『イリヤッド』12巻(7)
12月13日分の続きです。昨晩のうちにほぼ書き終えて、見直しもできたので、朝のうちに更新します。
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_15.html
場面は変わって、パリです。「山の老人」の幹部が集まり、入矢暗殺が失敗したことについて協議しています。ある幹部から、カナリア諸島にはどのくらい沈んだ島の手がかりがあったのか、と訊かれたグレコ神父は、教会成立初期、ある学者の書物には、カナリア諸島最古の移住者は「彼の島」の生き残りだった、という記述があったらしいが、原典は失われている、と答えます。
グレコ神父は、それほど重要なことをなぜ黙っていたのだ、後手に回ってしまったではないか、と詰問されると、テネリフェ島の「冥界の王」の民間伝承や、地下(山中)ピラミッドの存在は自分も知らなかった、と言います。
グレコ神父が、今回暗殺部隊を派遣したと思われる幹部に、ピラミッドには何があったのかと訊くと、赤と青の砂が舞っていたとの答えが返ってきます。砂絵の地図だなとグレコ神父が言うと、別の幹部が焦りますが、現代人が見てもどこの地図だか分からないだろうから大丈夫だ、とグレコ神父は言います。
さらに、「冥界の王」とおぼしきミイラがあり、ミイラの胸には奇妙な文字と、
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という図形が描かれていた、との報告を受けたグレコ神父は、衝撃を受けます。
一方、入矢・バトラー神父・ゼプコ老人・ラモン・エンリケの5人は、下山した後、テネリフェ島のサンタクルーズのレストランで食事をとっていました。何が分かったのか教えてくれ、とバトラー神父に言われた入矢とゼプコ老人は、斧はたぶん青銅製で、両刀の斧は、紀元前1500年頃にサントリーニ島の噴火で衰退したクレタ島の王家の紋章と同じだ、と答えます。
しかし、紀元前1500年頃に「冥界の王」の一族がカナリア諸島に流れ着いたとすると、自分たちの思うアトランティス像とは異なるし、「冥界の王」のミイラは純粋クロマニヨン人だろうから、そのころに欧州に純粋クロマニヨン人がいたとも考えられない、と入矢は言います。
砂絵の地図はどうなのか、とバトラー神父が問いかけると、どこを描いた地図なのかまったく分からなかった、と二人とも答え、ゼプコ老人はひじょうに悔しがります。入矢は、あんな場所は、世界中のどこにもない、と言い、「冥界の王」のミイラに描かれた図形の意味が分かればなあ、とぼやきますが、バトラー神父は、誰も死なず殺されず、よかったではないか、と入矢を慰め、入矢が「ま、まあ確かに・・・・・・」と言うところで、12巻は終了です。
12巻は、アル中の異端審問官というバトラー神父のキャラ設定と、殺し殺されるという行為自体が絶対悪なのだ、といった発言に、ヒューマンストーリー的性格が出ていますが、全体としては、最初に述べたように、歴史ミステリー・サスペンス的性格が強くなっています。
アトランティスにまつわる謎についても、11巻ほどの派手さはないにしても、随所に手がかりが示されており、以下、気になった点について、その後の連載(現在1話まで進んでいます)で判明したことも踏まえて、推測を交えつつ述べていくことにします。
まず、アトランティスがユカタン半島かカナリア諸島になければ、プラトンのいうアトランティスは存在しない、とのシュリーマンの考えですが、『イリヤッド』においては、以前よりプラトンの記述への疑問が呈されており、12巻において、アトランティスがユカタン半島にもカナリア諸島にもなさそうだと分かったことで、作中におけるプラトンの地位の低下が決定的になったのではないか、と思います。
では、シュリーマンがどこをアトランティスと考えていたのかというと、作中では今のところ明示されてはいないのですが、どうもイベリア半島の大西洋岸が最有力と思われます。
また、「冥界の王」のピラミッドの周囲に描かれていた砂絵は、アトランティスの場所を示す地図だったと思われますが、グレコ神父によると、現代人が見ても分からないということです。
これは、アトランティスの場所を推測するうえで重要な手がかりとなりそうですが、その意味するところはというと、
●現代人からみると、アトランティス人の地理観がいい加減だった。
●氷河期の地形を反映した地図なので、分かりにくい。
●地震と津波で沈んだ地形が描かれているので、分かりにくい。
といった可能性が考えられますが、現時点ではどうもよく分かりません。
まあ、アトランティスの所在の解明はこの作品の見せ場といえ、最終話近くまで明らかにされないでしょうから、とりあえず今はおいておきます。
アトランティス人はどうやらクロマニヨン人らしいということが判明したのは、12巻での最大の収穫といえるかもしれません。そのクロマニヨン人が、生きたネアンデルタール人を見た唯一の現生人類とされていることから、「山の老人」が必死になって隠蔽し続けてきたアトランティスにまつわる謎については、やはりネアンデルタール人が重要な鍵を握っていることが改めて確認されたと思います。
ただ、ネアンデルタール人が人類最初の神を思いつき、その姿が熊だったということと、「山の老人」が隠蔽し続けてきた秘密は最初の神の正体だということが示唆されてはいますが、それだけでは衝撃的とはいえず、バトラー神父も指摘しているように、すべての宗教に関わる恐ろしい秘密なのですから、何か別の手がかりが必要だとも思われます。
そのアトランティス人の生き残りは、グレコ神父の発言とカナリア諸島の伝説から推測すると、楽園=アトランティス人の築いた世界最古の都市を恐ろしい何かに追われ、一部はカナリア諸島最古の移住者となったことが推測されます。その「恐ろしい何か」が意味するものといえば、おそらく地震による津波なのでしょう。だからカナリア諸島の住人は、毎日海を見張っていなければならないわけです。
別の解釈としては、「アトランティスはそれを創造した者自らが破壊した」というアリストテレスの発言と、『ヌビア聖書』の「神は、ご自分にかたどり人を創る前に“山の老人”に命じ、彼の島を沈めた」との一節から、アトランティス人でありながらアトランティスを滅ぼそうと画策した「山の老人」が来襲するのを警戒していた、というのも考えられます。まあ、津波説のほうが自然かな、とは思いますが・・・。
「冥界の王」のピラミッドの周囲の壁に描かれていた絵は、熊と、最古の文明を築いた人々=アトランティス人を象徴する兎(これはティトゥアンの地下迷路の玄室と同じ)でした。
作中では、ネアンデルタール人が考え出した人類最古の神は熊の姿をしていたとされ、クロマニヨン人へと継承されたことが示唆されていますが、兎の隣に熊が描かれていたことの意味は、現時点ではよく分かりません。いずれにしても、アトランティスと深い関わりがありそうですが・・・。
最後に、「冥界の王」のミイラに描かれていた文字と図形ですが、文字については、現時点ではさっぱり分かりません。図形については、その後の100話から、
https://sicambre.seesaa.net/article/200607article_6.html
オリオン座ではないかと推測されますが、この図形を見てグレコ神父が衝撃を受けていますので、何か重要な意味がありそうです。
オリオン座以外の何か重要なものを意味しているのか、あるいは、オリオン座自体にアトランティスの秘密を解く重要な鍵がある、ということなのでしょう。じっさいオリオン座は、アトランティスと深い関係がありそうです(上記リンク先を参照してください)。
またしても長くなりましたが(笑)、12巻の雑感はこれで終了です。
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_15.html
場面は変わって、パリです。「山の老人」の幹部が集まり、入矢暗殺が失敗したことについて協議しています。ある幹部から、カナリア諸島にはどのくらい沈んだ島の手がかりがあったのか、と訊かれたグレコ神父は、教会成立初期、ある学者の書物には、カナリア諸島最古の移住者は「彼の島」の生き残りだった、という記述があったらしいが、原典は失われている、と答えます。
グレコ神父は、それほど重要なことをなぜ黙っていたのだ、後手に回ってしまったではないか、と詰問されると、テネリフェ島の「冥界の王」の民間伝承や、地下(山中)ピラミッドの存在は自分も知らなかった、と言います。
グレコ神父が、今回暗殺部隊を派遣したと思われる幹部に、ピラミッドには何があったのかと訊くと、赤と青の砂が舞っていたとの答えが返ってきます。砂絵の地図だなとグレコ神父が言うと、別の幹部が焦りますが、現代人が見てもどこの地図だか分からないだろうから大丈夫だ、とグレコ神父は言います。
さらに、「冥界の王」とおぼしきミイラがあり、ミイラの胸には奇妙な文字と、
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という図形が描かれていた、との報告を受けたグレコ神父は、衝撃を受けます。
一方、入矢・バトラー神父・ゼプコ老人・ラモン・エンリケの5人は、下山した後、テネリフェ島のサンタクルーズのレストランで食事をとっていました。何が分かったのか教えてくれ、とバトラー神父に言われた入矢とゼプコ老人は、斧はたぶん青銅製で、両刀の斧は、紀元前1500年頃にサントリーニ島の噴火で衰退したクレタ島の王家の紋章と同じだ、と答えます。
しかし、紀元前1500年頃に「冥界の王」の一族がカナリア諸島に流れ着いたとすると、自分たちの思うアトランティス像とは異なるし、「冥界の王」のミイラは純粋クロマニヨン人だろうから、そのころに欧州に純粋クロマニヨン人がいたとも考えられない、と入矢は言います。
砂絵の地図はどうなのか、とバトラー神父が問いかけると、どこを描いた地図なのかまったく分からなかった、と二人とも答え、ゼプコ老人はひじょうに悔しがります。入矢は、あんな場所は、世界中のどこにもない、と言い、「冥界の王」のミイラに描かれた図形の意味が分かればなあ、とぼやきますが、バトラー神父は、誰も死なず殺されず、よかったではないか、と入矢を慰め、入矢が「ま、まあ確かに・・・・・・」と言うところで、12巻は終了です。
12巻は、アル中の異端審問官というバトラー神父のキャラ設定と、殺し殺されるという行為自体が絶対悪なのだ、といった発言に、ヒューマンストーリー的性格が出ていますが、全体としては、最初に述べたように、歴史ミステリー・サスペンス的性格が強くなっています。
アトランティスにまつわる謎についても、11巻ほどの派手さはないにしても、随所に手がかりが示されており、以下、気になった点について、その後の連載(現在1話まで進んでいます)で判明したことも踏まえて、推測を交えつつ述べていくことにします。
まず、アトランティスがユカタン半島かカナリア諸島になければ、プラトンのいうアトランティスは存在しない、とのシュリーマンの考えですが、『イリヤッド』においては、以前よりプラトンの記述への疑問が呈されており、12巻において、アトランティスがユカタン半島にもカナリア諸島にもなさそうだと分かったことで、作中におけるプラトンの地位の低下が決定的になったのではないか、と思います。
では、シュリーマンがどこをアトランティスと考えていたのかというと、作中では今のところ明示されてはいないのですが、どうもイベリア半島の大西洋岸が最有力と思われます。
また、「冥界の王」のピラミッドの周囲に描かれていた砂絵は、アトランティスの場所を示す地図だったと思われますが、グレコ神父によると、現代人が見ても分からないということです。
これは、アトランティスの場所を推測するうえで重要な手がかりとなりそうですが、その意味するところはというと、
●現代人からみると、アトランティス人の地理観がいい加減だった。
●氷河期の地形を反映した地図なので、分かりにくい。
●地震と津波で沈んだ地形が描かれているので、分かりにくい。
といった可能性が考えられますが、現時点ではどうもよく分かりません。
まあ、アトランティスの所在の解明はこの作品の見せ場といえ、最終話近くまで明らかにされないでしょうから、とりあえず今はおいておきます。
アトランティス人はどうやらクロマニヨン人らしいということが判明したのは、12巻での最大の収穫といえるかもしれません。そのクロマニヨン人が、生きたネアンデルタール人を見た唯一の現生人類とされていることから、「山の老人」が必死になって隠蔽し続けてきたアトランティスにまつわる謎については、やはりネアンデルタール人が重要な鍵を握っていることが改めて確認されたと思います。
ただ、ネアンデルタール人が人類最初の神を思いつき、その姿が熊だったということと、「山の老人」が隠蔽し続けてきた秘密は最初の神の正体だということが示唆されてはいますが、それだけでは衝撃的とはいえず、バトラー神父も指摘しているように、すべての宗教に関わる恐ろしい秘密なのですから、何か別の手がかりが必要だとも思われます。
そのアトランティス人の生き残りは、グレコ神父の発言とカナリア諸島の伝説から推測すると、楽園=アトランティス人の築いた世界最古の都市を恐ろしい何かに追われ、一部はカナリア諸島最古の移住者となったことが推測されます。その「恐ろしい何か」が意味するものといえば、おそらく地震による津波なのでしょう。だからカナリア諸島の住人は、毎日海を見張っていなければならないわけです。
別の解釈としては、「アトランティスはそれを創造した者自らが破壊した」というアリストテレスの発言と、『ヌビア聖書』の「神は、ご自分にかたどり人を創る前に“山の老人”に命じ、彼の島を沈めた」との一節から、アトランティス人でありながらアトランティスを滅ぼそうと画策した「山の老人」が来襲するのを警戒していた、というのも考えられます。まあ、津波説のほうが自然かな、とは思いますが・・・。
「冥界の王」のピラミッドの周囲の壁に描かれていた絵は、熊と、最古の文明を築いた人々=アトランティス人を象徴する兎(これはティトゥアンの地下迷路の玄室と同じ)でした。
作中では、ネアンデルタール人が考え出した人類最古の神は熊の姿をしていたとされ、クロマニヨン人へと継承されたことが示唆されていますが、兎の隣に熊が描かれていたことの意味は、現時点ではよく分かりません。いずれにしても、アトランティスと深い関わりがありそうですが・・・。
最後に、「冥界の王」のミイラに描かれていた文字と図形ですが、文字については、現時点ではさっぱり分かりません。図形については、その後の100話から、
https://sicambre.seesaa.net/article/200607article_6.html
オリオン座ではないかと推測されますが、この図形を見てグレコ神父が衝撃を受けていますので、何か重要な意味がありそうです。
オリオン座以外の何か重要なものを意味しているのか、あるいは、オリオン座自体にアトランティスの秘密を解く重要な鍵がある、ということなのでしょう。じっさいオリオン座は、アトランティスと深い関係がありそうです(上記リンク先を参照してください)。
またしても長くなりましたが(笑)、12巻の雑感はこれで終了です。
この記事へのコメント
12巻の雑感記載、お疲れさまでした。
そして、ありがとうございました。
興味深く拝見させて頂きました。
ところで、今日、タイミング良く12巻が届きました。
もう、うれしくて♪待ちきれず、最初にだ~っと一挙読みし、
その後で、もう少し丁寧に読みました。
この巻は本当におもしろいですね。
劉公嗣さんのおかげで、話がわかっていましたが、
魚戸おさむ氏の絵が、やっぱりとても丁寧で魅力的で、
人物の表情とか視覚的な微妙なところが楽しめました。
それに、京極さん、似てますw!ちょっと笑えましたw。
気になったのが、ゼプコ老人の住所を入矢に差し出す
ゼプコの息子夫婦が「祖父の住所です」と言ってましたねw。
これは、かなり気になりましたw。
俳優さんがセリフを間違えたという感じですw。
よかったですねぇ。
じつは、連載時の台詞が単行本で
訂正されていることはたまにある
のですが、それでも見落としはある
ものですねぇ。
区切りがよいので、97話まで述べ
ることにしましたが、今日掲載した
97話分で『イリヤッド』についての
雑感は一休みとします。
98話以降の内容は、おおむねこの
ブログですでに述べていて、この後は
当分、掲載誌の発売日に雑感を述べる
だけになりそうです。