『イリヤッド』97話「娘のKAKUGO」(13巻所収予定)
12巻の雑感は12月14日分
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_16.html
で述べ終わったのですが、話の流れとしては、13巻所収予定のこの97話までで一区切りがつくので、かなり先になるだろう13巻の発売前にざっと述べておくことにします。
話は、チュニジアで入矢と知り合い、ティトゥアンの地下迷路を入矢とともに探ったアニタ=ロッカの回想シーンから始まります。ロッカが大学院生のころ、ローマの下宿部屋で眠っていると、父親が訪ねてきます。何度電話をかけても出ないロッカに業を煮やして自宅のあるナポリからやってきたのでした。
博士論文の追い込みで電話には出たくなかった、と答えるロッカに、昨日は兄のマルチェロのトラットリアの開店日だったのに、なぜナポリに来なかったのか?と父は問い質します。
ロッカは忘れていたことを謝りますが、父は、お前が自分勝手な人生を歩むことは許すとしても、人の道を違えるな、お前にとって一番大切なのは、土掘りでも読書でもなく家族だろう、と叱責し、家族を顧みない冷たい娘に育てた、と嘆くのでした。
場面は変わって現在です。デメルとロッカは電車でハンガリーのショプロンに向かっています。すでに三週間前に、入矢が「冥界の王」のミイラから採取した爪のサンプルをショプロンの研究所に送って分析を依頼していたのですが、今回は、「冥界の王」のミイラの上に置かれていた斧を持っていって、分析を依頼しようとしているのです。車中ではロッカの携帯電話が鳴っていますが、ロッカは出ようとせず、落ち着きがありません。
デメルの読んでいる“KAKUGO”という本に興味を持ったロッカは、デメルにその内容を訊きます。デメルは、剣術の達人で御前試合を命じられていたある侍が、試合当日の朝に病に倒れて危篤になった父親を見舞わず、試合に臨んだ覚悟について書かれた本だ、と説明します。
二人はショプロンの研究所に到着し、ロッカはミイラの分析結果がまだ出ていないことに苛立ちます。ロッカが携帯電話を置いて研究所員と話していると、電話がかかってきてデメルが出ますが、イタリア語で話しかけられたため、デメルには内容が分からないまま電話はきれてしまいます。
戻ってきたロッカは、金属製の斧があるということは、青銅器は紀元前2500年、銅器は紀元前2800年前には存在しないから、アトランティスの存在年代がプラトンのいう12000年前よりずっと新しいということになるので、落ち込んでいます。そこへ研究所員が現れ、斧は青銅製で、「冥界の王」は紀元前2500年ころ青銅時代初期の人物と伝えます。
ロッカは予想通りの結果を聞いて落胆し、デメルとともに駅へと戻りますが、斧の柄の部分と刃を留めた紐なら植物製で年代測定可能だからと駅で思いなおし、デメルとともに研究所を再度訪れます。
侍は淡々と敗北を受け入れる覚悟をしているが、その前に勝つための情報収集などありとあらゆる手を尽くすのだ、とデメルから聞いたロッカは、学者も負けを覚悟しながらも、その前にあらゆる手を尽くすことが必要だと思いなおしたのです。
斧の年代測定を依頼する二人に、研究所員は、最低二週間は下調べに必要だと言いますが、命がけだからとロッカは懇願します。英語で話しているため上手く意思が通じないと思ったロッカは、デメルに説得するよう言います。
デメルはドイツ語で、ロッカの父が病気のため、ロッカはすぐに故郷に戻らなければいけないが、侍だから家族より使命を選んだと言うと、徹夜で分析しようと研究所員は約束します。
デメルはロッカに、自分は研究所に泊まって結果を聞くから、父のもとに行くように、と言います。訝るロッカにたいしてデメルは、さっき話した親不孝な侍は、死の床の父のもとに駆けつけるため、秘技を用いて電光石火で勝利した、侍は使命と同時に家族も大切にしたのであって、人の道を両立させての覚悟だ、と言います。
それを聞いてロッカは、父のもとへと向かいますが、携帯電話を置いたままにしてしまいます。研究所員がデメルに、今の話の最後は創作だろう?と問うとデメルは、「はい、嘘も方便」と答えます。
翌朝、研究所員から分析結果を聞いたデメルが、ロッカの携帯電話が鳴っているのに気づき、電話をとると、ロッカの父が出ます。今度は英語で話しかけてきた父は、一時間後に手術室に入るが、難しい手術なので、助からない可能性もある、娘にはもう来なくていいと伝えてくれ、と言います。
さらに父は、私たち家族は全員、一度はナポリを出ることを夢見たが、それをかなえたのはロッカ一人だけで、ロッカは我が家の希望の星で誇りなのだから、自分より夢と使命を優先してほしい、と言います。
デメルは父に、ロッカは手術前に到着するから、ロッカに会ったら、斧の柄の部分は紀元前5000年という新石器時代のもので、人類の定説を覆す大発見をしたと伝えてください、と言います。
「娘は、人様のお役に立ってるんですな?」という父にたいし、「お父さん、使命を与えます。手術の後絶対目を覚まして、娘さんをほめてあげてください」とデメルが言うところで97話は終了です。
97話はヒューマンストーリー的性格が強く、はじめて『イリヤッド』を読んだのであれば、上手いなあと感心するところですが、読みなれた私にとっては、100話を超える『イリヤッド』の中ではまずまずの話だったかな、というのが正直な感想です(笑)。
その後、ロッカの父の手術が成功したかどうか、作中では描写がないのですが、なかなかキャラのたっている人物なので、助かっていればいいなと思います。
歴史ミステリーの部分では、アトランティス文明というか世界最古の都市である「彼の島」が栄えた年代、さらには地震と洪水で沈んだ年代について、重要な手がかりが得られるという収穫がありました。
これまで、アトランティス文明の年代について、入矢の推測はありましたが、具体的な手がかりとなると、なかなか出てきませんでした。86話(11巻所収)からは、ソロモン王の時代よりは前かな、と思われます。86話の内容に関しては、このブログでも以前触れました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200609article_17.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200609article_20.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200609article_24.html
97話では、「冥界の王」が紀元前2500年頃の人であり、「冥界の王」のミイラの上に置かれていた斧が紀元前5000年頃までさかのぼる可能性が示唆されています。96話(12巻所収、内容は以下のリンク先を参照してください)
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_15.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_16.html
で、カナリア諸島最古の移住者は「彼の島」の生き残りだったと記した本がかつてあった、とグレコ神父が語っていますから、「彼の島」が沈んだのは、紀元前2500年よりも前と思われます。もっとも、別の場所でミイラ化した遺体をカナリア諸島に運んできた、という可能性もありますが・・・。
また、青銅製の斧が紀元前5000年頃までさかのぼるかもしれないということで、アトランティス文明は、作中では新石器時代とされている年代に金属加工技術をもっていた先進文明である可能性が出てきました。
これまで、他のアトランティス本とは異なり、アトランティスが現代文明以上の超古代文明であることは否定されてきた『イリヤッド』ですが、それでも世界最古の文明と位置づけられてきました。
この97話にて、それが改めて確認されたことになりますが、やはり他の過激な(笑)アトランティス本とは異なり、他の文明よりも早く青銅器を鋳造していたという、まあ穏当な設定に落ち着いています。
どうも作中でのアトランティス文明の位置づけは、他の文明よりもまったくの常識外れではない程度に早く金属器の使用が始まり、宗教面でも他文明に大きな影響を与えた世界最古の文明、ということになりそうです。
ただ通説では、加工した金属製品の使用は紀元前8500年頃、精錬した金属製品の使用は紀元前6000年頃、青銅器の使用は紀元前3000年頃までさかのぼりますから、作中でのアトランティス文明は、作中での設定以上に無理の少ない位置づけになりそうです。また、紀元前5000年頃は、最近では「銅石器時代」とされることが多くなっています。
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で述べ終わったのですが、話の流れとしては、13巻所収予定のこの97話までで一区切りがつくので、かなり先になるだろう13巻の発売前にざっと述べておくことにします。
話は、チュニジアで入矢と知り合い、ティトゥアンの地下迷路を入矢とともに探ったアニタ=ロッカの回想シーンから始まります。ロッカが大学院生のころ、ローマの下宿部屋で眠っていると、父親が訪ねてきます。何度電話をかけても出ないロッカに業を煮やして自宅のあるナポリからやってきたのでした。
博士論文の追い込みで電話には出たくなかった、と答えるロッカに、昨日は兄のマルチェロのトラットリアの開店日だったのに、なぜナポリに来なかったのか?と父は問い質します。
ロッカは忘れていたことを謝りますが、父は、お前が自分勝手な人生を歩むことは許すとしても、人の道を違えるな、お前にとって一番大切なのは、土掘りでも読書でもなく家族だろう、と叱責し、家族を顧みない冷たい娘に育てた、と嘆くのでした。
場面は変わって現在です。デメルとロッカは電車でハンガリーのショプロンに向かっています。すでに三週間前に、入矢が「冥界の王」のミイラから採取した爪のサンプルをショプロンの研究所に送って分析を依頼していたのですが、今回は、「冥界の王」のミイラの上に置かれていた斧を持っていって、分析を依頼しようとしているのです。車中ではロッカの携帯電話が鳴っていますが、ロッカは出ようとせず、落ち着きがありません。
デメルの読んでいる“KAKUGO”という本に興味を持ったロッカは、デメルにその内容を訊きます。デメルは、剣術の達人で御前試合を命じられていたある侍が、試合当日の朝に病に倒れて危篤になった父親を見舞わず、試合に臨んだ覚悟について書かれた本だ、と説明します。
二人はショプロンの研究所に到着し、ロッカはミイラの分析結果がまだ出ていないことに苛立ちます。ロッカが携帯電話を置いて研究所員と話していると、電話がかかってきてデメルが出ますが、イタリア語で話しかけられたため、デメルには内容が分からないまま電話はきれてしまいます。
戻ってきたロッカは、金属製の斧があるということは、青銅器は紀元前2500年、銅器は紀元前2800年前には存在しないから、アトランティスの存在年代がプラトンのいう12000年前よりずっと新しいということになるので、落ち込んでいます。そこへ研究所員が現れ、斧は青銅製で、「冥界の王」は紀元前2500年ころ青銅時代初期の人物と伝えます。
ロッカは予想通りの結果を聞いて落胆し、デメルとともに駅へと戻りますが、斧の柄の部分と刃を留めた紐なら植物製で年代測定可能だからと駅で思いなおし、デメルとともに研究所を再度訪れます。
侍は淡々と敗北を受け入れる覚悟をしているが、その前に勝つための情報収集などありとあらゆる手を尽くすのだ、とデメルから聞いたロッカは、学者も負けを覚悟しながらも、その前にあらゆる手を尽くすことが必要だと思いなおしたのです。
斧の年代測定を依頼する二人に、研究所員は、最低二週間は下調べに必要だと言いますが、命がけだからとロッカは懇願します。英語で話しているため上手く意思が通じないと思ったロッカは、デメルに説得するよう言います。
デメルはドイツ語で、ロッカの父が病気のため、ロッカはすぐに故郷に戻らなければいけないが、侍だから家族より使命を選んだと言うと、徹夜で分析しようと研究所員は約束します。
デメルはロッカに、自分は研究所に泊まって結果を聞くから、父のもとに行くように、と言います。訝るロッカにたいしてデメルは、さっき話した親不孝な侍は、死の床の父のもとに駆けつけるため、秘技を用いて電光石火で勝利した、侍は使命と同時に家族も大切にしたのであって、人の道を両立させての覚悟だ、と言います。
それを聞いてロッカは、父のもとへと向かいますが、携帯電話を置いたままにしてしまいます。研究所員がデメルに、今の話の最後は創作だろう?と問うとデメルは、「はい、嘘も方便」と答えます。
翌朝、研究所員から分析結果を聞いたデメルが、ロッカの携帯電話が鳴っているのに気づき、電話をとると、ロッカの父が出ます。今度は英語で話しかけてきた父は、一時間後に手術室に入るが、難しい手術なので、助からない可能性もある、娘にはもう来なくていいと伝えてくれ、と言います。
さらに父は、私たち家族は全員、一度はナポリを出ることを夢見たが、それをかなえたのはロッカ一人だけで、ロッカは我が家の希望の星で誇りなのだから、自分より夢と使命を優先してほしい、と言います。
デメルは父に、ロッカは手術前に到着するから、ロッカに会ったら、斧の柄の部分は紀元前5000年という新石器時代のもので、人類の定説を覆す大発見をしたと伝えてください、と言います。
「娘は、人様のお役に立ってるんですな?」という父にたいし、「お父さん、使命を与えます。手術の後絶対目を覚まして、娘さんをほめてあげてください」とデメルが言うところで97話は終了です。
97話はヒューマンストーリー的性格が強く、はじめて『イリヤッド』を読んだのであれば、上手いなあと感心するところですが、読みなれた私にとっては、100話を超える『イリヤッド』の中ではまずまずの話だったかな、というのが正直な感想です(笑)。
その後、ロッカの父の手術が成功したかどうか、作中では描写がないのですが、なかなかキャラのたっている人物なので、助かっていればいいなと思います。
歴史ミステリーの部分では、アトランティス文明というか世界最古の都市である「彼の島」が栄えた年代、さらには地震と洪水で沈んだ年代について、重要な手がかりが得られるという収穫がありました。
これまで、アトランティス文明の年代について、入矢の推測はありましたが、具体的な手がかりとなると、なかなか出てきませんでした。86話(11巻所収)からは、ソロモン王の時代よりは前かな、と思われます。86話の内容に関しては、このブログでも以前触れました。
https://sicambre.seesaa.net/article/200609article_17.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200609article_20.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200609article_24.html
97話では、「冥界の王」が紀元前2500年頃の人であり、「冥界の王」のミイラの上に置かれていた斧が紀元前5000年頃までさかのぼる可能性が示唆されています。96話(12巻所収、内容は以下のリンク先を参照してください)
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_15.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_16.html
で、カナリア諸島最古の移住者は「彼の島」の生き残りだったと記した本がかつてあった、とグレコ神父が語っていますから、「彼の島」が沈んだのは、紀元前2500年よりも前と思われます。もっとも、別の場所でミイラ化した遺体をカナリア諸島に運んできた、という可能性もありますが・・・。
また、青銅製の斧が紀元前5000年頃までさかのぼるかもしれないということで、アトランティス文明は、作中では新石器時代とされている年代に金属加工技術をもっていた先進文明である可能性が出てきました。
これまで、他のアトランティス本とは異なり、アトランティスが現代文明以上の超古代文明であることは否定されてきた『イリヤッド』ですが、それでも世界最古の文明と位置づけられてきました。
この97話にて、それが改めて確認されたことになりますが、やはり他の過激な(笑)アトランティス本とは異なり、他の文明よりも早く青銅器を鋳造していたという、まあ穏当な設定に落ち着いています。
どうも作中でのアトランティス文明の位置づけは、他の文明よりもまったくの常識外れではない程度に早く金属器の使用が始まり、宗教面でも他文明に大きな影響を与えた世界最古の文明、ということになりそうです。
ただ通説では、加工した金属製品の使用は紀元前8500年頃、精錬した金属製品の使用は紀元前6000年頃、青銅器の使用は紀元前3000年頃までさかのぼりますから、作中でのアトランティス文明は、作中での設定以上に無理の少ない位置づけになりそうです。また、紀元前5000年頃は、最近では「銅石器時代」とされることが多くなっています。
この記事へのコメント
97話のレジュメありがとうございます。
ロッカ先生が主役のようですね。嬉しいです。
すっごく楽しみです。
それに、ロッカ先生のジレンマが、
丁度今の自分自身の悩みに重なる感じがして、
より興味深く読ませて頂きました。
この97話では、原作者の方が想定したアトランティスの年代を
解き明かす手がかりとなるようなデータがでてきていますね。
この97話はそう言った面で意外と重要なのかも知れませんね。
いただき、ありがとうございます。
この後は始皇帝陵編に突入し、
ロッカとデメルは109話
まで登場しませんが、今後も
ロッカの出番はありそうです。
明日には次号が発売となるので、
楽しみです(笑)。