『イリヤッド』118話「共闘」(『ビッグコミックオリジナル』4/20号)

 最新号が発売されたので、さっそく購入しました。前号では、
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クロジエと「山の老人」の「腐敗した(とグレコ神父が解釈している)」幹部がグレコ神父配下の殺し屋に粛清され、オコーナーは生け捕りにされました。また、アトランティスの場所の手がかりとシュリーマンが考えていた『千一夜物語』「真鍮の都」の内容が、ゼプコ老人から語られました。予告は、「アトランティスの謎を知らぬまま死んでいったクロジエ。グレコ神父の狙いが明らかに・・・緊迫の次号!!!」、「入矢が掴むアトランティスの新しい手掛かりとは!?」となっていたので、どんな手がかりが明らかになるのか、楽しみにしていたのですが・・・。

 さて今回の話は、グルジアの首都トビリシのホテルから、レイトン卿がクロジエに電話をかけている場面から始まります。この電話が原因でクロジエが殺されてしまったことは、前号にて描かれました。クロジエが電話に出ないことから、その身になにか変事がおき、おそらくは殺されたであろうことに気づいたレイトン卿は、こんな大発見が無駄になってしまうとは、と嘆息します。
 しかし、何が何でも真相にたどり着きたい、と思いなおしたレイトン卿は、ウィーンにいるユリに電話をかけ、共闘を申し入れます。なお冒頭において、ストラボン『ギリシア・ローマ世界地誌』の「ただしこの地方を西方地域にあるのと同じ名でイベリアとも呼ぶのが、どちらにも金鉱があることに由来するのであれば、話は別である」という一節が引用されています。

 一方、スロベニアのリュブリアーナでは、グレコ神父とその側近らしき男性が、裏切り者の幹部を殺害した後始末をしていました。屋敷は清掃し、遺体は運搬します、と報告した側近にたいし、痕跡はいっさい残すな、とグレコ神父は命じます。また側近は、手違いが生じたと言い、配下の襲撃者が広間に侵入したさいに、折り悪くクロジエの携帯が鳴ったため、反射的に襲撃者がクロジエを射殺してしまった、とグレコ神父に報告します。つまり、クロジエもオコーナーと同様に生け捕りにするつもりだった、ということなのでしょう。
 グレコ神父は広間でオコーナーを尋問することにします。グレコ神父が「ミスタ・オコーナー」と呼びかけると、捨てた名前で呼ぶということは、私の運命も決まっているようだな、とオコーナーは言います。なぜ自分を助けたのか?とオコーナーが尋ねると、聞きたいことがある、とグレコ神父は言い、結社の人間は自分以外には互いに名前を知らないはずなのに、どうやって意思疎通を図ったのか?とオコーナーに尋ねます。

 これにたいしてオコーナーは、賭けたのだと答え、グレコ神父の弾劾裁判が開かれたとき、グレコ神父を待つ少しの間、他の二人に本音を打ち明けたのだ、と告白します。その二人がグレコ神父に忠実なら自分は粛清されていただろうが、二人はそうする代わりに名前と正体を明かしたのだ、とオコーナーは言います。この弾劾裁判とは、11巻所収の86話「ソロモンの壺」にて描かれた、「山の老人」の幹部会のことだと思われますが、そうすると、前にも述べたように、
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_22.html
どうも描写が不自然なように思われます。まあ、私の読解力に問題があるのかもしれませんが・・・。
 弾劾裁判以前から裏切りを計画していたね?とグレコ神父に尋ねられたオコーナーは、決意したのはヴィルヘルム=エンドレ主催のアトランティス会議のときで、ヴィルヘルム=エンドレは彼の島を必ず見つけ出すと確信した、と答えます。この会議に出席したオコーナーを見て、グレコ神父はオコーナーの真の目的を疑った・・・というよりもそれに気づいたのですが、疑惑をぬぐい、グレコ神父に始末されないために、世俗から離れて組織の使命に邁進したい、とオコーナーはグレコ神父に申し出たのでした。そこでオコーナーは、112話でデメルが報告したように、
https://sicambre.seesaa.net/article/200701article_4.html
飛行機事故で死亡したと偽装したのでした。

 ネアンデル渓谷で私に声をかけてきたときのことを覚えているか?とオコーナーはグレコ神父に問いかけます。最初に発見された旧人(ネアンデルタール人)の骨を、考古学者が「山の老人1号」と呼んでいる、ということをグレコ神父から聞いたオコーナーは、マルコ=ポーロの記したアラビアの暗殺結社と同じ名前だ、と笑ったのでした。しかしグレコ神父は真面目な顔で、「山の老人」は通名で正式な名ではなく、「山の老人」というよりは「山の老人の記憶を消し去る結社」と呼ぶべきだろう、と言ったのでした。
 本題に入ろう、と言うグレコ神父にたいし、今さら私が何をいうと思うのだ?とオコーナーは言いますが、オコーナーを推薦したのは自分であり、オコーナーが裏切ったと報告すれば自分の立場が悪くなる、とグレコ神父は言います。これにたいしてオコーナーは、「結社の掟では確かに・・・・・・しかも今や、結社の大半は私の側かもしれないしな」と言います。

 私をどうするのだ?とオコーナーが尋ねると、共闘する以外ないだろう、とグレコ神父は言い、これから尋ねることに答えてくれれば、アトランティスの場所を教えよう、とオコーナーに提案します。オコーナーが乗り気なのを見たグレコ神父は、レイトン卿の居場所とレイトン卿のつかんだ情報を尋ね、オコーナーは、クロジエから聞いたレイトン卿の報告をグレコ神父に答えます。
 コーカサス地方にかつてあったイベリアという地名に着目したレイトン卿は、古代イベリア人がアフリカから対岸に渡り、さらに何らかの事情で小アジアに移住したという説に至りました。アトランティス人とは欧州巨石文明を築いたイベリア人なのか?アトランティスとはトロヤなのか?と尋ねるオコーナーにたいし、他には?とグレコ神父はさらなる報告を促します。

 そこでオコーナーが、コーカサスのイベリア人のことは、マルコ=ポーロの『東方見聞録』にも記されているそうだ、と言ったところ、「そんな記述はない!!」とグレコ神父は声を荒げます。マルコ=ポーロは小アルメニアと大アルメニアのことを詳細に記しているが、どこを探してもイベリアの記述はない、と断言するグレコ神父にたいし、オコーナーは「し、しかし確かに・・・・・・」と狼狽します。
 そこへ、用意ができました、と襲撃者たちが報告に現れ、オコーナーを連れて行け、とグレコ神父は命じます。謀ったな!と叫んだオコーナーは、「私を殺せば他の幹部が・・・・・・」と言いますが、グレコ神父は意に介さず、命令を撤回しようとはしません。しかしグレコ神父は、約束だけは果たそう、と言ってオコーナーに近づいて耳打ちし、オコーナーはそれを聞いて驚愕の表情を浮かべます。おそらく、グレコ神父はオコーナーにアトランティスの場所を教えたのでしょうが、その場所は明かされませんでした。うーん、やはり引っ張りますなあ(笑)。オコーナーにたいする扱いを見ていると、クロジエも、かりに生け捕られていたとしても、レイトン卿の報告をグレコ神父に話し終わったら、殺されていた可能性が高そうです。

 場面は変わって、モロッコのティトゥアンです。入矢はかつて世話になった街の老婆と再会し、老婆は「よく来たね・・・生きてる間は二度と会えないと思っていたよ」と言います。入矢が老婆を訪ねたのは、「柱の王国」の場所を特定する手がかりを得るためでした。ヘラクレス・アトラス・タンタロスの柱、天と地を支える柱、神と人間をつなぐ柱という意味だと思い、ラテン語・ギリシア語・コプト語・ヘブライ語と色々調べたがしっくりこないので、ベルベル語で「柱」とはどういうのか、教えを乞いに来た、というわけです。
 しっくりくると、アトランティスの場所が分かるのかね?と老婆に尋ねられた入矢は、たぶん、と答えます。すると老婆は、また殺し屋たちが自分を狙ってくるということか、と言い、入矢はためらいますが、老婆は、お安いご用さ、こっそり教えてやるよから耳をお貸し、と言い、入矢にベルベル語で「柱」を何というのか、教えます。答えを聞いた入矢は驚愕の表情を浮かべますが、ベルベル語で「柱」を何というのか、今回は明かされませんでした。うーん、やはりここでも引っ張りますなあ(笑)。

 場面は変わってリュブリアーナです。グレコ神父と側近は、幹部たちを殺害した後始末を済ませた後、外を歩いています。グレコ神父の指示通り、他の裏切った幹部たちも始末した、と報告する側近にたいし、結社が壊滅状態で心配かね?とグレコ神父は尋ねます。「は・・・・・・はあ」と答える側近ですが、そのときグレコ神父は気配を感じて振り返ります。しかし、振り返ってもとくに変わったことには気づかず、気のせいかと言います。しかしじつは、後述しますが、グレコ神父を尾行している男がいたのでした。
 レイトン卿は自分の知らないなにかを発見したので、早急に探さねばならない、とグレコ神父が言うと、神父でもご存じないことがあるのか、と側近は驚きます。グレコ神父は、以前から『東方見聞録』の編者ルスティケロには引っかかっていた、と言います。グレコ神父によると、ルスティケロについては、ピサの一介の小説家なのか、テンプル騎士団員なのか、「山の老人」の一員だったのか、過去に「山の老人」の間でも意見が分かれていたが、著述を見るかぎり、アーサー王と聖杯の探求者だったのは間違いない、とのことです。

 また、12世紀の英国のモンマスの司教であるジェフリーによると、トロヤ戦争の生き残りアイネイアスの子孫がブリテン島にたどり着き、最初の王になりました。同じ12世紀、コーンウオールの修道院から、アーサー王と思しき人物の骨が発見され、14世紀にウェールズの修道僧が記した『グラスティングの書』によると、墓には背の高い人物の骨と金属の器が納められていて、発見の100年後、イタリアから来た吟遊詩人がその器を持ち去った、とのことです。グレコ神父の説明を聞いて驚いた側近は、聖杯を持ち去ったのがルスティケロ!?と驚愕しつつ尋ね、年代的には一致する、とグレコ神父は答えます。
 ルスティケロという男がじつは希代の知略家で、我々を欺いて彼の島の秘密を隠蔽し、後世の誰かに託したとしたら・・・とグレコ神父が懸念すると、まさか、それが入矢!?と側近は尋ねます。レイトン卿と入矢を会わせてはならない!とグレコ神父は言いますが、もし手遅れなら?と側近から尋ねられると、私自身の手で入矢を止める!と力強く言います。ところが、グレコ神父と側近のこの一連のやり取りを密かに見ていた男がいました。その男こそ、8巻所収の58話「決斗」以降生死不明だった、クロジエ配下の運転手兼殺し屋のペーテルなのでした。グレコ神父の鋭い感覚には驚きますが、グレコ神父に尾行を見破られなかったペーテルは、やはり恐るべき男です。

 場面は変わって、スペインのタリファです。レイトン卿から共闘の申し出があったことをユリより聞いた入矢は、レイトン卿とここで待ち合わせることにしたのです。私が調べた二つのイベリア説は役に立っただろう、と言ったレイトン卿は、アトランティスはスペインのどこにあると思う?と入矢に尋ねます。入矢は逆に、『東方見聞録』のどこにイベリアの記述があるのか?と尋ねますが、レイトン卿は、入矢がもっている祖本にあるのでは?と言います。祖本にはそんな記述はない、と言う入矢にたいし、グルジアの歴史地理学館の館長によると、古いスペイン語版にだけ記述されているとのことだ、とレイトン卿は言います。
 すると入矢は、ルスティケロの策略だと言い、ルスティケロはアトランティスの手がかりをなぜかスペイン語版にだけ書き残したのだ、と推測します。しかし、スペイン語版の古本なんて意外と入手できないだろう、どこかの図書館か博物館に・・・と言うレイトン卿にたいし、入矢はふと閃き、コロンブスだ!と言います。新大陸を発見したコロンブスが何か?と尋ねるレイトン卿にたいし、入矢が自身有り気な表情を見せるところで、今回は終了です。

 今回は、期待していた通り、サスペンス・歴史ミステリーの部分で大きな進展があり、ひじょうに面白かったと思います。「山の老人」内部の対立は、グレコ神父の勝利ということになりましたが、その過程で、「山の老人」の組織事情についても色々と明らかになりました。
 「山の老人」の構成員を把握しているのはグレコ神父だけということですから、グレコ神父が「山の老人」のボスということなのでしょうが、グレコ神父を糾弾するような幹部会が開催されたり、ボスといえども推薦した人物が裏切ると立場が危うくなったりすることから、ボスはアトランティスや構成員の情報を握ってはいるものの、絶対的な権力者というわけではなく、幹部の中の筆頭にすぎず、幹部間の関係はわりと平等なようです。

 オコーナーと「山の老人」の関わりについてはかなり明らかになり、元々はアトランティス探索者だったオコーナーをグレコ神父が勧誘したわけですが、その時期は、ヴィルヘルム=エンドレの主催したアトランティス会議よりも前だったようです。グレコ神父はワードやベルクなどとも親しかったように、アトランティス探索者と接触していましたが、これには、
●自分も把握していない情報を収集する。『東方見聞録』のスペイン語版の記述やテネリフェ島の「冥界の王」など、グレコ神父の知らないアトランティスの手がかりがまだあり、そうした手がかりを隠蔽するためにも、情報収集は欠かせない。
●これはと見込んだアトランティス探索者を「山の老人」に勧誘する。おそらくグレコ神父は、オコーナーが「アダムの末裔」という新興宗教の熱心な信者だったことから、信仰心の篤さを評価し、オコーナーを「山の老人」の会員に推薦したと思われる。
●信仰心などの問題で「山の老人」に勧誘できなさそうなアトランティス研究者が、アトランティスの真相にまで踏み込みそうになったら、殺害する。
といった目的があるのだと思います。

 オコーナーがネアンデル渓谷を訪れる前からグレコ神父と面識があったのか、はっきりしませんが、ネアンデル渓谷で私に声をかけてきたときのことを覚えているか?とのオコーナーの発言から、面識はなかった可能性が高いように思われます。ただ、グレコ神父のほうは、アトランティス探索者ということでオコーナーのことを知っていて、その人物像や行動を把握していたと思われます。
 オコーナーがネアンデル渓谷を訪れたのは、アトランティス探索を続けていて、アトランティスとネアンデルタール人との関係に気づいたから、という可能性もありますが、グレコ神父のほうから、アトランティスに関する情報を教えるからネアンデル渓谷まで来るように、とオコーナーを誘ったと考えるほうがよさそうです。オコーナーのほうでは、誰からの誘いか分からないが、アトランティスの情報が得られるということで、ネアンデル渓谷に赴いたのでしょう。

 オコーナーはそこで、アトランティスにまつわる人類の禁忌をグレコ神父より聞き、「アダムの末裔」を脱会して「山の老人」に入ったのでしょうが、アトランティスにまつわる謎の全貌は知らされず、ヴィルヘルム=エンドレの主催したアトランティス会議を契機に、元アトランティス探索者としての好奇心もあって、グレコ神父を裏切り、アトランティスの謎の全貌を知ろうと決意したのだと思われます。
 しかしグレコ神父は、オコーナーの真の目的を疑い、オコーナーもグレコ神父に疑われていることに気づいたので、グレコ神父による粛清から逃れるため、また、自分の財閥が証券取引法違反・贈賄罪・恐喝罪・その他諸々の犯罪で起訴されそうだったという世俗的な理由のため、飛行機事故で死亡したと偽装し、組織のために邁進する、とグレコ神父に申し出たのでしょう。

 「山の老人」は通名だというのは、3巻所収の19話「欠けた月」にて、コーがミハリス=アウゲリス『ソロンの詩』の内容を説明するさいに明らかとなっていますが、同書によると、真の名を唱えれば「山の老人」を撃退できる、とされていて、「山の老人」の正体を知れば、「山の老人」も襲うのをためらうということだろう、とコーは解釈しています。コーのこの解釈は、「山の老人」に殺されたくなければ、その正体を暴け、との赤穴博士宛てのヒムラーの発言と通ずるものがあるように思われます。
 では「山の老人」の正式名が何なのかというと、まだ作中では明らかにされていませんが、アトランティスを隠蔽する結社の名称として、作中ではほかに、「秘密の箱を運ぶ人々」と「古き告訴人」とが挙げられています。ただ、この二つも通名なのかもしれず、とりあえず今は、名称の問題はおいておき、通名の「山の老人」を使用しておきます。

 「山の老人」の目的と歴史については、「山の老人」というよりは「山の老人の記憶を消し去る結社」と呼ぶべきだ、というグレコ神父の発言がじゅうような手がかりになっているように思われます。グレコ神父によると、考古学者は最初に発見されたネアンデルタール人の骨を「山の老人1号」と呼んでいるとのことですが、私はこのことを知らず、ちょっと手許の本を読んでみても、このような記述は見当たりませんでしたので、この件について何か判明したら、このブログで報告しようと思います。
 「山の老人の記憶を消し去る」というのがどういう意味なのか、現時点ではどうもはっきりしませんが、「山の老人の記憶」とは、アトランティス人が語り伝えてきた、人類にとって忌まわしい真実のことだろうと思われます。そうすると、「山の老人」とはアトランティス人のことでしょうが、ネアンデルタール人が「山の老人1号」と呼ばれている、とのグレコ神父の発言が気になります。

 9巻所収の72話「ゼウスの洞窟」にて、テルジス博士はクロマニヨン人とネアンデルタール人との混血を示唆していますから、アトランティス人は、ネアンデルタール人と混血し、ネアンデルタール人から神の概念などの文化を継承したクロマニヨン人の後裔なのではないか、という仮説を立ててみましたが、人類文化への多大な功績ゆえにネアンデルタール人が神と崇められるようになったとしても、人類の禁忌と言えるほどのことではないように思われます。
 ただ、人類の禁忌について、オコーナーはネアンデル渓谷にてグレコ神父に明かされたと思われるので、ネアンデルタール人が人類の禁忌に深く関わっているのは間違いない、と言えそうです。とはいっても、ネアンデルタール人とアトランティスの関係については、作中でもう少し手がかりが明らかにされないと、私の読解力・推理力では、これ以上の推測は難しいものがあります。

 ルスティケロの正体・真意については、以前考えてみたこともありますが、
https://sicambre.seesaa.net/article/200701article_18.html
始皇帝の棺にアトランティスの手がかりとなる羊皮紙や落書きを残していたことから、グレコ神父の懸念通り、「山の老人」や「秘密の箱を運ぶ人々」を欺き、アトランティスにまつわる秘密を後世の賢者のために残していたのではないか、と思われます。
 グレコ神父は入矢をソロモン王並の賢者と高く評価していますから、入矢とレイトン卿が合流し、入矢がレイトン卿のつかんだ新たな情報を知るのを恐れていますが、側近の懸念通り、すでに手遅れですから、グレコ神父自身の手で入矢を止めようとするのでしょう。これは、グレコ神父が直接出向いて入矢を殺すことを意味しているのだと思うのですが、あるいは入矢を説得しようとしているのかもしれません。

 『イリヤッド』は『入矢堂見聞録』と題されていますから、あるいは、入矢はアトランティスの真相に迫るが、それは人類にとってあまりにも衝撃的なので公表を控え、ルスティケロのように、後世の賢者のために『見聞録』を執筆し、どこかに保管する、という結末になりそうな気もします。
 「柱」をベルベル語でどういうのかも気になるところですが、今回伏せられたことからして、かなり重要な手がかりになりそうな気がしますので、次回それが明らかになることを期待しています。コロンブスと『東方見聞録』スペイン語版との関係も気になりますが、これも現時点ではまったく見当がつきませんので、今後どのように両者が結びつけられるのか、注目です。

 サスペンスの部分では、生死不明だったペーテルが生きていることが明らかになり、どうもペーテルは、クロジエを殺された復讐として、グレコ神父とその側近の命を狙っているようです。ただ、『イリヤッド』におけるグレコ神父は、主人公である入矢の最大の敵という位置づけですので、ペーテルがグレコ神父を殺そうとしても、返り討ちにあうことになりそうです。それにしても、8巻所収の58話「決斗」以降、ペーテルはどこで何をしていたのでしょうかねぇ・・・。
 レイトン卿が入矢たちと共闘することになりましたが、入矢が嫌いだと言い、何度も入矢を騙してきたレイトン卿だけに、最終的には入矢を裏切るのではないか、とも思います。ただ、レイトン卿は暴漢から入矢を護ったこともありますし、入矢がレイトン卿のことを友人と考えているのは、的外れというわけでもないのでしょう。レイトン卿は、冷静でありながら純粋というか子供っぽいところのある人で、入矢が嫌いだと言ったり、入矢を何度も騙したりしたのはそのためなのでしょうし、何が何でも真相にたどり着きたいというのは純粋さの表れでしょうから、入矢たちとの共闘は本気なのだと思います。

 予告は、「人々の世界観をくつがえした発見者・コロンブスと彼の島との関係は・・・!?驚愕の事実が明らかに・・・次号・・・」、「コロンブスの足跡を追う入矢とレイトンだが・・・!?」となっていて、コロンブスがアトランティスとどう関わってくるのか、共闘した入矢とレイトン卿にたいし、グレコ神父がどう対応するのか、ひじょうに気になるところです。また、4月27日に単行本14巻が刊行されるとのことで、こちらも楽しみです。

この記事へのコメント

kiki
2007年04月07日 11:02
劉公嗣さん、こんにちは!
ご無沙汰しております。
旅行に出掛け、帰ってからも多忙で、
なかなかコメントできませんでした。
でも、ずっと読ませて頂いています。

クロジェの死には、びっくりしました。
まさか予想していませんでした。
ぺーテルは、やはり生きていたのですね。
劉公嗣さんのおっしゃるように、今まで
何をしていたのか疑問です。
愛する女性とコンタクトは取っていたのでしょうか?

以前に幹部会で、グレコ神父が責められていたことを
考えると、彼の上には更に大物がいそうな気がするのですが。

謎がいくつもあって、本当に次が待ち遠しいです。
2007年04月07日 17:03
これはkikiさん、いつもお読み
いただき、ありがとうございます。

クロジエはたいへん感じの悪い
キャラでしたが(笑)、1話から
登場していますし(仮面をつけて
いましたが)、ちょっと寂しさも
あります。

ペーテルもよく分からない人物で、
復讐のためという解釈を提示しま
したが、あるいは別の意図もある
のかもしれません。

「山の老人」の内部事情については
私もよく分からなくて、今後グレコ
神父より上の立場の人間が登場する
かもしれませんね。
「山の老人」の成立経緯や正式名称が
判明すれば、こうした謎も分かるのかも
しれません。

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