ネアンデルタール人と現生人類との、性別・年齢別分業の違い
今日はもう一つ、古人類学関連で更新します。
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_6.html
の冒頭で触れた(2)なのですが、現代の採集狩猟民に見られるような、性別や年齢別に基づいた分業は、上部旧石器時代の開始まで認められない、とする論文がアリゾナ大学のスティーヴン=クーン博士とメアリー=シュタイン博士によって発表され、報道されました。
中部旧石器時代までの人類は大型獣の狩猟への依存度が高いといったように、現在の採集狩猟社会と比較して、経済的活動の範囲が狭く、性別・年齢別の役割差も小さかったのですが、上部旧石器時代初期の東地中海地域において、現代の採集狩猟社会につながるような経済・技術的変化が最初におき、性別・年齢別の分業社会が現生人類のあいだに成立し、環境をより効率的に利用できるようになった結果として、人口増加という点において現生人類が他の人類にたいして優位にたった、というわけです。
その分業とは、成人男性による大型獣の狩猟と、女性や子供による小型獣の狩猟と植物資源の採集や衣服の裁縫です。一方ネアンデルタール人の遺跡には、骨製の針や小動物の骨や弓矢が見当たらず、報酬の大きい大型獣の狩猟に依存したと思われますが、それは弓矢を使用するようになった現生人類の場合よりも危険でありながら(じっさい、ネアンデルタール人の骨には傷跡が多く認められます)、女性も子供も参加していました。
つまり、現生人類はリスク分散型の多角的な生存戦略を採用し、ネアンデルタール人はハイリスク・ハイリターンの単一的傾向の強い生存戦略を使用していたのですが、上述したように、現生人類のほうが環境を効率的に利用していたことは否めず、しかもネアンデルタール人は女性と子供も危険な狩猟に参加させていたため、人口増加の点でネアンデルタール人が現生人類にたいして劣勢になった、というわけです。
では、このようなネアンデルタール人と現生人類との分業の違いは、何に起因するのでしょうか?5~4万年前頃に、現生人類に神経系の突然変異がおき、それが複雑な言語能力をはじめとする現生人類の認知能力を高め、現生人類が世界に拡散し、ネアンデルタール人のような先住ユーラシア人類にたいして優位にたつ要因となった、とする「神経系突然変異仮説」を主張しつづけるリチャード=クライン博士は、とうぜんのことながら、ネアンデルタール人のほうが認知能力の点で劣っていたからだ、との見解を述べました。
一方シュタイナー博士は、「神経系突然変異仮説」の可能性を認めつつも、それと同じ可能性をもつ仮説として、社会的役割についての文化的遺産の違いによるものだ、との文化主因説を提示しました。つまり、性別の分業は熱帯環境でおきそうなことであり、生息域の南限がレヴァントだったネアンデルタール人には、そのような分業をおこす文化的遺産を蓄積するだけの時間がなかったのではないか、というわけです。
シュタイナー博士の提示した仮説は、私が今年の10月に執筆した人類史についての概観で述べた見解と共通するところがあり、今後、ネアンデルタール人と現生人類とのさまざまな違いについて、こうした文化主因説を補強する研究が増加することを期待しています。
もっとも、分業はなかなか証明の難しい問題でもあり、分業の進んだ現生人類の社会と、分業のないネアンデルタール人社会という構図は、美しく説得力のある仮説ではあるのですが、すぐに通説になるというわけにはいかないでしょう。
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_6.html
の冒頭で触れた(2)なのですが、現代の採集狩猟民に見られるような、性別や年齢別に基づいた分業は、上部旧石器時代の開始まで認められない、とする論文がアリゾナ大学のスティーヴン=クーン博士とメアリー=シュタイン博士によって発表され、報道されました。
中部旧石器時代までの人類は大型獣の狩猟への依存度が高いといったように、現在の採集狩猟社会と比較して、経済的活動の範囲が狭く、性別・年齢別の役割差も小さかったのですが、上部旧石器時代初期の東地中海地域において、現代の採集狩猟社会につながるような経済・技術的変化が最初におき、性別・年齢別の分業社会が現生人類のあいだに成立し、環境をより効率的に利用できるようになった結果として、人口増加という点において現生人類が他の人類にたいして優位にたった、というわけです。
その分業とは、成人男性による大型獣の狩猟と、女性や子供による小型獣の狩猟と植物資源の採集や衣服の裁縫です。一方ネアンデルタール人の遺跡には、骨製の針や小動物の骨や弓矢が見当たらず、報酬の大きい大型獣の狩猟に依存したと思われますが、それは弓矢を使用するようになった現生人類の場合よりも危険でありながら(じっさい、ネアンデルタール人の骨には傷跡が多く認められます)、女性も子供も参加していました。
つまり、現生人類はリスク分散型の多角的な生存戦略を採用し、ネアンデルタール人はハイリスク・ハイリターンの単一的傾向の強い生存戦略を使用していたのですが、上述したように、現生人類のほうが環境を効率的に利用していたことは否めず、しかもネアンデルタール人は女性と子供も危険な狩猟に参加させていたため、人口増加の点でネアンデルタール人が現生人類にたいして劣勢になった、というわけです。
では、このようなネアンデルタール人と現生人類との分業の違いは、何に起因するのでしょうか?5~4万年前頃に、現生人類に神経系の突然変異がおき、それが複雑な言語能力をはじめとする現生人類の認知能力を高め、現生人類が世界に拡散し、ネアンデルタール人のような先住ユーラシア人類にたいして優位にたつ要因となった、とする「神経系突然変異仮説」を主張しつづけるリチャード=クライン博士は、とうぜんのことながら、ネアンデルタール人のほうが認知能力の点で劣っていたからだ、との見解を述べました。
一方シュタイナー博士は、「神経系突然変異仮説」の可能性を認めつつも、それと同じ可能性をもつ仮説として、社会的役割についての文化的遺産の違いによるものだ、との文化主因説を提示しました。つまり、性別の分業は熱帯環境でおきそうなことであり、生息域の南限がレヴァントだったネアンデルタール人には、そのような分業をおこす文化的遺産を蓄積するだけの時間がなかったのではないか、というわけです。
シュタイナー博士の提示した仮説は、私が今年の10月に執筆した人類史についての概観で述べた見解と共通するところがあり、今後、ネアンデルタール人と現生人類とのさまざまな違いについて、こうした文化主因説を補強する研究が増加することを期待しています。
もっとも、分業はなかなか証明の難しい問題でもあり、分業の進んだ現生人類の社会と、分業のないネアンデルタール人社会という構図は、美しく説得力のある仮説ではあるのですが、すぐに通説になるというわけにはいかないでしょう。
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