ネアンデルタール人と現生人類の混血問題

 4月25日の記事で、ネアンデルタール人と欧州の初期現生人類との間に混血があった、とするトリンカウス教授の研究について述べましたが、ワシントンポストでもこの研究が紹介されています。ネアンデルタール人は現生人類と比較して知的な面で劣っていたわけではないようだが、社会構造の発展と新技術の開発能力という点で現生人類に劣っていたようだ、とのトリンカウス教授の見解は、私の考えと近いものがあります。

 さてこの記事では、トリンカウス教授の見解だけではなく、現生人類のアフリカ単一起源説派の代表的な研究者であるクリス=ストリンガー博士の見解も紹介されています。こうした研究が発表されると、海外の報道機関はストリンガー博士に見解をうかがうことが多く、ストリンガー博士が古人類学界の重鎮であることがよく分かります。ストリンガー博士はネアンデルタール人と現生人類との混血に否定的で、現生人類とネアンデルタール人の違いを強調する傾向にあるのですが、この記事でも、やはりトリンカウス教授の研究に慎重な姿勢を見せています。

 その理由の一つとして挙げられているのが、ネアンデルタール人は寒冷適応体型なのにたいして、現代人の中で寒冷適応体型なのは、北極圏の先住民や一部のアメリカ先住民やアボリジニーくらいで、現代欧州人も寒冷適応体型をしていない、ということです。しかしストリンガー博士は、馬とシマウマ、虎とライオンが交雑する場合もあるように、ネアンデルタール人と現生人類との間に交雑があった可能性も指摘しています。混血説には否定的だけど、全否定ではないということですが、一般論として、全否定は困難(多くの場合は事実上不可能)なので、ストリンガー博士のこうした姿勢も妥当なところではあります。

 この記事でも述べられていますが、これまでかなりの数の現代人のDNA(とはいっても、人口比はごくわずかですが)が検査されてきたものの、未だにネアンデルタール人由来と確定された遺伝子は見つかっていません。しかしこの記事では、ネアンデルタール人由来かもしれない遺伝子についての研究も紹介されていて、その研究については昨年11月にこのブログで取り上げました。この他にも、ネアンデルタール人と現生人類との交雑を示唆した遺伝学の研究があり、昨年8月にこのブログで取り上げましたが、ネアンデルタール人のゲノム解読が進めば、遺伝学の分野から混血説を証明する研究がなされるのではないか、と期待しています。

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