『イリヤッド』11巻ソロモンの壺編(2)

 9月16日分の続きです。

 場面は変わって、「山の老人」の幹部会です(場所は明示されていません)。グレコ神父は、他の幹部に呼ばれてこの幹部会に出席しますが、着席すると、「これは私に対する弾劾裁判なのかな」と問いかけます。グレコ神父の、入矢とその周囲の人物にたいする、殺人をも辞さない過激な行動にたいして、幹部の間で懸念が広がっていて、グレコ神父が呼び出されたというわけです。
 ある幹部が、「いいかね・・・・・・我々は、テロ組織でも殺し屋集団でもない。いわば、人類の護民官だ」と述べます。アーサー王の墓をめぐるスキャンダルで、英国はもとより欧州の考古学界を追放された二流の考古学者である入矢を、どうして躍起になって始末したがるのだ、と幹部たちはグレコ神父に問いただします。

 グレコ神父は、我々にとって入矢がもっとも危険な人物だからだ、と答え、これまでの経緯について説明します。そもそもの発端は、ハインリッヒ=シュリーマンの孫であるパウルの残した日記でした。この日記を、欧州屈指の財界人ヴィルヘルム=エンドレ(ユリの父)が入手し、彼は6人の富豪を招き、アトランティス探索のための会議を開きました。
 エンドレはその席で、資金の提供と入矢への探索依頼を提唱しましたが、会議後にエンドレは、会議の出席者ヨセフ=ベルクに殺害されます。他の会議出席者のうち、オコーナー氏は事故で、アリンガム卿はドゥブログニクで変死します。さらに、エンドレを殺害したベルクもサルデーニャ島で殺害されます。これらの殺害の背後にいたのがグレコ神父で、他の幹部たちは、これが行き過ぎではないのか、と懸念しているわけです。

 残るアトランティス会議出席者についても、「山の老人」の幹部たちの間で検討が続きます。イアン=ワードは、身を引きアイルランドで病床の妻の世話をしているということで、問題なしとされます。香港の実業家リチャード=ウー(呉文明)は、幹部の一人の意向である企業がウーの会社に敵対的買収を仕掛けているので、アトランティスどころではなく問題なし、とされます。ウーの企業への買収の経緯とその後の展開については、後に100・101話で述べられていて、このブログでもすでに取り上げています。
https://sicambre.seesaa.net/article/200607article_6.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200607article_20.html
 雇っている殺し屋を使って、入矢やユリの命を狙ったこともあるフランスの女性実業家クロジエについては、ある幹部が、「我々の紐付きだから、当分処刑する必要はないだろう」と述べています。クロジエは「山の老人」とも接触しており、「山の老人」からパウルの日記を入手し、入矢と因縁のあるレイトン卿に依頼してアトランティス探索を続けていますので、「紐付き」とはそのことを意味しているのかもしれません。

 ある幹部から、入矢はシュリーマンと同じくらい優秀なのか?と問われたグレコ神父は、シュリーマンどころか、ソロモン王と同じくらいの賢者だ、と答えます。
 入矢が、北アフリカに伝わるアマゾネス伝説を追い、古代ベルベル族の墓を発見したらしい、と知ったある幹部は、「玄室には、アテナ、メドゥーサ、ネートの三位一体を示す像が置かれ、壁面には、波を渡るウサギと黄金の羊の絵が描かれているというのですか?それだけでイリヤはアトランティスの謎を解けるのか?」と問いかけ、グレコ神父は「時間の問題だ!」と答えます。
 さらにグレコ神父は、「悪いことに、そこにはソロモンの壺が安置されているともいわれる」と述べ、続いてソロモン王の伝説について語り、入矢がいかに危険な人物かということを、他の幹部たちに説きます。

 グレコ神父によると、ソロモン王は「彼の島」に興味をもち、フェニキア人に命じて古今東西の文献を収集し、「彼の島」の所在地を特定するとともに、やがて、人類がぜったい知るべきではない太古の呪われた人類の秘密にたどり着きました。
 ソロモン王はその秘密を真鍮の壺に封印し、世界の果てに投棄するようフェニキア人に命じたのですが、壺を乗せた舟は、後悔の途中に北アフリカのアマゾネスに襲撃され、壺は海に沈んだか、アマゾネスの女王に奪われた、ということです。
 グレコ神父は、「もし壺がドクタ・イリヤの手に渡れば、彼はアトランティス遺跡どころか・・・・・・呪われた人類の秘密にまで到達するだろう」、と他の幹部に警告します。
 グレコ神父が、今回は最高の者(バシャのこと)を放ったからも数日のうちにいい知らせが届くだろう、と言うと、他の幹部は、グレコ神父に任せるということで合意します。ある幹部が、「もし今回も失敗に終わったら、私もそのマンハントに参加させてもらうよ」と言ったところ、グレコ神父は、「そのチャンスはないと思うがね」と余裕の表情で返答します。
 グレコ神父のバシャへの篤い信頼がうかがえますが、幹部の一人は、「我々は、テロ組織でも殺し屋集団でもない」と言っておきながら、「マンハントに参加させてもらうよ」と言ってしまうのですから、外部からみると、単なる暗殺集団にしか見えないと思うのですが(笑)。もっとも、「山の老人」の真の目的がまだはっきりとしないだけに、その動機しだいでは、印象が変わる可能性もありますが・・・。

 またしても長くなりましたが(笑)、ソロモンの壺編は次回で終わる予定です。

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