アファレンシスは現生人類の祖先ではない?

 最近発見されたアウストラロピテクス=アファレンシスの下顎枝は、形態論的にはゴリラと似ている、という研究が発表されました。
http://www.pnas.org/cgi/content/short/104/16/6568

 これは、現存生物で人類にもっとも近縁なのはチンパンジーという通説からすると、予想外だったと言えます。現生人類やチンパンジーやオランウータンなど、多くの霊長目の動物は、ゴリラとは異なる下顎枝の特徴を共有しているので、ゴリラの下顎枝の形態は、独自に進化したものと思われます。
 また、アファレンシスにおける下顎枝の特徴も、独自に進化したものと思われますが、この特徴は、いわゆる頑丈型猿人のアウストラロピテクス=ロブストス(パラントロプス属に分類する研究者もいます)にも見られます。アファレンシス以前の人類であるアルディピテクス=ラミダスの下顎枝は、実質的にはチンパンジーとほぼ同じです。こうしたことから、アファレンシスが現生人類の祖先であるという通説は疑問である、と論文では指摘されています。

 現生人類の祖先と考える人の多かったアファレンシスですが、そうではない可能性が提示されたのは、多くの人にとって衝撃だったろうと思います。ただ、人類の系統図はかなり複雑なものだった可能性が高いのに、系統図を構築するための根拠となる人骨はあまりにも少ないので、新たな人骨の発見によって解釈が大きく異なってくることは予想の範囲内とも言え、このような仮説が提示されるのはとくに不思議ではないでしょう。私も5年前に、アファレンシスが現生人類の祖先としての地位を今後も保てるか不明である、と述べたことがあります。
http://www5a.biglobe.ne.jp/~hampton/051.htm
 ただ、これでアファレンシスが現生人類の祖先ではなくなるのかというと、断言するのは時期尚早のように思われます。おそらく、現在アファレンシスと分類されている人骨群の中に、ロブストスの祖先や現生人類の祖先がいたのでしょう。もっとも、アファレンシスが現生人類の祖先とはいっても、アファレンシスから直接現生人類に進化したのではなく、途中にガルヒ・ハビリス・エルガスター・ハイデルベルゲンシスなどがいたと考えられます。そうすると、現在アファレンシスと分類されている人骨群も、あるいは複数種から成る可能性もあるかもしれません。

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