チンパンジーが狩りのさいに木の棒を使用

 チンパンジーが他の霊長目の動物を素手で狩って食べることがあるのはよく知られていますが、セネガルのチンパンジーは、枝や木の空洞にいる動物を狩るさいに、細い木の棒(平均して長さは60cm、直径は11mm)を用いることがあるとの研究(全文を無料で閲覧でき、PDFファイルの形式でダウンロードも可能です)が発表され、報道されました。BBCなどでも報道されていますが、海外の報道機関では「槍」と表現しているところが多いようです。
 枝をもぎとり、樹皮をはがし、歯を用いて棒の先を鋭くするといった工程は、最大で5段階あるとのことで、じゅうらい考えられていたよりもはるかに複雑な道具を使用していることが判明しました。またこうした習慣は、成人男性よりも女性や若い個体により多く見られるもので、母親からこの習慣を教わっているためではないか、とされています。

 チンパンジーのこうした行動の起源については、人類の影響があるのか否か、どこまでさかのぼるかといった問題が不明なので、断言は難しいところですが、この行動はかなりの認識能力を示すものだと言えるでしょう。
 2月14日分の記事のコメントでは、野生の状態でチンパンジーが石を加工して用いる例は確認されていないと述べましたが、それでも飼育状態ではそうした事象が観察されていて、あるいはまだ人類が確認できていないだけで、チンパンジーが石を加工して用いることもあるのかもしれません。ただ、木の棒はチンパンジーがその身体で直接加工できるのにたいし、石ではそうはいかないという意味で、木の加工と石の加工との間には大きな壁があるとも言えるかもしれません。

 なんといってもチンパンジーは現存生物で人類にもっともちかいだけに、チンパンジーのこうした行動は、人類の道具使用の起源の考察にも参考になるのではないか、と期待されていますが、チンパンジーは人類と分岐して500万年以上独自の進化を遂げた生物種であり(それは人類も同様ですが)、母方からの「文化伝承」といった指摘も含めて、こうした行動が人類とチンパンジーの共通祖先にも認められたかどうかという議論には、慎重な検討が必要でしょう。
 ただ、人類の道具使用の研究に関しては、残存状況の違いから仕方がないところが多分にあるとはいえ、じゅうらいあまりにも石器に偏向しており、この研究により、木などの植物資源の道具としての利用という問題への関心が高まることを期待しています。とはいっても、石と比べると残りにくいだけに、じっさいにはなかなか難しいところがあるのは否定できません。ちなみに現在確認されている最古の槍は、ドイツで出土した40万年前頃のものです。

この記事へのコメント

子欲居
2007年02月25日 01:41
劉公嗣さんが、この記事に注目されると思っていました。今、学校で使っている教科書に河合雅雄氏の『道具と文化』という文章が載っており、チンパンジーの「道具製作」について考察されているので、またトラックバックを付けさせていただきます。
2007年02月25日 16:28
チンパンジーの認知能力については、
私も不勉強なもので、この「槍」を
どう解釈すべきか、悩んでいるのですが、
認知能力だけではなく、解剖学的な
違いも重視する必要があるだろうとは
思います。

この記事へのトラックバック