20万年前にさかのぼった人類の象徴的思考
アフリカ南部のザンビアのツイン=リヴァーズという遺跡で、人類が20万年前に象徴的な方法で様々な色の顔料を使用していた証拠が発見された、との報道がありました。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/5329486.stm
発見者は、ザンビアで10年以上研究を続けている英国人のローレンス=バーラム博士で、鉱物顔料やオーカー(鉄分を多く含んだ粘土で、顔料に用いる)に削り取られた跡があり、その粉を動物の脂肪などと混ぜて、儀式のためなどに体に塗っていたのではないか、というわけです。
イスラエルのスフール洞窟で出土した10万年前のビーズが、人類の最古の象徴的思考の事例ではないかと最近になって言われていたのですが、この発見により、それが一気に10万年さかのぼることになります。また、このような象徴的思考の事例は、洗練された言語の使用を想定させるものでもあります。
この遺跡の年代は、30~17万年前ですが、どの人類種の遺跡なのか、はっきりしません。ただ、ホモ=ハイデルベルゲンシスらしき骨の断片が出土している、とのことです。
バーラム博士によると、ツイン=リヴァーズ遺跡で発見された石器は、単純なハンドアックスから、石刀や薄片を柄にとりつけた洗練されたものへと変わっていき、それは、顔料の使用と同時だった、とのことです。また、これらのオーカーは、石刃を柄にとりつけるさいの接着剤としても使われただろう、とのことです。
こうしたオーカーの使用は、単に機能的なもので、象徴的な意味はない、との予想される反論にたいして、バーラム博士は、特定の機能のためなら、色も同じものになるだろうが、様々な場所から異なる色の顔料を使用しているのだから、象徴的思考を意味するだろう、としています。
この報道は、人類の象徴的思考を、上部旧石器時代(サハラ砂漠以南では後期石器時代)よりも前に認めるという、近年の古人類学の流行に沿ったもので、20万年前という数字や、ハイデルベルゲンシスから象徴的思考が始まっていた可能性があるとの指摘は、一見すると衝撃的ではありますが、8月29日分で述べたように、
https://sicambre.seesaa.net/article/200608article_29.html
象徴的思考に代表される人類の現代性が40万年前までさかのぼる可能性も指摘されているわけですから、特別に驚くほどのことではないのかもしれません。
この報道でも触れられていましたが、イスラエルやモロッコなどの、10万年前をさかのぼるとされる石の人物像は、地質学的に偶然形成されたもので、そもそも石像ではないか、はるか後世のものだとして、一蹴されてきたのですが、こうした「怪しげな」遺物の発見は、あるいは本物なのかもしれません。それを証明するためには、今後、10万年前をさかのぼる、象徴的思考を示す遺物を多数発掘する必要がありますが、おそらくアフリカでは、今後同様の発見が相次ぐものと思われます。
今回の報道で示唆されているように、かりにハイデルベルゲンシスの時点で人類が象徴的思考能力を有していたとなると、ネアンデルタール人にも象徴的思考能力があったと考えても、不思議ではないでしょう。もちろん、現生人類とネアンデルタール人が分岐した後に、現生人類がネアンデルタール人よりも象徴的思考能力を発達させた、という可能性も低くはないでしょう。
そうすると、上部旧石器時代や後期石器時代まで、人類が象徴的思考を全開させなかったのはなぜか、という疑問が当然でてきます。故に、リチャード=クライン氏に代表されるように、中部旧石器時代や中期石器時代における象徴的思考の存在を否定的にみる研究者が少ないのですが、これは、8月29日分で述べたように、文化の蓄積や人口といった諸要素が複雑にからみあって蓄積されていき、ある限界点に到達するまでは、散発的にしか見られなかった象徴的思考が、その限界点を突破すると、急速に開花し、後戻りすることもほとんどなくなる、ということではないかと推測されます。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/5329486.stm
発見者は、ザンビアで10年以上研究を続けている英国人のローレンス=バーラム博士で、鉱物顔料やオーカー(鉄分を多く含んだ粘土で、顔料に用いる)に削り取られた跡があり、その粉を動物の脂肪などと混ぜて、儀式のためなどに体に塗っていたのではないか、というわけです。
イスラエルのスフール洞窟で出土した10万年前のビーズが、人類の最古の象徴的思考の事例ではないかと最近になって言われていたのですが、この発見により、それが一気に10万年さかのぼることになります。また、このような象徴的思考の事例は、洗練された言語の使用を想定させるものでもあります。
この遺跡の年代は、30~17万年前ですが、どの人類種の遺跡なのか、はっきりしません。ただ、ホモ=ハイデルベルゲンシスらしき骨の断片が出土している、とのことです。
バーラム博士によると、ツイン=リヴァーズ遺跡で発見された石器は、単純なハンドアックスから、石刀や薄片を柄にとりつけた洗練されたものへと変わっていき、それは、顔料の使用と同時だった、とのことです。また、これらのオーカーは、石刃を柄にとりつけるさいの接着剤としても使われただろう、とのことです。
こうしたオーカーの使用は、単に機能的なもので、象徴的な意味はない、との予想される反論にたいして、バーラム博士は、特定の機能のためなら、色も同じものになるだろうが、様々な場所から異なる色の顔料を使用しているのだから、象徴的思考を意味するだろう、としています。
この報道は、人類の象徴的思考を、上部旧石器時代(サハラ砂漠以南では後期石器時代)よりも前に認めるという、近年の古人類学の流行に沿ったもので、20万年前という数字や、ハイデルベルゲンシスから象徴的思考が始まっていた可能性があるとの指摘は、一見すると衝撃的ではありますが、8月29日分で述べたように、
https://sicambre.seesaa.net/article/200608article_29.html
象徴的思考に代表される人類の現代性が40万年前までさかのぼる可能性も指摘されているわけですから、特別に驚くほどのことではないのかもしれません。
この報道でも触れられていましたが、イスラエルやモロッコなどの、10万年前をさかのぼるとされる石の人物像は、地質学的に偶然形成されたもので、そもそも石像ではないか、はるか後世のものだとして、一蹴されてきたのですが、こうした「怪しげな」遺物の発見は、あるいは本物なのかもしれません。それを証明するためには、今後、10万年前をさかのぼる、象徴的思考を示す遺物を多数発掘する必要がありますが、おそらくアフリカでは、今後同様の発見が相次ぐものと思われます。
今回の報道で示唆されているように、かりにハイデルベルゲンシスの時点で人類が象徴的思考能力を有していたとなると、ネアンデルタール人にも象徴的思考能力があったと考えても、不思議ではないでしょう。もちろん、現生人類とネアンデルタール人が分岐した後に、現生人類がネアンデルタール人よりも象徴的思考能力を発達させた、という可能性も低くはないでしょう。
そうすると、上部旧石器時代や後期石器時代まで、人類が象徴的思考を全開させなかったのはなぜか、という疑問が当然でてきます。故に、リチャード=クライン氏に代表されるように、中部旧石器時代や中期石器時代における象徴的思考の存在を否定的にみる研究者が少ないのですが、これは、8月29日分で述べたように、文化の蓄積や人口といった諸要素が複雑にからみあって蓄積されていき、ある限界点に到達するまでは、散発的にしか見られなかった象徴的思考が、その限界点を突破すると、急速に開花し、後戻りすることもほとんどなくなる、ということではないかと推測されます。
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