織田信長と中国文化

 趣味は歴史といっておきながら、ブログでは『イリヤッド』以外の歴史の話題をほとんど述べていないので、たまには述べてみようかと思います。
 一般にはあまり言われないことですが、信長には中華思想・中国文化への憧憬があり、岐阜改名や、安土城天守閣書院に描かれた、遠寺晩鐘(中国の有名な瀟湘八景の一つ)・殷代の聖人である傅説・漢代に出現したとされる伝説の仙女である西王母の絵などがそうです。また、信長の天下思想の背景に儒学の影響を強く認める見解もあります(藤田達生『本能寺の変の群像』)。
 信長について語られるとき、その南蛮趣味は強調されることが多いのですが、中華志向については、あまり指摘されることがありません。これは、戦後盛んになった先進的な信長像にとって、中華志向は都合が悪かったためだと思われます。

 後進的な中国文化への憧憬が信長にあったとすると、信長の先進性が損なわれる、との考えなのでしょうが、一方で、信長の南蛮趣味が強調されているのは、欧米の先進性という大前提があるからで、戦後(明治以降というべきでしょうか)日本における欧米への劣等感と、アジア(もちろん、西アジアも含めてということです)軽視とが根深いのだなあ、と改めて思い知らされます。
 自由主義競争を導入した先進性という信長像についても、同様の問題があり、信長が座を廃止したという確実な事例はなく、逆に多数の座の既得権を安堵し、新興商人の活動の抑制すら指示していた、という歴史的事実は無視される傾向にあります。
 信長については、一度、先進的・独創的という人物像を破棄し、先入観なくその人物像を再構築していく必要があるのでしょう。もちろん、これは学界ではなく、私のような一般の歴史愛好家の間での問題なのですが・・・。

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