『イリヤッド』12巻(5)
12月11日分の続きです。
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_13.html
一方、入矢・バトラー神父・ゼプコ老人の三人は、レイトン卿の紹介をうけて、テネリフェ島を訪れ、ガイド(兼ペテン師)のラモンを雇います。ラモンは、三人をグイマーのピラミッドへと案内し、ピラミッドにまつわる話を紹介します。
ピラミッドの建設年代は、使用された石が火山岩のため測定できませんが、ケルト人以前に欧州にいた人々の新石器文化との類似が指摘されています。グイマーの王は、代々このピラミッドの地下で生活したとされています。
このピラミッドの建設目的は、信仰という説もありますが、そもそもピラミッドではなく、物見櫓だったという説もあります。カナリア諸島の七つの島いたグアンチェスは、公開技術を持たず、お互いに交流もなく独自の文化を築いていました。
しかし各島のグアンチェスには、自分たちは楽園を恐ろしい何かに追われてカナリア諸島にやって来た、という共通の伝説がありました。いつの日か、その恐ろしい何かがやって来るので、毎日海を見張っていなければならない、というわけです。
ラモンの話が終わると、そろそろ「冥界の王」の洞窟に案内してもらおう、とゼプコ老人が促し、エンリケとラモンに導かれて、三人は偽の「冥界の王」の墓室に入ります。そこには、石の祭壇の上に安置されたミイラがありました。
ミイラを見た入矢は、ミイラの製造法は、タクラマカンで発見された紀元前3000年頃の欧州系種族と共通で、体に模様を描く風習も同じだ、と言います。早く地図を照らせ、とゼプコ老人に促され、入矢が地図を照らすと、そこにはゼプコ老人の想像と似た地図(太平洋に巨大な大陸アトランティスが浮かび、アトランティスとアフリカは内海をはさんだ位置関係にある)が描かれていました。
先に地図を見た入矢は、とうとうアトランティスがどこだか分かった、と叫び、遅れて地図を見たバトラー神父とゼプコ老人は、地図がゼプコ老人の想像と類似していたのを見て、抱き合って喜びますが、その様子を見ていたラモンとエンリケの二人は、密かに嘲笑します。
入矢がエンリケに、ミイラを見せてくれた謝礼は三人分で1500ユーロ(約22万円)だったよな、と確認し、そうですとエンリケが答えると、ゼプコ老人は、実に良心的な価格だと言い、満足そうです。
ところが入矢は次に、「じゃあ本物の“冥界の王”のミイラを見るにはいくら払えばいい?」と訊きます。入矢も、この「冥界の王」が偽物だと見破ったわけです。この山中のグアンチェスの墓場の遺体は、どれもうまくミイラ化しなかったのに、「冥界の王」だけは完全体のミイラであり、外部から持ち込んで体に地図を描き、高貴な人の墓と見せかけるために、祭壇を作って入り口を石でふさいだのだろう、というわけです。
激昂してエンリケとラモンに殴りかかろうとするゼプコ老人を制した入矢は、こんな凝った偽物を用意したからには、本物を知っているのだろう、と問い質し、本物の「冥界の王」のミイラへと案内してくれたら金は別に支払うが、断れば警察に通報する、とバトラー神父は脅し、エンリケとラモンは仕方なく、本物の安置されている場所へと案内することになります。
エンリケとラモンは、標高3171メートル、スペイン最高峰のテイデ山へと三人を案内し、登り始めます。ゼプコ老人は、入矢が偽者と見破ったことを感謝し、これまでヘボ学者扱いしてきたことを謝罪しますが、入矢の態度はどうも変です。
バトラー神父が、何か秘密があるみたいですね、と訊くと、入矢は、レイトン卿とは付き合いが長く、彼がフェアプレーを口にしたときは、たいていが裏切りだった、と秘密を打ち明けます。レイトン卿は昔から嫌な人だったということが判明し、ちょっと失望しました(笑)。
五人は、「冥界の王」の墓の入り口のある山腹の洞窟に着き、ゼプコ老人は急ぎますが、エンリケは、石で塞がれた入り口を破るのはグアンチェスが失われた楽園に帰るときだけで、他の目的で壊した場合は永久に呪われるという伝説を語り、頂上の小さな裂け目から入るのだ、と説明します。
五人が頂上についたのは夕方で、エンリケとゼプコ老人が中へと入っていきますが、バトラー神父は、視力が良いというラモンに、一緒に頂上に残って酒の相手をしてくれ、と言い、頂上に二人で残ろうとします。
バトラー神父が危険に立ち向かうとき、必ず酒を飲むことを知っている入矢は、「山の老人」が来襲すると思い、自分も残ると言いますが、バトラー神父は断ります。戦場で大勢の死を見てきたバトラー神父は、戦っているうちに自分が善なのか悪なのか分からなくなりました。
神父になり特殊任務に就いてからは、絶対的善の立場で戦えると思ったバトラー神父ですが、それが間違いであることに気づきます。戦いに善はなく、殺し殺されるという行為自体が絶対悪なのだ、という考えにいたったのです。
自分は戦わず、頂上で見張るだけで、「山の老人」がやってきたら、入矢たちを連れて一目散に逃げる、とバトラー神父は語り、入矢もその思いに応えて、裂け目から中へと入っていきます。
頂上に残ったバトラー神父とラモンは、日没直前に五人の男を見ます。ところが、夜になっても五人の姿は見えず、不審に思ったラモンがバトラー神父に尋ねると、バトラー神父は、こちらに居場所を知られたくないから、灯りもつけずに野宿しているのだろう、と答えます。
バトラー神父から火を使ってはいけない、と言われていたラモンは、その理由を理解し、相手が危険な人物だと気づきます。日の出まであと5時間というところで、「冥界の王」の墓まで降りるのに1時間かかるとラモンから聞いたバトラー神父は、自分は裂け目から降りていって、中にいる三人に逃げるように伝えにいくから、君は「山の老人」の暗殺部隊に注意して山から降り、道路に出て一番近い街で待機し、午後8時までに自分たちが戻らなければ、警察を呼んでほしい、とラモンに言い残して、裂け目から中へと降りていきます。
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一方、入矢・バトラー神父・ゼプコ老人の三人は、レイトン卿の紹介をうけて、テネリフェ島を訪れ、ガイド(兼ペテン師)のラモンを雇います。ラモンは、三人をグイマーのピラミッドへと案内し、ピラミッドにまつわる話を紹介します。
ピラミッドの建設年代は、使用された石が火山岩のため測定できませんが、ケルト人以前に欧州にいた人々の新石器文化との類似が指摘されています。グイマーの王は、代々このピラミッドの地下で生活したとされています。
このピラミッドの建設目的は、信仰という説もありますが、そもそもピラミッドではなく、物見櫓だったという説もあります。カナリア諸島の七つの島いたグアンチェスは、公開技術を持たず、お互いに交流もなく独自の文化を築いていました。
しかし各島のグアンチェスには、自分たちは楽園を恐ろしい何かに追われてカナリア諸島にやって来た、という共通の伝説がありました。いつの日か、その恐ろしい何かがやって来るので、毎日海を見張っていなければならない、というわけです。
ラモンの話が終わると、そろそろ「冥界の王」の洞窟に案内してもらおう、とゼプコ老人が促し、エンリケとラモンに導かれて、三人は偽の「冥界の王」の墓室に入ります。そこには、石の祭壇の上に安置されたミイラがありました。
ミイラを見た入矢は、ミイラの製造法は、タクラマカンで発見された紀元前3000年頃の欧州系種族と共通で、体に模様を描く風習も同じだ、と言います。早く地図を照らせ、とゼプコ老人に促され、入矢が地図を照らすと、そこにはゼプコ老人の想像と似た地図(太平洋に巨大な大陸アトランティスが浮かび、アトランティスとアフリカは内海をはさんだ位置関係にある)が描かれていました。
先に地図を見た入矢は、とうとうアトランティスがどこだか分かった、と叫び、遅れて地図を見たバトラー神父とゼプコ老人は、地図がゼプコ老人の想像と類似していたのを見て、抱き合って喜びますが、その様子を見ていたラモンとエンリケの二人は、密かに嘲笑します。
入矢がエンリケに、ミイラを見せてくれた謝礼は三人分で1500ユーロ(約22万円)だったよな、と確認し、そうですとエンリケが答えると、ゼプコ老人は、実に良心的な価格だと言い、満足そうです。
ところが入矢は次に、「じゃあ本物の“冥界の王”のミイラを見るにはいくら払えばいい?」と訊きます。入矢も、この「冥界の王」が偽物だと見破ったわけです。この山中のグアンチェスの墓場の遺体は、どれもうまくミイラ化しなかったのに、「冥界の王」だけは完全体のミイラであり、外部から持ち込んで体に地図を描き、高貴な人の墓と見せかけるために、祭壇を作って入り口を石でふさいだのだろう、というわけです。
激昂してエンリケとラモンに殴りかかろうとするゼプコ老人を制した入矢は、こんな凝った偽物を用意したからには、本物を知っているのだろう、と問い質し、本物の「冥界の王」のミイラへと案内してくれたら金は別に支払うが、断れば警察に通報する、とバトラー神父は脅し、エンリケとラモンは仕方なく、本物の安置されている場所へと案内することになります。
エンリケとラモンは、標高3171メートル、スペイン最高峰のテイデ山へと三人を案内し、登り始めます。ゼプコ老人は、入矢が偽者と見破ったことを感謝し、これまでヘボ学者扱いしてきたことを謝罪しますが、入矢の態度はどうも変です。
バトラー神父が、何か秘密があるみたいですね、と訊くと、入矢は、レイトン卿とは付き合いが長く、彼がフェアプレーを口にしたときは、たいていが裏切りだった、と秘密を打ち明けます。レイトン卿は昔から嫌な人だったということが判明し、ちょっと失望しました(笑)。
五人は、「冥界の王」の墓の入り口のある山腹の洞窟に着き、ゼプコ老人は急ぎますが、エンリケは、石で塞がれた入り口を破るのはグアンチェスが失われた楽園に帰るときだけで、他の目的で壊した場合は永久に呪われるという伝説を語り、頂上の小さな裂け目から入るのだ、と説明します。
五人が頂上についたのは夕方で、エンリケとゼプコ老人が中へと入っていきますが、バトラー神父は、視力が良いというラモンに、一緒に頂上に残って酒の相手をしてくれ、と言い、頂上に二人で残ろうとします。
バトラー神父が危険に立ち向かうとき、必ず酒を飲むことを知っている入矢は、「山の老人」が来襲すると思い、自分も残ると言いますが、バトラー神父は断ります。戦場で大勢の死を見てきたバトラー神父は、戦っているうちに自分が善なのか悪なのか分からなくなりました。
神父になり特殊任務に就いてからは、絶対的善の立場で戦えると思ったバトラー神父ですが、それが間違いであることに気づきます。戦いに善はなく、殺し殺されるという行為自体が絶対悪なのだ、という考えにいたったのです。
自分は戦わず、頂上で見張るだけで、「山の老人」がやってきたら、入矢たちを連れて一目散に逃げる、とバトラー神父は語り、入矢もその思いに応えて、裂け目から中へと入っていきます。
頂上に残ったバトラー神父とラモンは、日没直前に五人の男を見ます。ところが、夜になっても五人の姿は見えず、不審に思ったラモンがバトラー神父に尋ねると、バトラー神父は、こちらに居場所を知られたくないから、灯りもつけずに野宿しているのだろう、と答えます。
バトラー神父から火を使ってはいけない、と言われていたラモンは、その理由を理解し、相手が危険な人物だと気づきます。日の出まであと5時間というところで、「冥界の王」の墓まで降りるのに1時間かかるとラモンから聞いたバトラー神父は、自分は裂け目から降りていって、中にいる三人に逃げるように伝えにいくから、君は「山の老人」の暗殺部隊に注意して山から降り、道路に出て一番近い街で待機し、午後8時までに自分たちが戻らなければ、警察を呼んでほしい、とラモンに言い残して、裂け目から中へと降りていきます。
この記事へのコメント
レイトン卿は、元から性格悪かったのですねw。
ですが、女学生の誘惑にのらなかったり、
レストランでちんぴらをやっつけたり、
エンリオ・ロージ老人を心配したりするのを
みると、どうも、悪人じゃなさそうですねw。
おもしろいキャラクターだと思います。
後半の件(くだり)は、すごくハラハラしましたよ。
劉公嗣さんは、本当に文章が上手ですね。
さて、このあとどうなるのだろう。緊張しますw。