『イリヤッド』122話「すべての謎 最後の謎」(『ビッグコミックオリジナル』6/20号)

 最新号が発売されたので、さっそく購入しました。前号は、
https://sicambre.seesaa.net/article/200705article_19.html
「偉大なるウサギ」遺跡の地下神殿で入矢・ユリと対峙していたグレコ神父の背後を、ペーテルが特殊な形の刃物で刺したところで終了しました。予告は、「グレコを刺し、入矢たちの前に立ちはだかるのはペーテル。拳銃より速いナイフを操るこの殺し屋の狙いは!?」、「入矢たちは彼の島の真実を知る事ができるのか!?」となっていて、ペーテルの目的は何なのか、入矢たちは「山の老人」がアトランティスにまつわる真相を隠蔽しつづけてきた理由を解明できるのか、たいへん気になっていたのですが・・・。

 さて今回の話は、「偉大なるウサギ」遺跡の地下神殿において、入矢・ユリが、グレコ神父を特殊な形の刃物で刺したペーテルと対峙している場面から始まります。グレコ神父は、クロジエから解雇されたお前のことは気になっていたが、彼の島とは無関係だったから・・・迂闊だったよ、とペーテルに言います。クロジエを愛していたのか?とグレコ神父に尋ねられたペーテルは、マダムのことは忘れた、と答えます。
 ペーテルは、アトランティスにまつわる古文書の入ったスーツケースである「秘密の箱」を持ち、入矢とユリに特殊な形の刃物を見せながら、俺が殺さなくてもどうせお前たちは死ぬ運命だ、と言います。グレコ神父の配下の襲撃者たちが入矢とユリを殺してしまうだろう、ということなのでしょう。ペーテルは「秘密の箱」を床に下ろし、グレコ神父の近くにあったもう一つのスーツケースを開きますが、そこにはダイナマイトや手榴弾が入っていました。

 120話「文明の源」では、
https://sicambre.seesaa.net/article/200705article_3.html
グレコ神父は「秘密の箱」の他にもう一つスーツケースを持っていて、「秘密の箱」は通路の入口に置いていき、もう一つのスーツケースを持って地下宮殿に向かっていきましたが、それにダイナマイトや手榴弾が入っていたということなのでしょう。
 ここを破壊して神父を喜ばすこともあるまいと言ったペーテルは、「秘密の箱」とダイナマイトや手榴弾の入っているスーツケースを抱え、出入り口から立ち去ろうとします。この出入り口は、グレコ神父とペーテルが通ってきたものだと思われます。ペーテルは去り際に手榴弾を投じて壁を爆破し、出入り口をふさぎます。急いで上に戻ろうと言う入矢にたいし、手遅れだ、上にいる君たちの仲間はたぶんもう死んでいる、とグレコ神父は言います。それでも入矢は、自分は崩れた岩をどけるから、上にいるデメル・プリツェル・レイトン卿を連れてくるように、とユリに言います。

 場面は変わって、デメル・プリツェル・レイトン卿のいる地上です。「偉大なるウサギ」遺跡は地上では丘状になっていて、デメル・プリツェル・レイトン卿はその頂上の岩陰に隠れていたのですが、デメルとプリツェルは、下に降りてグレコ神父の配下の襲撃者たちに接近し、活路を開こうとします。まだ完全に日が暮れていないので、明るすぎるがそれでも降りる気か?とレイトン卿は尋ねます。すると、光あるところに陰があるとデメルは答え、座して死を待つよりましさとプリツェルは答えます。
 プリツェルとデメルは砂の上を匍匐前進しますが、プリツェルが右肩を撃たれます。レイトン卿は援護射撃をし、岩陰に隠れるようデメルに言います。デメルはプリツェルに、今助けるぞと言いますが、プリツェルはデメルに、動くなと言います。敵は狙撃手で、自分を嬲り者にして救いに来るお前を撃つつもりだから、二人とも殺されるぞ、とデメルはプリツェルに説明します。

 一方地下宮殿の入矢は、崩壊した岩をどけながら、この場所に我々より早くたどり着き、ダイナマイトを所持していたのに、なぜここを爆破しなかったのか?グレコ神父の先達は何千年も前からこの場所を知っていたのに、なぜとっととここを破壊しなかったのか?とグレコ神父に尋ねますが、苦しそうな様子のグレコ神父から返答はありません。
 確かに、なぜ秘密結社が地下神殿を破壊しなかったのか、前号を読んで私も疑問に思っていたのですが、人類の禁忌は一部の許された人間が継承すべきであり、この地下神殿にまでたどり着いた人間にはその資格がある、と結社が考えていたためなのかもしれません。もっとも秘密結社の中には、14巻所収の107話「秘密の箱」で明かされたように、
https://sicambre.seesaa.net/article/200610article_26.html
結社の人間すら禁忌を知るべきではない、との考えもあるようですが。

 入矢がようやく通路を開くと、グレコ神父は立ち上がり、肩を貸して私を行かせてくれたら、すべての謎に答えよう、と入矢に言います。入矢はグレコ神父に肩を貸し、グレコ神父とペーテルが通ってきただろうと思われる通路を歩いて外を目指します。ティトゥアンの迷宮で死んだ男(バシャのことです)は本当に君を助けたのか?とグレコ神父に尋ねられた入矢は、あいつの悲しい過去や夢の話を聞いたからだ、と答えます。
 あいつは冷酷な殺人鬼ではなかったのに、なぜあんたらは彼に殺しをさせたのだ?と入矢はグレコ神父に尋ねます。するとグレコ神父は、ヌビア文明を知っているかね?と入矢に尋ね、エジプトを一度は支配した王国だが、じつはエジプト自体の祖ではないかとも考えられている文明だ、と入矢は答えます。

 では、断片のみがバチカンに所蔵されている奇妙な書物である、ヌビアの聖書を知っているかね?と入矢に尋ねたグレコ神父は、ヌビアの聖書を編纂した人々は、誰よりも敬虔なキリスト教徒で、聖書こそが神の言葉を記した唯一の書であり、自分らのもつ古い言い伝えのすべては悪魔の所業と考えた、と補足説明します。アトランティスに関してもか!?と入矢が尋ねると、グレコ神父は、『ヌビア聖書』の「神は山の老人に命じ、彼の島を沈めた」という一節を引用します。
 「山の老人」とはあんたらか?それとも、あんたらが消し去りたい「彼ら」のことか?と入矢が尋ねると、彼の島が沈んだのは人々が絶望したからだ、神が最初に選んだのは「彼ら」であり、我々ではなかったから、とグレコ神父は答えます。それはあんたの推測だろうが!と入矢は言いますが、グレコ神父はさらに、『ヌビア聖書』の「彼らは狒狒を指差し、次のお前たちだといった」という一節を引用します。すると入矢は、それは進化論・・・と驚愕の表情を浮かべます。

 そうして話しているうちに、グレコ神父と入矢はようやく地上に出ますが、そこは廃墟となった教会でした。その言葉の数々は、365年間主とともに歩んだ男に与えられた、とグレコ神父は言いますが、入矢はその意味が分からず、何の話だ?と尋ねます。『ヌビア聖書』には、我々の知るエチオピア語やスラブ語のそれとはまったく異なる内容が記されていた、とグレコ神父が言うと、ノア以前の偉大な預言者エノクに神が与えたという、幻の書である『エノクの書』のことか?と入矢は尋ねます。
 しかしグレコ神父から返答はなく、グレコ神父は入矢に、ペーテルがどこにいるか尋ねます。すると入矢は、ここにいろとグレコ神父に言ってペーテルを探しに行きます。グレコ神父が口笛を吹くと、グレコ神父が乗ってきたと思われる馬がグレコ神父に顔を見せますが、馬の視線の先には、グレコ神父の側近と思われる男性の死体が横たわっていました。

 ペーテルを探しにいった入矢は、ペーテルが木につないだ馬のもとに歩いていくのに気づきます。すると、グレコ神父を乗せた馬が入矢の頭上を飛び越え、ペーテルに接近し、グレコ神父はペーテルに襲いかかりますが、あっさり返り討ちにあい、ペーテルはグレコ神父の背中に刺さった刃物を抜きます。そのとき、ドニャーナ国立自然公園を地震が襲い、入矢は砂に飲み込まれます。入矢が岩をどけて、負傷したグレコ神父に肩を貸して歩いていたことを考慮すると、ペーテルの動きが不自然に鈍い気がしますが、物語の都合上仕方ないと解釈すべきでしょうか。
 一方、デメル・プリツェル・レイトン卿のほうですが、地震の起きる直前、グレコ神父の配下の襲撃者たちは、「偉大なるウサギ」遺跡に接近するために匍匐前進を始め、レイトン卿がデメルとプリツェルに警告します。その直後に地震が起きたわけですが、デメル・プリツェル・レイトン卿と3人を呼びに行ったユリの安否は、今回は明らかになりませんでした。4人とも無事だとよいのですが・・・。一つ気になるのは、地震が起きたとき、昼間のように見えることです。デメルとプリツェルが下に降りたのは日没直前といった頃だったので、デメルとプリツェルは一晩中伏せた状態で過ごしたのでしようか?それとも、原作または作画上の間違いなのでしょうか?

 砂に飲み込まれた入矢は、幸いにもすぐに脱出できました。しかしペーテルは、地震により広がった流砂に飲み込まれて沈んでいきます。ペーテルのほうに手を伸ばしたグレコ神父は「秘密の箱」を奪還し、地獄で会おうとペーテルに言います。しかし、立ち上がろうとした直後、グレコ神父も流砂に足をとられ、沈んでいきます。入矢はグレコ神父に手を差し伸べますが、もう手遅れだ、と言ってグレコ神父は断ります。
 「秘密の箱」が欲しいかね?とグレコ神父は入矢に尋ねます。箱の中身がなければ、あの地下神殿がタルテッソスであることや、神殿とアトランティスの関係も証明できまい、と言ったグレコ神父は、君が後を継ぐ(秘密結社に加入して統率するということでしょう)なら譲ってもいい、と入矢にもちかけますが、馬鹿な、と言って入矢は断ります。

 箱の中にはあの書のことが記されている、とグレコ神父は言い、『エノクの書』か?と入矢は尋ねます。言葉は、ノア、アブラハム、ヤコブ、レビ、モーセ、ソロモン、イエスの手に受け継がれた、とグレコ神父が言うと、そういうことだったのか、と入矢は言います。イエスはすべてを知りながら『聖書』とどう折り合いをつけたのか?神の子と偉大な預言者たちは、呪われた真実を知りながら人類をペテンにかけたのか?とグレコ神父は沈みながら言います。入矢は、早くつかまれと言ってグレコ神父に手を差し伸べます。
 神を許せるか?と入矢に尋ねたグレコ神父は、入矢の手を握り、事実を隠蔽することは人類にとって崇高な使命だとは思わないか?と問いかけます。しかし入矢は、それが真実としても、俺はあんたの後を継げない、と言って断ります。するとグレコ神父は入矢から手を離し、「神は・・・・・・言葉とともに・・・・・・」と言った後、バシャは夢を見られたのか?と入矢に尋ねます。それにたいして入矢は、バシャは夢を見たと答えます。その答えを聞いたグレコ神父が、「キ・・・キミが夢に向かう姿・・・・・・私には・・・・・・私は・・・・・・最後まで見られない・・・・・・」と言いながら砂に飲み込まれるところで今回は終了です。

 今回も、いよいよ最終回に近づいたことを感じさせる内容でしたが、まずはサスペンスの側面から見ていきます。ペーテルがクロジエから解雇されていたのは意外でした。ペーテルがデメルとの決闘に負けたことに、クロジエが激怒したのでしょうか?そうすると、ペーテルの目的は何だったのでしょうか?また、ペーテルが解雇されたのがいつなのか、解雇された後どうしていたのかも気になります。
 前号では、
https://sicambre.seesaa.net/article/200705article_19.html
ペーテルが誰かの命令か依頼で動いている可能性を考えましたが、そうならば、命令・依頼者はグレコ神父に敵対していた秘密結社の幹部でしょうか。グレコ神父に敵対していた幹部は全員粛清されたはずですが、金になりそうだとペーテルは考え、「秘密の箱」とグレコ神父の命を狙い続けたのかもしれません。ペーテル自身がアトランティス探索者である可能性も考えましたが、ペーテルがグレコ神父を殺した目的は謎のまま終わるのかもしれません。

 グレコ神父の側近の死体が、「偉大なるウサギ」遺跡の地下神殿に通ずる入口近くにある、今では廃墟となっている教会にあったのも意外で、なぜそうなっているのか、どうもよく分かりませんでした。考えられるのは、
(1)側近がグレコ神父を裏切ってペーテルと組んでいて、「秘密の箱」を置いておくとグレコ神父が側近に伝えた川沿い5kmの教会に、ペーテルと側近が馬で赴いたが、ペーテルが裏切って側近を殺した。
(2)側近はグレコ神父のことが心配になり、川沿い5kmの教会に馬で乗りつけたが、それをペーテルが尾行していて、側近を殺すとともに「秘密の箱」を奪った。
(3)ペーテルはグレコ神父と別れた直後の側近を殺し、グレコ神父を尾行するとともに、すぐに発見されないようにドニャーナ国立自然公園へ死体を馬で運んだ。
といった可能性ですが、
(1)・・・側近がグレコ神父の強硬路線を危ぶむような様子は描かれていても、裏切っていることを示唆するような描写はなさそう。
(2)・・・馬上の人間を徒歩で尾行するのは難しいだろうし、グレコ神父の行方を確認するのが困難。
(3)・・・馬をすぐに手配するのは難しいし、わざわざ死体を運ぶのは不自然。
といった疑問が残るので、やはりよく分かりませんでした。

 ペーテルはグレコ神父にたいして、「ナイフを抜けばすぐに死ぬ。抜かなければしばらく生きるが、想像を絶する苦痛がともなう」と言いました。しかし、グレコ神父は背中に刃物の刺さったまま馬に乗り、ペーテルに襲いかかりましたし、刃物が抜けた後もしばらく生きています。グレコ神父は体力・気力ともに並外れている、と物語の進行上都合よく解釈すべきかもしれませんが、あるいはペーテルの台詞を間違えてしまっただけなのかもしれません。
 まあいずれにしても、さすがにグレコ神父はこれで死亡したでしょう。しかし、流砂はじつはさほど危険ではなく、脱出困難というわけでもないとの見解もあるので、崖の上から落ちても助かったペーテルなら、あるいは生存の可能性もあるかもしれませんが、さすがに最終回目前になって、再度ペーテルが登場することはないかなと思いますので、ペーテルも今回で死亡したと認定してよいでしょう。

 歴史ミステリーの側面では、人類の禁忌についてじゅうような手がかりが明かされましたが、グレコ神父の発言は抽象的なので、私の読解力と推理力では、どうもすっきりとした解釈を提示できません。兎と月の昔話の意味するところや、梟に見える柱状の偶像が何を指しているのかということは、122話を読んでも分からないままなのですが、ともかく、グレコ神父の発言を詳しく見ていくことにします。
 グレコ神父が人類の禁忌のじゅうような手がかりを入矢に打ち明ける気になったのは、奪われた「秘密の箱」を奪還するには、入矢の力を借りるしかない状況に追い込まれたからというのもあるでしょうが、バシャが入矢を助けたという話を聞き、あるいは入矢になら、人類の禁忌を隠蔽するという「崇高な使命」を託せるのではないか、と考えたためでもあるのでしょう。

 今回は、『ヌビア聖書』がじゅうような手がかりであることが、グレコ神父から語られますが、『ヌビア聖書』については5月31日分のブログでやや詳しく取り上げました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200705article_31.html
残念ながら、相変わらず的外れな推測に終わってしまいましたが(笑)、今回は抽象的ながらグレコ神父の解説があり、これまで明かされなかった一節もグレコ神父から語られていますので、以前よりも人類の禁忌に近づいたのは間違いありません。
 まず、「神は御自分にかたどり人を創る前に、“山の老人”に命じ彼の島を沈めた」の箇所ですが、アトランティスが沈んだのは、アトランティス人が絶望したからだ、とグレコ神父は言っています。『イリヤッド』において夢を見ないことは、心に大きな傷を受けていることの象徴として描かれてきましたが、アトランティス人が絶望したのだとしたら、ヘロドトス『歴史』にアトランティス人は夢を見ない、との記述があるのも納得できます。

 では、なぜアトランティス人が絶望したのかというと、グレコ神父によれば、神が最初に選んだのは「彼ら」であり、我々ではなかったからとのことです。「彼ら」が何者かはまだ確定していないのですが、おそらくネアンデルタール人ではないかと思います。しかし、これではあまりにも抽象的で、具体的に何を意味しているのか、よく分かりません。
 そこで、グレコ神父の他の発言をまとめると、
(A)「彼ら」は狒狒を指差し、次のお前たちだと言った。
(B)その言葉の数々は、365年間主とともに歩んだ男に与えられた。
(C)言葉は、ノア、アブラハム、ヤコブ、レビ、モーセ、ソロモン、イエスの手に受け継がれた。
(D)イエスはすべてを知りながら『聖書』とどう折り合いをつけたのか?神の子と偉大な預言者たちは、呪われた真実を知りながら人類をペテンにかけたのか?
(E)事実を隠蔽することは人類にとって崇高な使命だとは思わないか?
となりますが、こうして並べてみても、抽象的なので解釈の難しいところです。

 まずは(A)ですが、狒狒とは文字通りの「ヒヒ」だけを指すのではなく、霊長目(サル目)全般のことを指すのかな、と思われます。入矢は、これを進化論と解釈していますが、人類が「原始的な」生物から進化したことを意味しているのでしょうか?さらには、知恵を獲得し、ようやく手に入ろうとしていた自分たちの覇権(他の生物にたいする優位)が、いずれは失われることまで意味していたのでしょうか?しかし、ネアンデルタール人が進化論的見解を現生人類に伝えたとするのは、さすがに無理がありすぎ、きょくたんに現実離れした虚構を極力排してきたように見える、これまでの『イリヤッド』の作風と馴染まない解釈のように思われます。
 作中では、ネアンデルタール人は現生人類に多大な恩恵を与えたということになっているようですが、かりにそうだとして、現生人類がネアンデルタール人から進化論的な内容の言葉を聞いたとしても、後のセム系一神教徒にとっては禁忌になっても、自分たちの祖先が人間以外の生物だと考えているような人にとって衝撃になるようなことでしょうか?また、すっかり進化論が浸透してしまった現代において、守り続けるべき秘密とも思えません。そうすると、どうも別の解釈を考えねばならないようです。

 (B)の意味するところもよく分かりませんが、(C)とあわせて考えてみると、一部の賢者により「彼ら」の言葉(人類の禁忌)が代々継承されてきたということでしょうか。呪われた真実である人類の禁忌がどうも明確にならないので、(D)の解釈も難しいところですが、最終的には、イエスは大いなる愛をもって人類に接したゆえに、真実を歪めて伝えたのだ、という結論に落ち着きそうな気がします。
 (E)はこれまでにも似たような発言があり、とくに新たな情報というわけではありませんが、人類の禁忌がはたして人を殺してまで守るような秘密なのか、やや不安なのは否めません。まあそこは、質の高い話を提供し続けてきた原作者さんのことですので、どのような結末とするのか、楽しみにしています。

 それにしても、兎と月の昔話の意味するところや、梟に見える柱状の偶像が何を指しているのかということだけではなく、なぜアトランティス人がこの真実を語り伝えてきたのかということも、よく分かりません。他の現生人類が知らないようなことが、はたして人類共通の禁忌になるでしょうか?102話「宗教談義」での
https://sicambre.seesaa.net/article/200608article_5.html
張と連絡員との会話もじゅうような手がかりと思われますが、こちらも未だにその意味するところをつかみかねています。
 それでも現段階であえて推測すると、神に選ばれたのは我々ではなく「彼ら」ということは、先に人間らしい精神生活を送るようになったのはネアンデルタール人であり、その意味で現生人類は、万物の霊長といった地球上の特別な存在ではなかった、ということでしょうか。しかしこれもたいして衝撃的ではなさそうです。とりあえず今日はここまでにして、次号の発売日までに思いつくことがあれば、このブログで述べていくことにします。

 予告は、「入矢修造が向かう夢のかたちは・・・!?次号、感動の最終回」、「入矢の見る夢の答えは!?考古学ロマン、大団円」となっています。ついに次号で最終回となり、寂しいかぎりですが、すべての謎が解き明かされ、予告通り感動的な最終回になることを期待しています。とはいっても、最終回が増ページだとしても、残り1回ですべての伏線を回収するのは難しそうです。
 そうすると、入矢が赤穴博士に報告に行き、赤穴博士の示唆によりすべての謎が解けるか、秘密を知らされているレームにユリが会いに行き、レームの口から真相が語られるのかもしれません。また、ここのところ登場のなかった葉山瑠依・サボー・針井の登場にも期待していますが、瑠依は登場してもサボー・針井は登場しない可能性が高いかな、とも思います。

この記事へのコメント

kiki
2007年06月06日 06:18
劉公嗣さん、こんにちは!

早速記事を書き上げてくださってありがとうございます。
わくわくしながら読ませて頂きました。
当々、次回が最終回なのですね。
でも、巻頭カラーではなさそう?
増ページくらいはして欲しいなぁ。
劉公嗣さんがおっしゃるように、グレコ神父と
入矢のやりとりは、ずいぶん抽象的ですね。
私にはさっぱり分かりませんでしたw。
そして、あと一回で終了というのは、
本当に無理がありそうです。
打ち切りのような感じなのでしょうか?
次回に、すっきり謎が解けて欲しいです。
あれこれ謎のままは、嫌ですw。
15巻は7月30日に発売の予定のようで、
今から楽しみですが、終わってしまうのは本当に寂しいです。
2007年06月06日 20:31
これはkikiさん、いつもお読み
いただき、ありがとうございます。

残念ながら、最終回は巻頭カラー
でも巻中カラーでもありませんが、
増ページであることを願っています。

打ち切りなのかどうか、部外者の
私には確かなことは分かりませんが、
当初の予定よりも早く終わらせるよう
編集長から勧告され、原作を書き
換えたのかな、という気はします。

始皇帝編が終わってから詰めこみ
気味なのは、そのためではないか、
と推測しているのですが、さて
真相はどうでしょうか。
イリヤのファン
2007年06月06日 22:39
管理人さんのアップを楽しみにしてました!

地震によるタルテッソス崩壊とグレコ・ペーテルの死は、予想どおりでした(若干、死に方が予想どおりではなかったですが)。
あと、一回で伏線回収は無理でしょうね。謎のまま終わって消化不良になりそうです。
山の老人が最も恐れた「ヘロドトス」と「聖書」のうち、特に聖書があまり取り上げられずに終わるのが、消化不良感を増幅させます。あと、3つの聖杯のうち、アーサー王の聖杯がついに登場しなかったのも残念です。ラストでどこまで謎が解けるのか、心配になってしまいました。
一度、打ち切った上で、未回収の伏線を回収するような続編を書いてくれたらうれしいですね。
イリヤのファン
2007年06月06日 22:45
続きです。

結局、人類の禁忌は何なのでしょう?梟の柱の正体は何なのでしょうか。最低でもこの二つは明らかにしてほしいですね。
人類の禁忌とは、私の予想した「神の不存在」ではなさそうでした…
進化論が禁忌なのでしょうか。でも、管理人さんの言われるとおり、現代では禁忌になりそうにないですね。
ちなみにエノクの書ってオカルトっぽいんですね。検索したら魔術とかがひかかってきました。
イリヤのファン
2007年06月06日 23:49
五月雨ですいません。ちょっと思いついたことを書いてみます。
人類の禁忌とは、やはり進化論ではないかと思います。正確に言えば、進化論を知りながら、「人類は神が創った云々」の宗教を成立させたイエスらのペテンこそが人類の禁忌ではないでしょうか。
「彼ら」の言葉である「狒狒を指差し…」は、エノクから代々伝えられイエスらに語り継がれ、その証拠がの一部がヌビア聖書と考えられます。グレコが破門されるきっかけとなったバチカンの文書はヌビア聖書と思われます。また、グレコの持つスーツケースには、イエスらのペテンの証拠となる文書(=「彼ら」の言葉)が入っているのではないでしょうか。
ペテンをペテンと知り、「絶望し」、「夢をみない」のがアトランティス人ではないでしょうか。
イリヤのファン
2007年06月07日 00:00
もちろん問題もあります。まず、進化論が現代の人にとっても、禁忌であるかどうかです。しかし、14巻の第3話「秘密の箱」で、マイヤー神父が「教会は、誰かが人類の秘密を暴こうが気にしません!主への信仰は不滅だからです。」と言っています。これは、イエスらのペテンを暴かれてもよい、という考えだと思います。つまり、ペテンを暴くことが禁忌だと思い込んでいるのは、山の老人だけなのです。そして、ペテンを暴かれて平気なのは、宗教のない日本人ではないでしょうか。
イリヤのファン
2007年06月07日 00:09
もう一つの問題は、ネアンデルタール人が進化論を知っていたのかというところです。では、このように考えられないでしょうか。
ネアンデルタール人にとって、現生人類も狒狒も同じだった。しかし、「夢」を与えた現生人類は飛躍的な進化を遂げた。その進化をネアンデルタール人は目の当たりにしてきた。そして、狒狒にも「夢」を与えれば進化すると考えた。その考えは、現生人類に与えられた「言葉」によって彼らの伝説となった。それが、グレコにとって「許せない伝説」になった。その伝説を受けついだのがアトランティス人。だからアトランティス人は絶望し、夢をみない。
…いろいろ書きましたが、また外れるかも…
2007年06月07日 19:32
これはイリヤのファンさん、いつもお読みいただき、ありがとうございます。

そういえば、残る一つの聖杯はどうなったのでしょうねぇ。
ネアンデルタール人の骨と地図以外の手がかりとは何なのでしょうか?

残り1回だと、回収できない伏線が多そうですが、もし打ち切り的な連載終了だとすると、続編は難しそうです。

『エノク書』といえば、さきほど検索してみて知ったのですが、365年生きたというのはエノクのことだったのですね。
http://www.angel-sphere.com/angels/book_of_enoch.htm
聖書学の素養がないものですから、ブログの記事の執筆時には知りませんでした。
まあそれを知ったからといって、何か謎が解けたというわけでもないのですが・・・。
2007年06月07日 19:33
人類の禁忌についてですが、マイヤー神父は禁忌の核心まで知らないようですし、信仰心のあまりなさそうなレームが、秘密を知らされて衝撃を受けていますので、進化論を知った現代人にとっても衝撃的な秘密なのだと思います。

よって、進化論または進化論を隠蔽することが禁忌になるとしたら、現代人も気づいていない・知らないような進化論的な真実が根底にある、ということになるだろうと思います。

人類の禁忌とは、作中ではすべての宗教に関わるとされていますので、人類をペテンにかけたこと自体は、禁忌ではないように思われます。
グレコ神父が神の子イエスと偉大な預言者たちのペテンに言及したのは、セム系一神教のキリスト教の信者としての立場からのものであり、秘密結社全体に共通する禁忌ではないように思われます。
2007年06月07日 19:33
熊や蛇などを神の化身と考えたのは愚かしいとグレコ神父は言っていますが、これもセム系一神教のキリスト教の信者としての発言であり、ヒンズー教徒も秘密結社に加わっていますので、人類の禁忌とは、熊や蛇などを神の化身と考える人々にとっても、忌まわしい秘密なのだと思います。

狒狒にも人類のような進化の可能性があると考えれば、人類にとっての脅威になりますが、自分たちの祖先は蛇などの人類以外の生物だった、との神話を語り伝えてきた人類集団もいますから、作中ではすべての宗教に関わる禁忌とされている以上、進化論は禁忌にならないかな、というのが現時点での私の考えです。

とはいっても、すべての宗教に関わり、更新世のころから現代まで現生人類にとって衝撃になるような禁忌となると、かなり想定が難しいのも確かで、すべての宗教というところを無視して、おっしゃるような禁忌を想定したほうが、すっきりした話になりそうではあります。

読者全員が納得するような結末は厳しいかな、という気もしますが、原作者さんの手腕に期待しています。
moge
2007年06月09日 01:04
お邪魔します。
このブログを拝見したのはつい最近ですが、毎回緻密な分析に嘆息しています。
次回で終わりなんて寂しいですね。

原作者側は今回の話で「人類の禁忌」を明かしたつもりに
なっているのではないでしょうか?

人類は最初から神に選ばれず、愛されていない存在であること。人類は狒狒程度の存在であること。
自分たちが信奉してきた預言者たちは、それを知りながら人類を欺き続けてきたこと。
あらゆる宗教の信者たちが信じている神は模倣かでっちあげであり、
人類創生の時からずっと、神は私たちと共にないことは明らかだった。
その虚無感のようなものではないのかと思います。
宗教者にとってはけっこう辛いことだと思うのですが。。。
moge
2007年06月09日 01:04
続きです。
あと、謎解きとは別の話ですが、私が特に気になるのはグレコ神父の心です。
彼があそこまでイリヤを危険視していたのは、考古学者としての才覚以上に、
夢を失わない者への嫉妬と羨望からだったのではないでしょうか。
本当はイリヤのように生きたいのにできない。
イリヤの存在は自己のアイデンティティの否定につながる。だからイリヤが憎いし、怖い。
そう思うと、グレコ神父はとても人間臭い、魅力あるキャラクターだったなと思うのです。
夢を見られないまま一生を終えた、気の毒な人です。

お邪魔いたしました。最終回も解説に期待しています。
2007年06月09日 09:01
これはmogeさん、お読みいただき、ありがとうございます。

今回で謎解きは終わりなのでしょうか?確かに、入矢は納得したような表情をしていましたが。現生人類は神に選ばれなかった惨めな存在だとしたら、信仰心の篤い人にとっては衝撃的でしょう。

その意味で、12巻所収の89話「バトラー神父」において、入矢がバトラー神父に語った内容が伏線になっているのかもしれません。

しかし、かなり抽象的だったのは否定できないと思いますので、最終回で、入矢か赤穴博士あたりからの詳しい解説があることを期待しています。

グレコ神父の入矢にたいする感情は複雑なのでしょうね。ペーテルに刺されて追い詰められていたとはいえ、ずっと殺害対象だった入矢に後事を託そうとさえしたわけですから。

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