単一起源説を支持する頭骨の研究

 世界の105の民族の、2000年前以降の6000以上もの頭骨を、37項目(頭骨の幅や長さなど)にわたって分析した結果は、現生人類のアフリカ単一起源説を支持する、との研究が発表され、報道されました。これは、ケンブリッジ大学のアンドレア=マニカ博士(人口生物学)とウイリアム=アモス博士(遺伝学)と、佐賀大学の埴原恒彦博士(形質人類学)との共同研究です。

 この研究では、アフリカから遠く離れた距離にいる民族ほど、集団内の個体差が小さい傾向にあり、もっとも個体差が大きいのは、アフリカ中南部の民族だとされています。アフリカから遠い地域の集団の形質が比較的均質なのは、定着したのがそれだけ新しいからで、現生人類のアフリカ単一起源説を証明するものだ、ともされています。またマニカ博士は、この研究により、ネアンデルタール人など他の人類と現生人類との混血を否定できるとまでは言えないが、そうした混血は、事実上、現生人類にまったく影響を与えなかったのだ、と述べています。

 一方、ネアンデルタール人研究の世界的権威であるエリック=トリンカウス教授は、中国人やオーストラリアのアボリジニーの多様性を指摘し、この研究に批判的です。またトリンカウス教授は、初期現生人類の解剖学的特徴から、現生人類とネアンデルタール人など他の人類との混血の可能性を指摘しています。フレッド=スミス教授は、この研究が現生人類のアフリカ起源説を確定したことを認めつつも、ネアンデルタール人など他の人類と現生人類との低頻度の混血という自らの研究と、今回の研究とは矛盾するものではない、と指摘しています。

 現生人類のアフリカ単一起源説については、遺伝学の分野が注目されることが多いのですが、形質人類学からも単一起源説を証明できる、と単一起源説派の代表格のストリンガー博士は以前より述べていますし、そもそも単一起源説は、形質人類学と考古学の分野から主張されたものでした。このケンブリッジ大学と佐賀大学との共同研究は、大規模な調査・分析がなされたという意味で、画期的なものと言えますが、トリンカウス教授の指摘にも肯けるところがあります。現生人類は移動能力の高い生物であり、有史以降も、トリンカウス教授の指摘した中国がそうであるように、大規模な移動は珍しくありません。

 またオーストラリアも、アフリカから遠く離れているとはいえ、非アフリカ地域のなかでは現生人類がかなり早く定着しており、比較的孤立した状態が長く続いていたので、この点でもトリンカウス教授の指摘はもっともだと思います。スミス教授の指摘も肯けるもので、さらに分析対象を拡大しての研究が期待されます。それにしても、多地域進化説穏健派の代表格だったスミス教授も、現生人類のアフリカ起源を認めるようになっているわけで、多地域進化説もすっかり衰退・変容したものです。

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