『イリヤッド』116話「トロヤの東」(『ビッグコミックオリジナル』3/20号)
最新号が発売されたので、さっそく購入しました。前号では、
https://sicambre.seesaa.net/article/200702article_21.html
入矢の英国時代の醜聞が明らかになり、テネリフェ島の「冥界の王」のミイラに描かれた地図はモロッコとスペインを表しているのではないか、と入矢とゼプコ老人が推測していることが明らかになりました。予告は、「人間は失敗を繰り返して、強くなっていく。自分の選択に確信を持った入矢が次におこすモーションは?」、「レイトンと対面したクロジエが接触するのは・・・!?」となっていたので、久々に登場するレイトン卿とクロジエからどんな情報が明らかになるのか、クロジエが誰と接触するのか、たいへん気になっていたのですが・・・。
さて今回の話は、スペインのバレンシアでクロジエとレイトン卿が対面している場面から始まります。レイトン卿はカナリア諸島で入矢にいっぱい食わしたと自信満々でしたが(レイトン卿は入矢に「冥界の王」の偽のミイラを紹介しました)、
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_13.html
入矢はそこでアトランティスに関する重要な手がかりを得て、さらには始皇帝陵に潜入してまた重要な手がかりを得たというのに、レイトン卿のほうのアトランティス探索があまり進んでいないので、クロジエはレイトン卿にたいし、あなたを過大評価していたようだ、といって苛立っています。
作中での時間経過が明示されていないので断言できませんが、入矢とレイトン卿がカナリア諸島で会った話が掲載されたのが1年前で、その後に入矢たちが始皇帝陵に潜入した時期は、服装から判断して夏のことであり、入矢が赤穴博士と会ったのは、同じく服装から冬のことだと思われますので、レイトン卿がカナリア諸島に赴いてから1年近く経過していると考えても不思議ではありません。そうすると、カナリア諸島に行った後にレイトン卿のアトランティス探索がたいして進んでいないとなると、クロジエが苛立つのも無理はないでしょう。
入矢が始皇帝陵に潜入したと聞いたレイトン卿は、私も御相伴にあずかりたかった、と言って動じるところがありません。その態度にますます苛立ったクロジエは、多額の投資をしたのにそのお気楽ぶりは何だ、とレイトン卿を責めます。しかしレイトン卿は冷静で、入矢の動向にずいぶんお詳しいのですね、と指摘します。クロジエは一瞬言葉につまり、情報提供者がいるのだ、と答えます。するとレイトン卿は、まるでどこかの秘密結社のように優秀な情報提供者だ、と言います。
クロジエはちょっと慌てて話題を変え、ソロモン王と聖杯、テンプル騎士団とアトランティスの関係について何か分かったのか?と尋ねます。するとレイトン卿は、クロジエの持つパウル=シュリーマンの日記を吟味させてもらえれば何か分かるかもしれない、と答えます。前にも言ったように、あれを読めば殺されるのだ、とクロジエは答えます(8巻所収の63話「富める者貧しき者」にて、クロジエがレイトン卿に警告しています)。なぜあなたは殺されないのだ?とレイトン卿が問うと、クロジエは一瞬言いよどみ、運がいいのだ、と答えます。
まあいいか、と言ってそれ以上の追求を止めたレイトン卿は、テンプル騎士団がソロモンの宮殿跡で発見したのは聖杯で、それを騎士団の誰かがある所に封印したという伝説がある、とクロジエに答えます。どこに運んだのだ?とクロジエが問うと、聖杯はヘラクレスの柱の向こうに眠っているそうだが、アトランティスと関係があるかどうかは分からない、と答えます。
では、次どこを調査するのか?とクロジエはレイトン卿に尋ねますが、レイトン卿は「え?次って?」と言ってしまいます。入矢より優秀なのだから、とうぜん次の候補地も考えているわよねと言ったクロジエにたいし、レイトン卿は一瞬言葉につまりながらも、もちろん、と答えますが、どうも当てはないようで、沈黙してしまいます。レイトン卿は自尊心が高く、見栄っ張りですなあ(笑)。
色々と文句を言いつつも、レイトン卿を頼るしかないということなのか、最近、情報提供者から手がかりをもらっていたのを忘れていた、と言ってクロジエはレイトン卿に助け舟を出します。シュリーマンは晩年、『イソップ物語』の研究をしていたようだ、と教えたクロジエは、何か浮かんだ?とレイトン卿に尋ねます。『イソップ物語』は今のトルコとなる小アジアの伝説をモチーフにしており、シュリーマンも参考にしていたディオドロス『歴史叢書』に気になる箇所がある、とレイトン卿は答えます。
レイトン卿によると、『歴史叢書』第三巻第五章に、アトランティスと小アジアの女神は同一で、同じ説話が伝わっている、との記述があるとのことです。ディオドロスの謂うアトランティスはモロッコあたりなのに、小アジアとはずいぶん離れているのではないか?とクロジエが疑問を呈すると、それなのに同じキュベレという女神を信奉している、とレイトン卿は答えます。キュベレとは、リュディア・フリギア・トロヤなど小アジア全土で崇められていた女神だ、とレイトン卿は説明します。
そうすると、シュリーマンがトロヤで発見した梟の壺ということで、振り出しに戻るわけね、とクロジエは言います。トロヤに行く?とクロジエが尋ねると、そのつもりだ、とレイトン卿も答えます。裏切りはなし!何かあったら必ず報告するように、とクロジエがレイトン卿に厳命すると、私がトルコに滞在中、御身大切に、とレイトン卿は忠告します。
どういう意味だ?とクロジエが尋ねると、くれぐれも「山の老人」に始末されないようお祈りしております、とレイトン卿は答えます。レイトン卿はクロジエが「山の老人」とつながっており、いつかは殺される可能性があることに気づいているようですが、自分の命が「山の老人」に狙われる可能性については、今回もこれまでも言及したことがありません。貴族は死を恐れてはいけない(10巻所収の73話「ディオドロスのアトランティス」にてレイトン卿がこう発言しています)からでしょうか?
場面は変わってトロヤ遺跡です。遺跡に赴いたレイトン卿は、アトラスの子孫が小アジアに至り、フリギアの王ゆかりの土地を与えられ、トロヤを建設した、というギリシア神話を思い出していました。そこに、ガイドと旅行者たちが通りかかり、古代の地名をまじえてご説明しましょう、とガイドが旅行者たちに言います。これを聞いたレイトン卿は鼻で笑い、「いるんだよなあ。学者気どりのガイドが・・・・・・」と自尊心の高さと性格の悪さが窺われる発言をします(笑)。
トロヤ遺跡の東について説明を始めたガイドが、「古代の呼び名でいうと、スカマンドロス河があり、イダ山、北東に黒海・・・・・・黒海の向こうはコルキス、そしてコーカサス山脈・・・黒海とカスピ海の間にはノアが漂着したというアララト山・・・・・・アルメニア・・・・・・北にはイベリア・・・・・・ケラウニア山脈の反対側は・・・・・・さらに東側には・・・」と言ったところでレイトン卿が割り込んで、アルメニアとカスピ海の間になぜイベリアがあるのだ?と質問します。するとガイドは、ギリシア時代の地図の写しをレイトン卿に見せ、レイトン卿はあることに気づきますが、その地図が描かれないうちに場面が変わります。うーん、相変わらず引っ張りますなあ(笑)。
場面は変わって、グルジアのトビリシにある国立歴史地理学館です。ギリシア時代の地図の信憑性を確かめるべく、学芸員らしき男性に古地図を確認させてもらったレイトン卿ですが、コーカサス山脈の東、ケラウニア山脈の南の土地は、確かにかつてイベリアと呼ばれていました。
学芸員は、ストラボン『地誌』第二部第十一章のイベリア地方についての記述をレイトン卿に紹介します。ストラボンはイベリアという地名が欧州西端にもあることに着目し、金鉱ないしは金属と関係した言葉だと考えていましたが、グルジアの考古学者の中には、「ベリ」という言葉が「牛」を表すという者や、「柱」という意味だと考えている者もいます、と学芸員はレイトン卿に説明し、レイトン卿は金属・牛・柱という言葉に注目します。
学芸員はさらに、自分はもっと大胆に、古代イベリア人がここに移住したと推論している、と言います。彼らは紀元前3000年頃、アフリカからイベリア半島に移住した謎の民で、欧州の巨石文明を築いたと言われている、と学芸員は説明します。なぜ彼らはコーカサスに移住したのか?とレイトン卿が尋ねると、西方の神アトラスの末裔だ、と学芸員は答えます。神話によれば、彼らは黒海・カスピ海周辺・小アジアに流れ着き、トロヤなどを建国したが、災害か戦争か、移住する特別な事情が大昔にあったのだろう、と答えます。
さらに学芸員は、『東方見聞録』のスペイン語版には、マルコ=ポーロがコーカサスのイベリア地方を通過したさいの記述として、コーカサスのイベリア人は、自分たちの祖先は兎で、海を渡ってやって来たと信じているとの箇所がある、とレイトン卿に紹介します。兎と言われても閃くところがないレイトン卿にたいし、イベリアはスペイン(ヒスパニア)であり、スペインの語源はフェニキア語で「兎の土地」というから、面白い共通点だ、と学芸員は説明します。するとレイトン卿は得心した様子で、「ご慧眼、恐れ入りました」と言います。
場面は変わって、スペインのバレンシアにあるカフェです。クロジエは、グレコ神父の側近らしき男性に、レイトン卿がトロヤに向かったことを報告します。この男性は、6巻所収の45話「王様の腕」や12巻所収の94話「“冥界の王”の地図」などに登場しましたが、名前は明示されていません。意外と、この男性の名前がアトランティスの手がかりになっていて、最終回近くで明かされるのかもしれません。
シュリーマンがトロヤを発掘した目的は、真下にアトランティス文明があったからだ、というオチではないでしょうね?とクロジエは男に問いかけますが、男からの返答はありません。あなた方は本当にアトランティス文明の場所が分かっているのか?調べるだけ調べさせておいて、私を始末しようとしているのではないのか?とクロジエは男に尋ねます。すると男は、組織内にもいろいろな意見があり、変貌もするが、彼の島の場所について知る者もいれば知らない者もいるし、知りたいと望む者もいれば、知る必要がないという者もいると言い、はじめて人間らしい言葉をはいたわね、とクロジエ言います。
クロジエは男に、ボスに合わせてほしいと申し入れ、あなた方の組織に入れてほしい、と言います。自分は危険を恐れなかったので大実業家の地位を手に入れたが、危ない組織も中に入れば安全で便利なものだ、とクロジエは言います。すると男は、クロジエを組織に入れるメリットは何だ?と尋ね、私は大金持ちだ、とクロジエは満足そうに微笑みながら答えます。
この二日後、再びクロジエは男とカフェで会います。さすが秘密結社ね、返事に二日もかかるなんて、と言うクロジエにたいし、上の人間がお目にかかると申しています、と男は答えます。では案内して、と言うクロジエにたいし、明日バルセロナに行くように、と記した紙を男は渡します。そこでボスが待っているのか?と言うクロジエにたいし、案内の者が待っている、と男は答えます。あなたもボスの居場所が分からないのか、と言うクロジエにたいし、一瞬言いよどみながら、そうだ、と男は答えます。ガードが固いのね、と言いつつクロジエは席を立ちます。
すると、二日前も今回も、男の隣の席に背向かいで座って会話を聞いていたグレコ神父が、クロジエを尾行すれば、彼らの元に連れて行ってくれるのだね?と男に問いかけ、はい、と男は答えます。腐った果実は早急に取り除かねばならない、と言うグレコ神父にたいし、「しかし組織がこんな形で崩壊するのは、何か私には・・・・・・本当に彼の島の場所、このままでは発見が近いと?・・・・・・」と男は尋ねますが、すぐに、口が過ぎました、とグレコ神父に謝罪します。
入矢も裏切った者たちも「柱の王国」という言葉にたどりつき、カナリア諸島のテネリフェ島で発見されたミイラには、オリオン座に似た刺青が彫られていた、と言ったグレコ神父は、オリオンの図形を縦にしてみろ、と男に言い、男はそれが柱に見えることに気づきます。聖書の中に最初「人」の名として記された後、「都市」の名に変じた言葉があり、この語源は「柱」だが、それこそ我々が隠すべき秘密なのだ、とグレコ神父は言います。グレコ神父が、信頼できる者たちを集めてくれたね?と男に問い、はい、と男が答え、ご苦労!とグレコ神父が言うところで今回は終了です。
今回は、歴史ミステリー・サスペンス色の強い内容となり、アトランティスについての重要な手がかりが明らかとなって、これまでのさまざまな伏線が収束に向かっていることを予感させました。いよいよ終わりが見えてきたかなという気がしますが、未回収の伏線が少なくないので、まだしばらくは連載が続く可能性が高そうです。
サスペンスの側面では、107話で触れられた
https://sicambre.seesaa.net/article/200610article_26.html
「山の老人」内部の対立が新たな展開を迎え、クロジエが会うことになる「彼ら」とは、グレコ神父を殺そうとした他の幹部たちのことなのでしょう。グレコ神父の側近らしい男性は、グレコ神父を殺そうとした幹部たちと、今でも直接ではないにせよつながりを持っているようですが、グレコ神父と他の幹部たちとの対立はまだ決定的ではないのでしょうか?
「ボス」の存在も含めて、「山の老人」の組織構成がどうなっているのか、どうもよく分からないのですが、次号では、「山の老人」の組織構成がどうなっているのか、さらには「山の老人」の成立経緯の一端が明らかになるのではないか、と期待しています。そうすれば、アトランティスの場所、さらには人類の禁忌を解明する手がかりが得られそうです。
「山の老人」については、どのように組織を維持してきたのか、これまで不思議に思っていたのですが、今回のクロジエの行動は、「山の老人」における人材調達の参考になるかもしれません。「山の老人」の幹部がアトランティスに関心のある富豪や知識人を勧誘したり、クロジエのように自分から入会を申し出た人物が、「山の老人」の幹部により加入が許可されたりして、組織が維持されているのかもしれません。
ただクロジエは、グレコ神父が殲滅対象としている、組織を裏切った(とグレコ神父が解釈している)「腐った果実」である他の幹部と同類だと思われているでしょうから、他の幹部たちと会うと、グレコ神父の配下により他の幹部たちとともに殺害されることになるかもしれません。おそらくテンプル騎士団も、そのように判断されて粛清されたのでしょう。オコーナーは、その「腐った果実」である幹部の一人か、幹部と組んでいる人物ではないかと予想しているのですが、どうなるでしょうか。
また、グレコ神父以外の幹部がどのような目的で「裏切った」のかも気になります。クロジエの場合は、単なるアトランティスマニアのように思われますが、他の幹部もそうなのでしょうか?あるいは、アトランティスにまつわる謎を独占し、その隠蔽を条件に各国の政府から富と権力を得ようとしているのかもしれません。「山の老人」が隠蔽し続けてきた人類の禁忌がたいへんな衝撃だとすると、各国政府を脅迫して富と権力を得ることも可能だと考える者がいても、不思議ではないかもしれません。
歴史ミステリーの側面では、大きな前進があったように思われます。アフリカからイベリア半島に移住し、欧州の巨石文明を築いた謎の民は、西方の神アトラスの末裔で、黒海・カスピ海周辺・小アジアに流れ着き、トロヤなどを建国した可能性が指摘されました。おそらく、トロヤの建国者はアトランティス人の生き残りで、赤穴博士の指摘したトロヤとアトランティスの類似点はそのためだ、ということになるのでしょう。ただ、アトランティス人と思われる古代イベリア人が、紀元前3000年頃にアフリカからイベリア半島に移住した、と学芸員らしき男が説明しているのが気になります。
アトランティスは元々アフリカにあったのでしょうか?それとも、前号で入矢とゼプコ老人が推測したように、地中海からジブラルタル海峡に抜けてすぐの大西洋上、南北にスペインとモロッコの位置する海上にあった島こそアトランティスで、アトランティスはその滅亡前には、スペイン・モロッコの沿岸をはじめとして、地中海にまで勢力を伸ばしたということでしょうか?現時点では私にはどうもよく分かりませんが、今回明らかになった情報により、トロヤ説はいい線を突きながらも間違いで、アトランティスは大西洋上の島か、大陸の大西洋岸にある可能性が高くなったと思います。
もっとも、イベリアが金鉱ないしは金属と関係した言葉で、さらにはこれまでアトランティスの重要な手がかりとされてきた「牛」や「柱」との関わりも指摘されたことからすると、素直にイベリア半島こそアトランティスと考えてよいのかな、という気もします。また、
https://sicambre.seesaa.net/article/200702article_5.html
でも紹介した、フェニキア語では「兎」を‘Saphan’=「兎」と言い、イベリア半島南部がカルタゴ人に‘i-spehan-in’=「兎のいる海岸」と呼ばれていたのが、イスパニア(スペイン)の語源であるという説が取り上げられたのも、イベリア半島説に有利な点かな、と思います。
しかし、アトランティスが地中海ではなく、アフリカまたは欧州の大西洋岸か、大西洋上の島にあったとなると、アトランティスに攻め込んだとされるギリシアとの距離が遠いのが気になります。『イリヤッド』でも、紀元前3世紀までのギリシア人でジブラルタル海峡を越えたのは二人だけで、それも嵐で偶然越えたにすぎず、それまではフェニキア人のみが自在にジブラルタル海峡を越えて大西洋に進出できた、とされています。
あくまで推測ですが、トロヤはアトランティス人の後裔が建国したとされているので、後のトロヤ戦争との混同から、ギリシア勢力がアトランティスに攻め込んだ、とされたのかもしれません。また、「アトランティスはそれを創造した者自らが破壊した」というアリストテレスの発言からすると、アトランティス人の一部が、アトランティス人が語り継いできた人類の禁忌を抹殺しようとしてアトランティスの本拠に攻め込み、その最中に地震でアトランティスは滅亡した、ということなのかもしれません。
アトランティスはエトルリアまで勢力を伸ばしていたとされるので、地中海にいて高度な航海技術を有するアトランティス勢力の一部なら、ジブラルタル海峡を越えてアトランティスの本拠を攻めるのも可能でしょう。アトランティスの本拠に攻めいったアトランティスの反逆者たちこそ、後の「古き告訴人」・「秘密の箱を運ぶ人々」・「山の老人」の前身で、『イソップ物語』の「柱の王国」にて描かれた梟の女王の国のことなのかもしれませんが、この推測が正解の可能性は低いかな、とも思います。
また、グレコ神父からも重要と思われる手がかりが語られました。聖書(おそらく『旧約聖書』のことでしょう)で「人」の名として記された後、「都市」の名に変じた、語源が「柱」の言葉こそ、「山の老人」が隠すべき秘密だというのですが、何のことを指しているのか、私にはさっぱり分かりませんでした。聖書学の研究者だとすぐに分かるのでしょうか?
これはアトランティスの場所についての手がかりというよりは、アトランティス人が語り継いできた人類の禁忌に関わる手がかりだと思われるのですが、現時点では、柱が天・神と人間を結びつけているということ以外に、謎とつながるような解釈を思いつきませんでした。次号でこの謎のさらなる手がかりが提示されることを期待しています。それにしても、『千一夜物語』のどの話がアトランティスの場所の手がかりなのか、ずいぶんと引っ張るのが気になります。あるいは、『イリヤッド』でのこれまでの流れを踏まえてその話を読めば、アトランティスの場所が容易に分かるので、紹介を後回しにしているのでしょうか?
予告は「全てはアトランティスの謎を知るため・・・秘密結社“山の老人”と接触するマダム・クロジエの身に何が!?」となっています。まさかとは思いますが、「山の老人」のボスや幹部の一人が入矢の父だったら、落胆してしまいそうです。ミステリーだと、主人公を狙う組織の長が、じつは主人公の身近な存在(家族・友人・上司・恩師など)だったという設定が見受けられますが、『イリヤッド』でそれをやられると、なんだか作品が安っぽく感じられそうです。
もっとも、伏線が新たな展開を生み、その展開が新たな伏線をもたらす、という重厚な構造の作品だけに、ここにきて急に、これまでまったく伏線のない入矢の父が登場するのも考えにくいことではありますが・・・。ただ、オコーナー・グレコ神父・張以外の登場済の人物の中にも、あるいは「山の老人」の幹部がいる可能性はあると思います。
ところで、今回久々にクロジエが登場して思い出したのですが、クロジエ配下の殺し屋兼運転手のペーテルは生死不明で、もし生きていたとしたら、クロジエがじゅうような鍵をにぎりそうな次回では、再登場があるかもしれません。ペーテルは「山の老人」がクロジエに付けた目付け役でもあったのかな、とも考えたことがありますが、さてどうでしょうか。ともかく、次号もたいへん楽しみです。
https://sicambre.seesaa.net/article/200702article_21.html
入矢の英国時代の醜聞が明らかになり、テネリフェ島の「冥界の王」のミイラに描かれた地図はモロッコとスペインを表しているのではないか、と入矢とゼプコ老人が推測していることが明らかになりました。予告は、「人間は失敗を繰り返して、強くなっていく。自分の選択に確信を持った入矢が次におこすモーションは?」、「レイトンと対面したクロジエが接触するのは・・・!?」となっていたので、久々に登場するレイトン卿とクロジエからどんな情報が明らかになるのか、クロジエが誰と接触するのか、たいへん気になっていたのですが・・・。
さて今回の話は、スペインのバレンシアでクロジエとレイトン卿が対面している場面から始まります。レイトン卿はカナリア諸島で入矢にいっぱい食わしたと自信満々でしたが(レイトン卿は入矢に「冥界の王」の偽のミイラを紹介しました)、
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_13.html
入矢はそこでアトランティスに関する重要な手がかりを得て、さらには始皇帝陵に潜入してまた重要な手がかりを得たというのに、レイトン卿のほうのアトランティス探索があまり進んでいないので、クロジエはレイトン卿にたいし、あなたを過大評価していたようだ、といって苛立っています。
作中での時間経過が明示されていないので断言できませんが、入矢とレイトン卿がカナリア諸島で会った話が掲載されたのが1年前で、その後に入矢たちが始皇帝陵に潜入した時期は、服装から判断して夏のことであり、入矢が赤穴博士と会ったのは、同じく服装から冬のことだと思われますので、レイトン卿がカナリア諸島に赴いてから1年近く経過していると考えても不思議ではありません。そうすると、カナリア諸島に行った後にレイトン卿のアトランティス探索がたいして進んでいないとなると、クロジエが苛立つのも無理はないでしょう。
入矢が始皇帝陵に潜入したと聞いたレイトン卿は、私も御相伴にあずかりたかった、と言って動じるところがありません。その態度にますます苛立ったクロジエは、多額の投資をしたのにそのお気楽ぶりは何だ、とレイトン卿を責めます。しかしレイトン卿は冷静で、入矢の動向にずいぶんお詳しいのですね、と指摘します。クロジエは一瞬言葉につまり、情報提供者がいるのだ、と答えます。するとレイトン卿は、まるでどこかの秘密結社のように優秀な情報提供者だ、と言います。
クロジエはちょっと慌てて話題を変え、ソロモン王と聖杯、テンプル騎士団とアトランティスの関係について何か分かったのか?と尋ねます。するとレイトン卿は、クロジエの持つパウル=シュリーマンの日記を吟味させてもらえれば何か分かるかもしれない、と答えます。前にも言ったように、あれを読めば殺されるのだ、とクロジエは答えます(8巻所収の63話「富める者貧しき者」にて、クロジエがレイトン卿に警告しています)。なぜあなたは殺されないのだ?とレイトン卿が問うと、クロジエは一瞬言いよどみ、運がいいのだ、と答えます。
まあいいか、と言ってそれ以上の追求を止めたレイトン卿は、テンプル騎士団がソロモンの宮殿跡で発見したのは聖杯で、それを騎士団の誰かがある所に封印したという伝説がある、とクロジエに答えます。どこに運んだのだ?とクロジエが問うと、聖杯はヘラクレスの柱の向こうに眠っているそうだが、アトランティスと関係があるかどうかは分からない、と答えます。
では、次どこを調査するのか?とクロジエはレイトン卿に尋ねますが、レイトン卿は「え?次って?」と言ってしまいます。入矢より優秀なのだから、とうぜん次の候補地も考えているわよねと言ったクロジエにたいし、レイトン卿は一瞬言葉につまりながらも、もちろん、と答えますが、どうも当てはないようで、沈黙してしまいます。レイトン卿は自尊心が高く、見栄っ張りですなあ(笑)。
色々と文句を言いつつも、レイトン卿を頼るしかないということなのか、最近、情報提供者から手がかりをもらっていたのを忘れていた、と言ってクロジエはレイトン卿に助け舟を出します。シュリーマンは晩年、『イソップ物語』の研究をしていたようだ、と教えたクロジエは、何か浮かんだ?とレイトン卿に尋ねます。『イソップ物語』は今のトルコとなる小アジアの伝説をモチーフにしており、シュリーマンも参考にしていたディオドロス『歴史叢書』に気になる箇所がある、とレイトン卿は答えます。
レイトン卿によると、『歴史叢書』第三巻第五章に、アトランティスと小アジアの女神は同一で、同じ説話が伝わっている、との記述があるとのことです。ディオドロスの謂うアトランティスはモロッコあたりなのに、小アジアとはずいぶん離れているのではないか?とクロジエが疑問を呈すると、それなのに同じキュベレという女神を信奉している、とレイトン卿は答えます。キュベレとは、リュディア・フリギア・トロヤなど小アジア全土で崇められていた女神だ、とレイトン卿は説明します。
そうすると、シュリーマンがトロヤで発見した梟の壺ということで、振り出しに戻るわけね、とクロジエは言います。トロヤに行く?とクロジエが尋ねると、そのつもりだ、とレイトン卿も答えます。裏切りはなし!何かあったら必ず報告するように、とクロジエがレイトン卿に厳命すると、私がトルコに滞在中、御身大切に、とレイトン卿は忠告します。
どういう意味だ?とクロジエが尋ねると、くれぐれも「山の老人」に始末されないようお祈りしております、とレイトン卿は答えます。レイトン卿はクロジエが「山の老人」とつながっており、いつかは殺される可能性があることに気づいているようですが、自分の命が「山の老人」に狙われる可能性については、今回もこれまでも言及したことがありません。貴族は死を恐れてはいけない(10巻所収の73話「ディオドロスのアトランティス」にてレイトン卿がこう発言しています)からでしょうか?
場面は変わってトロヤ遺跡です。遺跡に赴いたレイトン卿は、アトラスの子孫が小アジアに至り、フリギアの王ゆかりの土地を与えられ、トロヤを建設した、というギリシア神話を思い出していました。そこに、ガイドと旅行者たちが通りかかり、古代の地名をまじえてご説明しましょう、とガイドが旅行者たちに言います。これを聞いたレイトン卿は鼻で笑い、「いるんだよなあ。学者気どりのガイドが・・・・・・」と自尊心の高さと性格の悪さが窺われる発言をします(笑)。
トロヤ遺跡の東について説明を始めたガイドが、「古代の呼び名でいうと、スカマンドロス河があり、イダ山、北東に黒海・・・・・・黒海の向こうはコルキス、そしてコーカサス山脈・・・黒海とカスピ海の間にはノアが漂着したというアララト山・・・・・・アルメニア・・・・・・北にはイベリア・・・・・・ケラウニア山脈の反対側は・・・・・・さらに東側には・・・」と言ったところでレイトン卿が割り込んで、アルメニアとカスピ海の間になぜイベリアがあるのだ?と質問します。するとガイドは、ギリシア時代の地図の写しをレイトン卿に見せ、レイトン卿はあることに気づきますが、その地図が描かれないうちに場面が変わります。うーん、相変わらず引っ張りますなあ(笑)。
場面は変わって、グルジアのトビリシにある国立歴史地理学館です。ギリシア時代の地図の信憑性を確かめるべく、学芸員らしき男性に古地図を確認させてもらったレイトン卿ですが、コーカサス山脈の東、ケラウニア山脈の南の土地は、確かにかつてイベリアと呼ばれていました。
学芸員は、ストラボン『地誌』第二部第十一章のイベリア地方についての記述をレイトン卿に紹介します。ストラボンはイベリアという地名が欧州西端にもあることに着目し、金鉱ないしは金属と関係した言葉だと考えていましたが、グルジアの考古学者の中には、「ベリ」という言葉が「牛」を表すという者や、「柱」という意味だと考えている者もいます、と学芸員はレイトン卿に説明し、レイトン卿は金属・牛・柱という言葉に注目します。
学芸員はさらに、自分はもっと大胆に、古代イベリア人がここに移住したと推論している、と言います。彼らは紀元前3000年頃、アフリカからイベリア半島に移住した謎の民で、欧州の巨石文明を築いたと言われている、と学芸員は説明します。なぜ彼らはコーカサスに移住したのか?とレイトン卿が尋ねると、西方の神アトラスの末裔だ、と学芸員は答えます。神話によれば、彼らは黒海・カスピ海周辺・小アジアに流れ着き、トロヤなどを建国したが、災害か戦争か、移住する特別な事情が大昔にあったのだろう、と答えます。
さらに学芸員は、『東方見聞録』のスペイン語版には、マルコ=ポーロがコーカサスのイベリア地方を通過したさいの記述として、コーカサスのイベリア人は、自分たちの祖先は兎で、海を渡ってやって来たと信じているとの箇所がある、とレイトン卿に紹介します。兎と言われても閃くところがないレイトン卿にたいし、イベリアはスペイン(ヒスパニア)であり、スペインの語源はフェニキア語で「兎の土地」というから、面白い共通点だ、と学芸員は説明します。するとレイトン卿は得心した様子で、「ご慧眼、恐れ入りました」と言います。
場面は変わって、スペインのバレンシアにあるカフェです。クロジエは、グレコ神父の側近らしき男性に、レイトン卿がトロヤに向かったことを報告します。この男性は、6巻所収の45話「王様の腕」や12巻所収の94話「“冥界の王”の地図」などに登場しましたが、名前は明示されていません。意外と、この男性の名前がアトランティスの手がかりになっていて、最終回近くで明かされるのかもしれません。
シュリーマンがトロヤを発掘した目的は、真下にアトランティス文明があったからだ、というオチではないでしょうね?とクロジエは男に問いかけますが、男からの返答はありません。あなた方は本当にアトランティス文明の場所が分かっているのか?調べるだけ調べさせておいて、私を始末しようとしているのではないのか?とクロジエは男に尋ねます。すると男は、組織内にもいろいろな意見があり、変貌もするが、彼の島の場所について知る者もいれば知らない者もいるし、知りたいと望む者もいれば、知る必要がないという者もいると言い、はじめて人間らしい言葉をはいたわね、とクロジエ言います。
クロジエは男に、ボスに合わせてほしいと申し入れ、あなた方の組織に入れてほしい、と言います。自分は危険を恐れなかったので大実業家の地位を手に入れたが、危ない組織も中に入れば安全で便利なものだ、とクロジエは言います。すると男は、クロジエを組織に入れるメリットは何だ?と尋ね、私は大金持ちだ、とクロジエは満足そうに微笑みながら答えます。
この二日後、再びクロジエは男とカフェで会います。さすが秘密結社ね、返事に二日もかかるなんて、と言うクロジエにたいし、上の人間がお目にかかると申しています、と男は答えます。では案内して、と言うクロジエにたいし、明日バルセロナに行くように、と記した紙を男は渡します。そこでボスが待っているのか?と言うクロジエにたいし、案内の者が待っている、と男は答えます。あなたもボスの居場所が分からないのか、と言うクロジエにたいし、一瞬言いよどみながら、そうだ、と男は答えます。ガードが固いのね、と言いつつクロジエは席を立ちます。
すると、二日前も今回も、男の隣の席に背向かいで座って会話を聞いていたグレコ神父が、クロジエを尾行すれば、彼らの元に連れて行ってくれるのだね?と男に問いかけ、はい、と男は答えます。腐った果実は早急に取り除かねばならない、と言うグレコ神父にたいし、「しかし組織がこんな形で崩壊するのは、何か私には・・・・・・本当に彼の島の場所、このままでは発見が近いと?・・・・・・」と男は尋ねますが、すぐに、口が過ぎました、とグレコ神父に謝罪します。
入矢も裏切った者たちも「柱の王国」という言葉にたどりつき、カナリア諸島のテネリフェ島で発見されたミイラには、オリオン座に似た刺青が彫られていた、と言ったグレコ神父は、オリオンの図形を縦にしてみろ、と男に言い、男はそれが柱に見えることに気づきます。聖書の中に最初「人」の名として記された後、「都市」の名に変じた言葉があり、この語源は「柱」だが、それこそ我々が隠すべき秘密なのだ、とグレコ神父は言います。グレコ神父が、信頼できる者たちを集めてくれたね?と男に問い、はい、と男が答え、ご苦労!とグレコ神父が言うところで今回は終了です。
今回は、歴史ミステリー・サスペンス色の強い内容となり、アトランティスについての重要な手がかりが明らかとなって、これまでのさまざまな伏線が収束に向かっていることを予感させました。いよいよ終わりが見えてきたかなという気がしますが、未回収の伏線が少なくないので、まだしばらくは連載が続く可能性が高そうです。
サスペンスの側面では、107話で触れられた
https://sicambre.seesaa.net/article/200610article_26.html
「山の老人」内部の対立が新たな展開を迎え、クロジエが会うことになる「彼ら」とは、グレコ神父を殺そうとした他の幹部たちのことなのでしょう。グレコ神父の側近らしい男性は、グレコ神父を殺そうとした幹部たちと、今でも直接ではないにせよつながりを持っているようですが、グレコ神父と他の幹部たちとの対立はまだ決定的ではないのでしょうか?
「ボス」の存在も含めて、「山の老人」の組織構成がどうなっているのか、どうもよく分からないのですが、次号では、「山の老人」の組織構成がどうなっているのか、さらには「山の老人」の成立経緯の一端が明らかになるのではないか、と期待しています。そうすれば、アトランティスの場所、さらには人類の禁忌を解明する手がかりが得られそうです。
「山の老人」については、どのように組織を維持してきたのか、これまで不思議に思っていたのですが、今回のクロジエの行動は、「山の老人」における人材調達の参考になるかもしれません。「山の老人」の幹部がアトランティスに関心のある富豪や知識人を勧誘したり、クロジエのように自分から入会を申し出た人物が、「山の老人」の幹部により加入が許可されたりして、組織が維持されているのかもしれません。
ただクロジエは、グレコ神父が殲滅対象としている、組織を裏切った(とグレコ神父が解釈している)「腐った果実」である他の幹部と同類だと思われているでしょうから、他の幹部たちと会うと、グレコ神父の配下により他の幹部たちとともに殺害されることになるかもしれません。おそらくテンプル騎士団も、そのように判断されて粛清されたのでしょう。オコーナーは、その「腐った果実」である幹部の一人か、幹部と組んでいる人物ではないかと予想しているのですが、どうなるでしょうか。
また、グレコ神父以外の幹部がどのような目的で「裏切った」のかも気になります。クロジエの場合は、単なるアトランティスマニアのように思われますが、他の幹部もそうなのでしょうか?あるいは、アトランティスにまつわる謎を独占し、その隠蔽を条件に各国の政府から富と権力を得ようとしているのかもしれません。「山の老人」が隠蔽し続けてきた人類の禁忌がたいへんな衝撃だとすると、各国政府を脅迫して富と権力を得ることも可能だと考える者がいても、不思議ではないかもしれません。
歴史ミステリーの側面では、大きな前進があったように思われます。アフリカからイベリア半島に移住し、欧州の巨石文明を築いた謎の民は、西方の神アトラスの末裔で、黒海・カスピ海周辺・小アジアに流れ着き、トロヤなどを建国した可能性が指摘されました。おそらく、トロヤの建国者はアトランティス人の生き残りで、赤穴博士の指摘したトロヤとアトランティスの類似点はそのためだ、ということになるのでしょう。ただ、アトランティス人と思われる古代イベリア人が、紀元前3000年頃にアフリカからイベリア半島に移住した、と学芸員らしき男が説明しているのが気になります。
アトランティスは元々アフリカにあったのでしょうか?それとも、前号で入矢とゼプコ老人が推測したように、地中海からジブラルタル海峡に抜けてすぐの大西洋上、南北にスペインとモロッコの位置する海上にあった島こそアトランティスで、アトランティスはその滅亡前には、スペイン・モロッコの沿岸をはじめとして、地中海にまで勢力を伸ばしたということでしょうか?現時点では私にはどうもよく分かりませんが、今回明らかになった情報により、トロヤ説はいい線を突きながらも間違いで、アトランティスは大西洋上の島か、大陸の大西洋岸にある可能性が高くなったと思います。
もっとも、イベリアが金鉱ないしは金属と関係した言葉で、さらにはこれまでアトランティスの重要な手がかりとされてきた「牛」や「柱」との関わりも指摘されたことからすると、素直にイベリア半島こそアトランティスと考えてよいのかな、という気もします。また、
https://sicambre.seesaa.net/article/200702article_5.html
でも紹介した、フェニキア語では「兎」を‘Saphan’=「兎」と言い、イベリア半島南部がカルタゴ人に‘i-spehan-in’=「兎のいる海岸」と呼ばれていたのが、イスパニア(スペイン)の語源であるという説が取り上げられたのも、イベリア半島説に有利な点かな、と思います。
しかし、アトランティスが地中海ではなく、アフリカまたは欧州の大西洋岸か、大西洋上の島にあったとなると、アトランティスに攻め込んだとされるギリシアとの距離が遠いのが気になります。『イリヤッド』でも、紀元前3世紀までのギリシア人でジブラルタル海峡を越えたのは二人だけで、それも嵐で偶然越えたにすぎず、それまではフェニキア人のみが自在にジブラルタル海峡を越えて大西洋に進出できた、とされています。
あくまで推測ですが、トロヤはアトランティス人の後裔が建国したとされているので、後のトロヤ戦争との混同から、ギリシア勢力がアトランティスに攻め込んだ、とされたのかもしれません。また、「アトランティスはそれを創造した者自らが破壊した」というアリストテレスの発言からすると、アトランティス人の一部が、アトランティス人が語り継いできた人類の禁忌を抹殺しようとしてアトランティスの本拠に攻め込み、その最中に地震でアトランティスは滅亡した、ということなのかもしれません。
アトランティスはエトルリアまで勢力を伸ばしていたとされるので、地中海にいて高度な航海技術を有するアトランティス勢力の一部なら、ジブラルタル海峡を越えてアトランティスの本拠を攻めるのも可能でしょう。アトランティスの本拠に攻めいったアトランティスの反逆者たちこそ、後の「古き告訴人」・「秘密の箱を運ぶ人々」・「山の老人」の前身で、『イソップ物語』の「柱の王国」にて描かれた梟の女王の国のことなのかもしれませんが、この推測が正解の可能性は低いかな、とも思います。
また、グレコ神父からも重要と思われる手がかりが語られました。聖書(おそらく『旧約聖書』のことでしょう)で「人」の名として記された後、「都市」の名に変じた、語源が「柱」の言葉こそ、「山の老人」が隠すべき秘密だというのですが、何のことを指しているのか、私にはさっぱり分かりませんでした。聖書学の研究者だとすぐに分かるのでしょうか?
これはアトランティスの場所についての手がかりというよりは、アトランティス人が語り継いできた人類の禁忌に関わる手がかりだと思われるのですが、現時点では、柱が天・神と人間を結びつけているということ以外に、謎とつながるような解釈を思いつきませんでした。次号でこの謎のさらなる手がかりが提示されることを期待しています。それにしても、『千一夜物語』のどの話がアトランティスの場所の手がかりなのか、ずいぶんと引っ張るのが気になります。あるいは、『イリヤッド』でのこれまでの流れを踏まえてその話を読めば、アトランティスの場所が容易に分かるので、紹介を後回しにしているのでしょうか?
予告は「全てはアトランティスの謎を知るため・・・秘密結社“山の老人”と接触するマダム・クロジエの身に何が!?」となっています。まさかとは思いますが、「山の老人」のボスや幹部の一人が入矢の父だったら、落胆してしまいそうです。ミステリーだと、主人公を狙う組織の長が、じつは主人公の身近な存在(家族・友人・上司・恩師など)だったという設定が見受けられますが、『イリヤッド』でそれをやられると、なんだか作品が安っぽく感じられそうです。
もっとも、伏線が新たな展開を生み、その展開が新たな伏線をもたらす、という重厚な構造の作品だけに、ここにきて急に、これまでまったく伏線のない入矢の父が登場するのも考えにくいことではありますが・・・。ただ、オコーナー・グレコ神父・張以外の登場済の人物の中にも、あるいは「山の老人」の幹部がいる可能性はあると思います。
ところで、今回久々にクロジエが登場して思い出したのですが、クロジエ配下の殺し屋兼運転手のペーテルは生死不明で、もし生きていたとしたら、クロジエがじゅうような鍵をにぎりそうな次回では、再登場があるかもしれません。ペーテルは「山の老人」がクロジエに付けた目付け役でもあったのかな、とも考えたことがありますが、さてどうでしょうか。ともかく、次号もたいへん楽しみです。
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