直立二足歩行は樹上で始まった?

 現代のオランウータンの行動を観察した結果、直立二足歩行は、人類と類人猿の共通祖先の段階において樹上で始まったという推測にいたった、との研究が発表され、報道されました。
http://www.sciencemag.org/cgi/content/short/316/5829/1292
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2007-05/aaft-lft052407.php
この報道には日本語訳もあります(PDFファイル)。
http://www.eurekalert.org/pub_releases/translations/aaas052907jp.pdf

 直立二足歩行は、人類と他の生物を区別するもっとも重要な指標とされていますが、それが人類と類人猿の共通祖先の段階で始まっていたとなると、人類と類人猿を区別するのがますます難しくなった、と言えるでしょう。

 この研究では、オランウータンの二足歩行には樹上生活での利点があると指摘されています。おそらく、人類と類人猿の共通祖先の段階においてもそれは同様で、人類の二足歩行の開始についてはさまざまな仮説が提示されましたが、この研究にはかなりの説得力があり、今後通説化する可能性が高いだろうと思います。

 その後、人類の祖先はチンパンジーやゴリラとは異なり、しだいに地上生活での割合を増していき、二足歩行に特化した進化の道を歩んで現在にいたったのでしょうが、ホモ属登場以前の人類が森林地帯に生息していたらしいことを考えると、おそらく真のホモ属(エルガスターまたは初期エレクトスと区分される人類群)になってはじめて、完全に樹上生活と決別したのではないか、と思われます。

 人類の起源や定義にも深く関わるだけに、この研究は大々的に報道されています。近年では、人類の二足歩行が樹上で始まった可能性も指摘されていて、その意味では驚きではないのですが、それが人類と類人猿との分岐前のこととなると、オランウータンの二足歩行が一時的なものではないことが証明されたこととあわせて、大きな衝撃だと言えるでしょう。

 直立二足歩行の起源と、なぜそのような行動が選択されたかという、人類史の長年の大問題は、あるいはこの研究によりかなりのところが解決されるかもしれませんが、一方で、この研究は人類の定義を難しくしたともいえ、さまざまな意味で注目に値すると思います。サヘラントロプス=チャデンシスやオロリン=トゥゲネンシスといった、現在のところ最古の人類候補とされている化石群の位置づけについても、今後議論が展開されていくことになるのでしょう。

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