディオドロスの云うアマゾネスで、ベルベル人の祖先)のことだ、と入矢は推測しています。ただ、作中での流れからすると、兎は、イベリア族のみというより、アトランティス文明を担った人々と解釈するほうがよさそうに思えます。まあどちらにしても、「柱の王国」とは、アトランティス滅亡の様相を象徴的に語り伝えた説話と言えそうですが、梟の女王は夢を見られない、とされているのが気になります。
連載の完結した現時点では、アトランティス人のみがはっきりと人類の禁忌を伝えてきたため、アトランティス人は絶望して夢を見られなくなったので、アトランティス文明の本拠?である「彼の島」は沈んだ、と考えるのがよさそうに思えます。しかし「柱の王国」では、夢を見られないのは梟の女王であり、兎の女王は夢を見る方法を知っているとされています。
以前は、兎の女王は夢を見られるようになる方法は知っていても、夢を見られるとはされていないので、兎=アトランティス人も夢を見られない、と解釈していましたが、梟の女王も夢を見られないことについては、改めて考え直す必要があります。ただ、梟の女神の彫像は、本当はネアンデルタール人を意味していたのだ、ということが判明した後でも、梟の女王が夢を見られないことの意味がよく分かりません。
夢を見ることを、高度な精神生活とその結果としての文明だとみなすと、「柱の王国」とは、アトランティスの高度な文明を手に入れるために、後進的なアマゾネスがアトランティスに攻め入ったことを、象徴的に語った説話かなと思いますが、どうも自信はありません。ただ、ほかに上手い解釈を思いつかないので、とりあえずこの見解を採っておきます。
フクロウの女王が神に会えずに墜落したのは、アマゾネスが人類の禁忌を知り、絶望したことを象徴しているのかもしれませんし、侵攻したアマゾネス軍も、地震と津波?で全滅したか、大打撃を受けたことを意味しているのかもしれません。兎の女王が、梟の女王の遺体を見て、神が死んだと誤解し、嘆き悲しんだのは、梟が元々はネアンデルタール人を意味していたという視点から読み直すと、人類の禁忌についての私の見解と通ずるところがあるかな、とも思います。
梟=ネアンデルタール人が絶滅したことを見たアトランティス人は、自らの絶滅の不可避と信仰の空しさを知って絶望した、というわけですが、「柱の王国」がアマゾネスのアトランティス侵攻を物語っているのだとしたら、梟の女王の死をネアンデルタール人の絶滅の象徴と考えるのは、かなり厳しいと言わねばなりません。説話とは時系列に曖昧なところがあるもので、「柱の王国」は、アトランティス文明の滅亡と人類の禁忌を物語っているのだ、とまとめておきますが、強引なのは否めません。
なぜアトランティスが「柱の王国」とされたのか、どうもよく分からなかったのですが、新石器時代のイベリア半島でよく見つかる、梟を模したとされる柱状の彫像に由来するのかな、と思います。以前、柱とは高度なアトランティス文明の象徴だと推測したのですが、すでに述べたように、この梟が元々はネアンデルタール人を意味していたとすると、「柱の王国」とは、ネアンデルタール人が、アトランティス文明または全人類の文明の源である、ということを意味しているのかなと思います。そうすると、知恵の源という意味のバフォメッドはネアンデルタール人である、という入矢の推測とも合致します。
(F-1・2)は、基本的にはアトランティスの場所の手がかりであり、作中では、(F-2)エジプト版のほうが、真相に近いものとされているようです。人類の禁忌との関わりについてはどうもよく分からないのですが、エジプト版では、都の近辺の住人がヤペテの末裔とされているのが気になるところです。とはいえ、これが何を意味しているのかとなると、私の見識では推測の難しいところがあります。
エジプト版における仲間割れは、アトランティス文明の探索者が、「偉大なるウサギ」遺跡の地下宮殿にたどり着き、アトランティス文明が伝えてきた人類の禁忌を知ってしまった結果、アトランティス文明を封印するか否かで対立したことを象徴しているのかな、と思います。また、アトランティス文明を封印しようとする秘密結社が、アトランティス探索者を殺害してきたことをも象徴しているのかな、と思います。おそらく「真鍮の都」は、そのエジプト版も含めて、人類の禁忌の直接的な手がかりにはならないのでしょう。
これまで三回にわたって、人類の禁忌について推測してきましたが、人類の禁忌にしぼって検証するのはここまでとします。次回以降は、さまざまな視点から、改めて1話より順に作中の設定や物語を検証していきます。
この記事へのコメント
ストラボンの地誌にある「イベリア」の項目は読んだでしょうか?イベリア人の文字の話やカディス辺りの柱の話があり、イリヤッドを読む上で非常に興味深い内容です。
ちょっと検索してみましたが、ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌』は、現在では入手困難なようですねぇ。
まあ入手が容易だとしても、購入するのをためらってしまうような値段ではありますが・・・。
今度図書館に行く機会があったら、探してみます。
わたしは連載途中からイリヤッドを読み始め、先管理人さん同様、最終話の内容にはいったん落胆しました。ただ、最初から読み直してみたいと思ったのと、ストーリーを全編熟読すれば謎についても見えてくるのではないかと思い、単行本を全巻まとめて揃えました。
ある程度自分なりの答えが出るまではWebでの意見は見ないようにしていたのですが、ようやっと自分なりに納得できる答えが見つかったので、昨日からWebでの検索結果、このサイトにたどり着きました。前置き長いですね(苦笑)。
さて、わたしの出した「人類の禁忌」の答えですが、「種の寿命」についてではないかと思います。つまり、我々ホモサピエンスも一定の時期に「種の寿命」を迎え、人類の終末は避けられない、といったこと語り継がれているのではないでしょうか。
〈以下、続きます〉
「人類の終末」が明記されているのだとすれば、神へ救済を求める行為に疑念が沸き、人々が絶望をすることが考えられます。また、聖書にある救済の予言などとも矛盾してしまいます。もちろん、イエスのとった折り合いとは「魂の救済」ということなんでしょう。
この結論がただしいかどうか確認する術はありませんが、わたしはこの答えである程度納得しています。
〈以下、続きます〉
まず、(12)p175, 181などに描かれいる地図と、(15)p31に入谷とゼプコが描く地図があまりに違います。だた、これは時間が経過してから入谷達が記憶に基づいて描いたものなので、細部が異なっても仕方ないかと考えていました。しかし、(15)p190にある羊皮紙に描かれている地図と、前述の冥界の王の地図(砂絵)を見比べてもやはり大きく異なります。
また、(15)p241にあるように「ジブラルタル海峡から見るアフリカは巨大な島のよう」という件が、どうしても気になります。これは(9)p172にも出てくる伏線で、これを最後に持ってきているにはそれなりの意図があるように思えてなりません。
〈以下、続きます〉
友人の編集者を通じてなんとか原作者の方とコンタクトをとり、真意を確かめようかとも愚考したのですが、それはやはりルール違反のような気もするので、ぜひ管理人さんのご意見を拝聴したいのですが如何でしょうか。
長文になってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
アトランティス文明の本拠(都)である「彼の島」の場所については、作中で明かされた情報をつき合わせていくと、曖昧なというか矛盾したところが出てくるとは思います。一応私は、最古の文明(都市国家)についてのグレコ神父や入矢の発言から、「彼の島」の場所は現在のイベリア半島南部だと解釈しています(当時は島)。
最後に全員が集まる場面ですが、この時点ではまだアーサー王の墓が発見されていない、と考えるほうが妥当だと思われます。アーサー王の墓が発見されていない段階での入矢とユリの会話があり、その後にジブラルタル海峡に全員が集まる場面に移りますが、他の人々が待っているところへ、入矢とユリらしき人物が合流するという描写になっていますので、ユリが入矢をチェシャーに迎えに行き、そのまま二人はジブラルタル海峡に直行した、と私は解釈しています。
ただ、それが太古の人類にとっても現代人にとっても「真実」と受け取られる理由については、なかなか想定するのが難しいかな、と思います。
私が考えた理由は、現生人類に教えを伝えたネアンデルタール人自身が、自らの絶滅をもって絶滅の不可避(種の寿命)が真実であることを現生人類に証明したからだ、というものなのですが、まあこれは原作者さんに訊いてみないと分かりませんね。
その意味で、もし伝手をお持ちなら、私としては、ぜひ原作者さんに意図するところを訊いていただきたいと思います。もっとも、もし原作者さんから話を聞けたとしても、ネットで公開するには原作者さんの了解が必要でしょうが。
つまりアトランティスの場所は、(15)p190にある羊皮紙に描かれているジブラルタル海峡の西にある島ではなく、タルテッソス遺跡の真下、ないしその近辺(作中の当時島だったどこか)だとお考えだということでしょうか? だとすれば、「ジブラルタル海峡から見るアフリカは巨大な島のよう」に対して、「ジブラルタル海峡から見るイベリア半島西岸は巨大な島のよう」ということになり、納得がいきます。
わたしも当初そのように考えていたのですが、前述の地図やグレコ神父がそれを認める発言をしているので、わからなくなっていました。
もっとも、この部分はあまり大きな要素を持っていないでしょうから、意見が分かれていてもさほど気になるところではありませんが(苦笑)。
おそらく碑文には「種の寿命」だけではなく、神のさまざまな言葉が記録されているはずで、それらが真実と理解できる内容になっているように思います。
ただ、わたしとしては前回も書きましたようにルール違反の感がありますので、少し時間を置いてからやはり話を聞きたい、と思いましたら努力してみようと思います。
もし、原作者の方の意見を拝聴できたなら、Webでの公表の可否、もしくは管理人さんなど限定した方のみへの公開など、併せて確認してみますね。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/3766863.stm
もし原作者さんからお返事があり、公開可能ということになれば、ぜひお知らせください。私のメールアドレスは、ブログのトップページに記載しています。