交雑による種分化

 交雑による種分化は、じゅうらい考えられていたよりも頻度が高い可能性がある、との研究が発表され、報道されました。この報道には日本語訳もあります。もっとも、交雑による種分化はあくまで例外的なものにすぎない、との批判も根強くあるようで、進化において交雑がどのていどの役割を果たしてきたのか、すぐに決着することはなさそうです。
 これはもっともなことで、進化や気候変動の仕組みといった、長期の観察を必要とする自然現象の解明は、現代科学が苦手としている分野といってよいでしょうから、進化という現象が広く認知されても、進化の仕組みについては今後も議論が続くのでしょう。

 ただ、種・属・科のどの水準で異なっているのかという分類上の問題はさておくとして、ある生殖集団が別の生殖集団と交雑し、交雑前の生殖集団とは異なる新しい集団の形成にはいたらなくても、交雑前の集団には存在しなかった遺伝子を得て後世に伝えていくということは、さほど珍しくないのかもしれません。
 人類も動物の一種ですから、古人類学に関心のある私にとっても、人類の進化について考えていくうえで、進化の誘因は気になるところです。もっとも、進化は連続的なものですから、そもそも種間の境界が曖昧だというところもあり、交雑による種分化の頻度がじゅうらい考えられていたよりも高いとすると、種の概念にも影響を及ぼすことになるかもしれません。

 この研究では、人類の進化においても、交雑のあった可能性が指摘され、人類の祖先とチンパンジーの祖先との交雑、現生人類とネアンデルタール人との交雑の可能性を指摘した研究を注に挙げていますが、この二つの研究については、かつてこのブログで述べたことがあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/200703article_2.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200611article_9.html
さらに、こうした人類史における交雑の可能性や、他の生物の事例から、交雑が現生人類誕生の誘因の一つだったとしても驚くべきことではない、と指摘されています。

 現生人類とネアンデルタール人との交雑があったとしたら、おそらく種分化には関係なく、現生人類の一部が取り込んだネアンデルタール人の遺伝子が、現生人類の間で広まっていき、現代人の中にネアンデルタール人由来の遺伝子が一部認められる、ということになると思います。人類の祖先とチンパンジーの祖先との交雑があったとしたら、あるいは種分化の誘因の一つになった可能性もあるとは思いますが、ともかく今後の研究に期待しています。


参考文献:
James Mallet.(2007): Hybrid speciation. Nature, 446, 279-283.
http://dx.doi.org/10.1038/nature05706

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