グレードに替わる新たな呼称

 日本(JRA?)の競馬パートI国昇格にともない、国際セリ名簿基準委員会(ICSC)によってグレードが認定されていない、皐月賞・東京優駿(日本ダービー)・菊花賞のような、これまでJRA(中央競馬会)がグレードレースと自称してきたレースについては、‘G(グレード)’表記の使用を中止するように、との勧告がICSCよりなされたことは3月1日分で述べましたが、
https://sicambre.seesaa.net/article/200703article_1.html
この問題にたいするJRAの是正措置が正式に発表されました。
http://www.jra.go.jp/news/200703/032801.html
 すでにマスコミで先行報道されていましたが、表記については大文字と小文字の区分が各マスコミによって異なっていて、正式発表までこのブログでも触れませんでした。新たな正式呼称は「Jpn」で、読み方はとくに明記されていません。これは今年からの適用となり、じゅうらいのJRAのグレード表記の変更はありません。すっかり、過去にさかのぼってJRAGIをJpnIと読み替えるのかと思っていただけに、意外でした。

 つまり、たとえば正規の(国際)GIは未勝利で、JRAが自称していただけのGIを4勝したシンボリクリスエスは、GI未勝利でJpnI4勝となるわけではなく、じゅうらいJRA・日本のマスコミにて使用されていたGI4勝という表記になります。国際GI2勝でJRAが自称していただけのGIを5勝したディープインパクトも、昨年までの日本国内での表記通り、GI7勝ということになります。
 ちなみに、ディープインパクトが七冠馬から二冠馬に格下げになる恐れがある、との報道が以前一部でありましたが、JRAはもとより欧米でもグレード・グループという格付けのなかった時代のシンザンが、今でも五冠馬と呼ばれているように、たとえ過去のJRAの自称GIをすべてJpnIと読み替えることになっていたとしても、ディープインパクトも七冠馬のままでよかったと思います(GI7勝ではなく2勝となりますが)。幸か不幸か、そうはなりませんでしたが。

 JRAの発表によると、JRAの重賞をJRA自身がI・II・IIIと分類することに変わりはなく、国際グレードが認定された重賞についてはGI・II・IIIと表記し、その他のJRAの重賞については、ダートグレード競争をのぞいて、じゅうらい通りJRAが勝手に格付けした分類をそのまま表記するということのようです(ダートグレード競争の格付けについては、JRA単独ではなく、ダート競走格付け委員会との協議で決まります)。つまり、JRAは願望に基づいた自称格付けと国際グレードとを事実上同一視しているわけで、表記を変えただけにすぎず、実質的には以前と変わらないと言えます。しかも、1984年から2006年までの自称グレードについては不問となりました。
 JRAは内部向けにはわりと上手くやった、と言えるかもしれませんが、これにより、国際グレードとJRAの自称グレードを同じ価値であるかのようにみなしてきた、多くの競馬関係者・ファンの考えを改める機会を失ったとも言えるわけです。これは、国際グレードとJRAの自称グレードを同じ価値であるかのように喧伝してきたJRAとマスコミの責任だと思います。まあ私も、日記を書き始めた8年前は、たとえばマイルチャンピオンシップはJRAGI、ジャパンカップはGIと区別して表記していましたが、近年では面倒になり、ダート交流競争のグレードも含めてまとめて‘G’と表記していたので、反省しなければなりません。こうした問題は昔から分かっていたはずですが、ぎりぎりまで追い込まれないと立ち上がらない人・組織は珍しくなく、怠惰な私もそうした人間の一人なので、自戒させられるところも多分にあった一連の騒動でした。

 また、国際レースはJRAの申請がそのまま通るというものでもなさそうで、目黒記念のように、国際レースでありながらGではなくJpnに分類されているレースも少なからずあります。おそらく、レースレーティングが足りなかったからなのでしょうが、今後は、このようにJRAの希望が退けられて国際グレードが認定されなかったり、国際グレードに認定されても格下げを要求されたりすることもあるでしょう。
 たとえば高松宮記念は、一応GIと認定されましたが、近い将来の格下げの可能性はけっして低くないと思います。そうした場合、JRAは素直にGIIとするのでしょうか?それとも、格下げを要求されそうだったら、国際グレードの認定申請を行なわず、JpnIとするのでしょうか(可能かどうかは知りませんが)?もし可能だったら、どうも後者になりそうな気がします。

 ちなみに、ダート競走格付け委員会による認定のなされているダートグレード競争では、ICSCに認定された国際グレードのレースはGI・II・III(国際レースはJRAのレースのみなので、日本における国際グレードのダートレースはすべてJRAの主催となります)と表記し、他のレースはダート競走格付け委員会による認定にしたがって、JpnI・II・IIIと表記するとのことです。呼称は、両方「ジーワン・ジーツー・ジースリー」とのことで、姑息な感じもします。呼称を明記していないJRAはどうするのでしょうか?
http://www.keiba.go.jp/topics/2007/0328.html
 ばんえい・北海道・南関東・東海・九州・JRAの障害競走の格付けについては、今のところ報道がありませんが、ばんえいや障害競走は問題ないとして、‘G’表記を使用している南関東にたいしては、ICSCからそのうち勧告があるかもしれず、やはりなんらかの是正措置をとらざるをえなくなるでしょう。南関東ということで、MGまたはMKと表記するのでしょうか?他の地区は、‘G’そのものを使用しているわけではないので、多分問題視されることはないと思います。

 それにしても、二重基準の格付けは、たとえば香港でも採用されているとはいえ、あくまで国際グレードと香港内部での格付けの並立で、日本のように、国際機関・ダート競走格付け委員会・各競馬主催者(JRA・ばんえい・北海道・南関東・東海・九州)による格付けが並立しているというのは、おそらく他国では例がなく、たいへんややこしいものです。
 ダート競走格付け委員会の格付けに関しては、事実上JRAと同一の基準なので、JRAのダートレースについてはあまり問題がないにしても、南関東のダートグレードレースにおける格付けの二重基準は解消されないままで(ダート競走格付け委員会と南関東による格付け)、まあ気にしている人はあまりいないかもしれませんが、日本国内ですら格付け基準が並立しているのは、どうかと思います。もっとも、こうしたややこしさは、日本全体を統括する競馬機関がないことに起因しているので、格付けの乱立を一元化するのはなかなか難しいところがあるのも否定できません。

 長々と述べてきましたが、国内の格付け基準の乱立状況や、JRAが願望に基づく自称格付けと国際グレードを事実上同一視したままであることや、JRAが格下げに対応できるのか?といったことなど、ICSCの勧告以前と実質的には変化していないといえ、JRAの職員・競馬マスコミ・競馬ファンのほとんどが、グレードの本来の意義を深刻に考えなくてもすむような変更にとどめたという意味では、JRAはまあ上手くやったと言えるかもしれません。
 しかし、パートI国昇格に伴う問題はこれで解決されたというわけではなく、格下げといった格付けに直接関わる問題のみならず、外国人馬主の認可など、もっと日本の競馬関係者の利害に大きく響く問題も残されているだけに、今後の日本の競馬界は前途多難だと思います。

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