閉経後も長く生存する野生チンパンジーを報告した研究(Wood et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。選択が閉経もしくはもはや繁殖できなくなった個体の生存継続を促す理由は、明らかではありません。哺乳類では、野生の自然条件下でかなりの数が生存する繁殖後の雌は、ヒトと少数のクジラ種(関連記事)でのみ観察され…
三葉虫の食性に関する研究(Kraft et al., 2023)が公表されました。三葉虫類は最も象徴的な化石の一群で、カンブリア紀の初期からペルム紀の末期(約5億4100万~2億5200万年前)までの約2億7000万年間にわたる歴史の大半において、海洋生態系を構成する代表的な生物でした。三葉虫類はこれまでに2万種以上が記載されており、…
中国南西部の後期新石器時代遺跡の人類のゲノムデータを報告した研究(Tao et al., 2023)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文は、雑穀と稲作の混合農耕が行なわれていた中国南西部の後期新石器時代の高山(Gaoshan)および海門口(Haimenkou)という遺跡2ヶ所の人類遺骸のゲノムの祖先系…
現生人類のアフリカからの拡大に伴うネアンデルタール人からの遺伝的影響の時空間的差異を推定した研究(Quilodrán et al., 2023)が公表されました。ネアンデルタール人と現生人類との遺伝的混合は今では広く認められており、ネアンデルタール人からの遺伝的影響度について、非アフリカ系現代人集団では大きくはないものの有意な地域差が…
アフリカ東部のビクトリア湖におけるカワスズメ科のシクリッドの過去17000年間にわたる進化史に関する研究(Ngoepe et al., 2023)が公表されました。適応放散は、生命のきわめて大きな多様性を生み出すのに寄与してきました。適応放散には生態学的な機会が前提条件になると考えられていますが、どの系統が放散するかを決定するうえでの…
スリランカの人口史に関する研究(Singh et al., 2023)が公表されました。スリランカというかセイロン島における(まず間違いなく)現生人類(Homo sapiens)の痕跡は48000年前頃までさかのぼり(関連記事)、となる子供と若い成人女性の現生人類遺骸2個体が発見されています(関連記事)。本論文はおもに、スリランカの現…
アマゾン森林地帯の土構造物を報告した研究(Peripato et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。先住民社会はアマゾン川流域に12000年間以上居住しており、昔から土構造物を造るとともに景観に手を加えてきましたが、アマゾンの森林に対するその影響の規模は不明なままです。それは、そうした土構造物が人里離れ…
北アメリカ大陸の2万年以上前の人類の足跡を報告した研究(Pigati et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。研究者の間では伝統的に、ヒトが北アメリカ大陸に16000~13000年前頃に到達した、と考えられてきました。しかし最近では、ずっと早い年代を裏づける証拠が蓄積されてきました。2021年には、アメ…
人類による最古の木造建築かもしれない遺物を報告した研究(Barham et al., 2023)が公表されました。木製遺物は保存にきわめて恵まれた条件を必要とするので、前期石器時代のものは稀にしか残っていません。したがって、人類は木を石と同様に古くから使用してきた可能性が高そうではあるものの、200万年以上前の石器も発見されている石と…
初期現生人類(Homo sapiens)の拡散経路に関する研究(Abbas et al., 2023)が公表されました。現生人類のアフリカからの拡散は、現代人の分布と直結しているだけに、多くの関心が寄せられてきました。本論文は、レヴァント南部の最終間氷期の遺跡の年代測定結果を報告し、この期間に水を利用可能だったレヴァント南部が、現生人…
哺乳類における同性間性行動の進化に関する研究(Gómez et al., 2023)が公表されました。同性間性行動は、無脊椎動物(昆虫、クモ、棘皮動物、線形動物など)から脊椎動物(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類など)までの主要な分類群全てを含む1500種以上の動物種で報告されており、とくにヒト以外の霊長類で多く見られ、少なくとも5…
5世紀のパンノニアの墓地の被葬者のゲノムデータを報告した研究(Vyask et al., 2023)が公表されました。近年の古代ゲノム研究の進展は目覚ましく、とくにヨーロッパの古代ゲノムデータは他地域よりもずっと多く蓄積されています(関連記事)。ヨーロッパの古代ゲノム研究では中世のデータも蓄積されつつあり、歴史学や考古学だけでは推測の…
古代エジプトのミイラ製作に用いられた香油の成分を報告した研究(Huber et al., 2023)が公表されました。古代エジプトのミイラ化は、考古学的記録で報告された最も複雑な葬儀慣行のいくつの重要な特徴として、4000年近くにわたって行なわれました。死後のため死者の身体と臓器を保存する死体防腐処理は、エジプトのミイラ化過程の中心的…
オルドビス紀の脊椎動物の頭部軟骨化石を報告した研究(Dearde et al., 2023)が公表されました。神経頭蓋は脊椎動物の頭部の不可欠な要素で、それ自体が重要な進化的新機軸です。しかし、その初期の進化はまだほとんど解明されておらず、顎口類(有顎脊椎動物)と円口類(ヌタウナギ類およびヤツメウナギ類)という2つの現生脊椎動物群の間…
ユーラシア西部における後期更新世人類の進化に関する証拠を再検討した研究(Finlayson et al., 2023)が公表されました。本論文は、後期更新世のユーラシア西部における人類進化史の最新の研究状況の把握にたいへん有益です。ユーラシア西部、とくにヨーロッパは、人類進化研究が最も進んでいる地域と言えそうで、更新世の人類化石の発見…