『イリヤッド』の特色

 世に、アトランティスを扱った書物は多数存在します。アトランティスの場所や年代や実態を追及するノンフィクション(あくまで、著者の主観では、ということですが)から、アトランティスを扱った創作ものまで、じつに多様な本が刊行されていて、世界でもっとも多く印刷された本は『聖書』だが、その次はアトランティス関連の本だ、との話もあります。もっとも、この話は疑わしいと個人的には思います。『毛沢東語録』のほうが部数は多そうですから(笑)。私も、フィクション・ノンフィクションを問わず、アトランティス関連の本を十数冊程度は読んできましたが、それらと比較しての『イリヤッド』の特色となると、以下の点が挙げられるでしょう。

 シュリーマンは、子供のころの夢をかなえた偉人として、広く知られています。商売に成功した後、長年の夢であるトロイア発掘に乗り出し、研究者には軽視されながら、見事発掘に成功しました。そのため、アカデミズムを批判し、自らの正当性を訴える在野の「研究者」の中には、シュリーマンを持ちだして自己正当化を図る人が少なからずいます。シュリーマンは、在野の「研究者」にとっての英雄なのです。
 じつは、こうしたシュリーマンへの高評価にはかなりの誇張と虚偽が含まれているそうですが、それはさておき、『イリヤッド』においても、シュリーマンの評価はたいへん高く、アトランティス探索に乗り出していたとの設定になっています。作中では、彼アトランティスの真相に近づき、そのために「山の老人」に殺害されたと示唆されています。作中では、近代以降、ナチスのヒトラーやヒムラーもアトランティス探索に乗り出しということにされていますが、シュリーマンはそれらアトランティス探索者の中でも別格で、「山の老人」が近代ではもっとも恐れた存在だとされています。
 そのシュリーマンの足跡を追う形で物語は進行していきます。シュリーマンのつかんでいた手がかりが、断片的に明らかにされ、明らかとなったその手がかりが、別の手がかりの道標となります。『イリヤッド』におけるシュリーマンは、単なる夢をかなえた偉人というだけではなく、きわめて重要な狂言回し的役割を担っているといえます。シュリーマンの存在感がたいへん強いというのが、『イリヤッド』特色の一つです。

 普通、アトランティスについての基本文献は『クリティアス』と『ティマイオス』のみとされています。しかし『イリヤッド』では、プラトンの役割は大きいとはいえません。それどころか、プラトンはアトランティスを隠蔽しようとする「山の老人」の側に寝返り、著作の内容を改竄したと示唆されています。ちなみに作中では、古代ギリシアにおいて、「山の老人」は「古き告訴人」と呼ばれていたとされています。
 では、何が参考文献として重視されているかというと、やはりシュリーマンが何を参考にしていたかということが重要な意味をもちます。彼が参考にしていたのが、ディオドロス『歴史叢書』です。私は、アレクサンドロス大王研究の重要史料の一つという程度の認識しかありませんでしたが、『イリヤッド』においては、重要な役割をにないます。ディオドロス『歴史叢書』を扱っているアトランティス本としては、下記のものがあります。未読なので、どのように取り扱われているかは分かりませんが。
http://www.atlan.org/book/toc.htm
 シュリーマンがその他に参考にしていた文献として示唆されているのが、『旧約聖書』です。「山の老人」は、プラトンの著作よりもディオドロス『歴史叢書』を恐れているのですが、真に恐れているのは、『旧約聖書』とのことです。もう一つ、「山の老人」が真に恐れているのは、ヘロドトス『歴史』だそうです。

 もう一つ、他のアトランティス本と比較しての『イリヤッド』の特色を挙げると、ネアンデルタール人との関わりが強く示唆されていることです。どうやらネアンデルタール人が、「人類がぜったい知るべきではない、太古の呪われた秘密」を解く鍵の一つのようなのですが、どのような関わりがあるのか、現時点でははっきりと描かれてはいません(所々で示唆されてはいますが)。今のところ、作中においてシュリーマンとネアンデルタール人との関わりは描かれていませんが、これはシュリーマン以外のアトランティスルートと言えるのかもしれません。ただ、作中のネアンデルタール人とクロマニヨン人との関係については、かなりの創作が認められます。

 以上、他のアトランティス本と比較しての『イリヤッド』の特色をまとめると、
(1)シュリーマンの役割がきわめて大きく、今のところ、主人公の入矢たちは、基本的にはシュリーマンの足跡を追う形でアトランティス探索を進めている。
(2)プラトン『クリティアス』・『ティマイオス』ではなく、ディオドロス『歴史叢書』・『旧約聖書』・ヘロドトス『歴史』が参考文献として重視されている(とくに後二者)。
(3)アトランティスとネアンデルタール人との関わりが強く示唆されている。
といったところです。これら三点については、後日また詳しく述べようと思います。

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