ピロリ菌と現生人類の起源

 現生人類がピロリ菌に感染したのは58000年前頃の東アフリカにおいてだった、とする論文が発表され、BBC毎日新聞でも報道されました。ピロリ菌は、人類の胃に感染し、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃癌などの原因になることもあり、現在世界の半数近くの人々がピロリ菌に感染しているとされます。
 世界各地の現代人のピロリ菌の遺伝子を分析したところ、現生人類は58000年前頃に東アフリカでピロリ菌に感染し、ピロリ菌はその後、欧州型・アジア型・アメリカ型へ進化したと考えるのが妥当であり、年代はやや新しいものの、これはじゅうらいのミトコンドリアDNAやY染色体の分析による現生人類の拡散過程の仮説と大筋で一致する、とされています。

 分子遺伝学の研究成果より人類の起源や系統樹や拡散過程を推測するのは有効だといえますが、ミトコンドリアDNAだけといった単独の研究成果に依存するのは危険なので、このように人類が感染している細菌などの遺伝子も分析対象とし、複数の研究成果を総合すれば、より信頼性の高い系統樹や拡散過程を復元できそうです。この他、人類に寄生しているシラミの遺伝子の研究からも人類の起源・系統樹が推測されていますし、今後もこうした研究が続くことを期待しています。


参考文献:
Linz B. et al.(2007): An African origin for the intimate association between humans and Helicobacter pylori. Nature, 445, 915-918.
http://dx.doi.org/10.1038/nature05562

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック