『イリヤッド』12巻(2)

 12月1日分の続きです。
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_1.html

 場面は変わって、アメリカのニューヨーク州のある家で、ジュディという女性が電話で神父と話しています。夫の祖父が新聞記者ではないか、との問いかけに、そんな話を聞いたことがあると女性は答えます。その直後、またしても神父から電話がかかってきて、今度は家族構成を尋ねられた女性は、夫と娘がいるが、娘は大学の寮に入っているので、今は夫と二人暮らしだ、と答えます。

 場面は変わって、入矢・バトラー神父・書庫の管理責任者と思われる神父の三人が、バチカンの書庫にいます。ここには、世界中の教区から集められた司祭たちの日記や備忘録が収められていて、膨大な量になります。バトラー神父によると、寄贈するかしないかは本人の意思だが、引退にさいし、法王庁に提出することを求められるとのことです。
 入矢はそのうちの一冊をとろうとして大量の日記を棚から落としてしまいますが、バトラー神父は、整理は後にして入矢に資料を見せよう、と神父に言います。その資料は、100年前にニューヨークにいたある司祭の日記で、1912年のこととして、「5月7日、ゼプコ氏に“山の老人”のことを質問される」、「5月30日、ゼプコ氏より相談。この度、世間を騒がせた記事は命を守るための嘘・・・?」とありました。

 場面は変わって、ニューヨーク州のジュディの家です。夫のスコットが出張から帰宅し、バチカンの神父から祖父が新聞記者かどうか尋ねる電話が昨日あり、その直後には直接会って話がしたいとの電話があって、家族構成も訊かれた、とジュディがスコットに伝えると、スコットは手を震わせながら、いますぐ義姉の家に行けと妻に伝え、拳銃を手に取ります。
 すると呼び鈴が鳴り、スコットは妻に、裏口から出て携帯で警察を呼ぶよう命じ、俺を殺しに「山の老人」が来たのだ、と言います。スコットが拳銃をもってドアを開けると、入矢とバトラー神父が立っていました。バトラー神父は入矢の持っていた杖でスコットの拳銃をはじくと、私は本物の神父だ、と言います。

 入矢とスコットは部屋に入り、ハインリッヒ=シュリーマンの孫パウルが1912年に『ニューヨークアメリカン新聞』に寄稿した手記「私はいかにしてすべての文明の源アトランティスを発見するに至ったか」を掲載した新聞記者がスコットの祖父であることを確認します。
 入矢とバトラー神父は、ニューヨークにいたある司祭の日記だけを手がかりに、その司祭の教区にいたゼプコという名が珍しいのを幸いとして、ニューヨーク中に電話をかけて突きとめたのでした。もっともスコットによると、祖父はパウルの手記を掲載したことが原因で解雇され、イリノイの小さな新聞社で再出発し、スコットの代にニューヨークに戻ったとのことですから、自分たちは運がよい、とバトラー神父は言います。

 スコットによると、新聞記者だった祖父はすでに亡くなったのですが、家に奇妙な神父が訪ねてきたら、彼らは「山の老人」だから迷わず撃ち殺せ、とスコットの父に伝え、スコットは父からそのことを聞いた、とのことでした。スコットによると、パウルは本当にシュリーマンの孫で、シュリーマンの遺言にしたがって研究を受け継いだ、と祖父は語っていたとのことです。
 パウルの手記は作り話としか考えられない、と入矢が問いかけると、祖父は「山の老人」の存在を知り、パウルを守るため仕方なく与太記事に書き換えた、とスコットは語ります。スコットによると、祖父はイリノイに移ってからはアトランティスの研究をせず、自分は祖父の話には半信半疑だったから、アトランティスについて祖父から聞かなかったが、父は長い時間をかけて祖父から聞き出したようだ、とのことです。
 スコットの父が、その後入矢とともにカナリア諸島と中国を訪れるゼプコ老人なのですが、スコットの話では、ゼプコ老人は新聞記者の息子ということになります。しかし98話にて、シュリーマンの孫パウルと自分の祖父は友人の間柄だった、とゼプコ老人は言っていますから、矛盾が生じます。98話のゼプコ老人の発言は、原作者・編集者の勘違いだと思うのですが・・・。

 それはさておき、スコットは入矢に、父は秘密を聞き出すと母も自分も捨ててアトランティス探索に出て行き、今は多分ユカタン半島にいる、と伝えます。スコットによると、祖父がパウルから聞いた話では、ハインリッヒ=シュリーマンは最初ユカタン半島にアトランティスの痕跡がないか探した、とのことです。
 父が今もユカタン半島にいるのか、入矢に訊かれたスコットは、いなければカナリア諸島だろうと言い、ハインリッヒ=シュリーマンは、ユカタン半島かカナリア諸島がアトランティスでないならば、プラトンのいうアトランティスは絶対に存在しないと考えていた、と述べます。

 一方バチカンでは、書庫の管理責任者と思われる神父が、入矢の落とした資料の整理をしていたところ、そのうちの一冊に盗聴器が入っているのに気づきます。おそらく、バチカンの内部にいる「山の老人」のシンパが仕掛けたのでしょう。
 さて、スコットの自宅では呼び鈴が鳴り、ジュディが出ると、神父が来訪を告げてきました。不審に思ったバトラー神父が、バチカンの神父から何回電話がかかってきたかジュディに訊くと、一回目は祖父が新聞記者か確認するもので、二回目は家族構成を問うてこれから訪問するというものだった、とジュディは答えます。バトラー神父は、私がかけたのは一回目だけだと言い、拳銃を借りて、玄関に向かいます。

 バトラー神父は玄関を開け、二人の神父姿の男を前にゼプコだと名乗り、一方の男に握手を求め、男は手袋を外してバトラー神父と握手します。二人を部屋に入れたバトラー神父は、コート預かろうと言いますが、男はすぐに失礼するからと言い、断ります。バトラー神父はもう一方の男に、せめて手袋くらいは脱ぐようにと言い、男は手袋をとります。
 部屋には酒やつまみがありますが、バトラー神父一人しかおらず、が不審に思った男が一人なのか?と尋ねると、パーティの最中だったが、神父が来たのでみんなキッチンに隠れたのだ、とバトラー神父は答えます。何人いるのか?と男に訊かれたバトラー神父は、9人だと答え、入矢・スコット・ジュディはキッチンで9人いるようなふりをします。

 バトラー神父は一方の男に酒を勧めて瓶を握らせると、素早く拳銃を取り出し、「キミらが偽神父だということはばれている!」と威嚇します。そこへ入矢が扉を開けて現れ、杖で一方の男の脚をはらって転倒させ、男が落としてしまった銃を取り上げます。バトラー神父は二人に帰れと命じ、二人の指紋は酒瓶とソファから採取できると言い、この家の人たちを狙うのはバチカンが許さない、それとも君たち「山の老人」は我々教会と全面戦争をする構えか?と警告します。
 本当に酔っ払ったのかと心配したと言う入矢にたいし、バトラー神父は「私はね、一生でふるうべき勇気を使い果たしてしまった人間だ。勇気はね、量が決まっている。使いすぎるとなくなり、あとは臆病者の道を転げ落ちるだけだ。臆病者がもう一度勇気をふるい起こす時、必要なのがこいつ!」と言って酒を飲み、「ただし、飲んでもからっきし酔えない」と言います。

 バトラー神父が「山の老人」は話も聞かず、家の中に何人いようと皆殺しをするのか?と尋ねると、そういえばいつものやり方ではない、と入矢は答えます。今になってみると、107話で語られた、
https://sicambre.seesaa.net/article/200610article_26.html
「山の老人」内部の堕落(宗教的使命を隠れ蓑にして異分子が紛れ込む)・対立がこのやり方に表れているのでしょうか?
 入矢は、すぐメキシコに向かいましょう、とバトラー神父に言い、二人はメキシコのユカタン半島へと向かいます。

この記事へのコメント

kiki
2006年12月05日 15:38
劉公嗣さん、こんにちは!
おもしろ過ぎますよ、イリヤッドは!
ハラハラドキドキわくわくしますね。
劉公嗣さんの文章がとても上手なので、
小説を読んでいるような気分です。
さて、ユカタン半島、カナリア諸島と、
具体的な場所が提示されたのですね。
イリヤッドは、今や世界中が舞台となっていますね。
でも、それが観光地じゃないところが興味深いです。
行ってみたいなぁ!
2006年12月05日 22:03
kikiさん、いつもお読みいただき、
ありがとうございます。

アトランティスの場所は最終回近く
まで明かされないでしょうが、9巻
での描写からして、イベリア半島が
有力かな、と思います。

『美味しんぼ』というか『スピリッツ』は
一時期読んでいたことがあるのですが、
もう10年近く『スピリッツ』を読んで
いないので、今どんな作品が連載されて
いるのか、分かりません(笑)。

『七夕の国』の連載が始まったあたり
までは読んでいた記憶があるのですが、
その後は読まなくなり、去年、古書店で
偶然『七夕の国』を見かけて、そういえば
続きはどうなったのだろうと思い、4巻で
400円という安さもあって購入して読んだ
ところ、なかなか面白く、同じ作者の
『ヒストリエ』も読んでみると、これも
大当たりでした。ただ、『ヒストリエ』は
休載が多いようですが・・・。

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