古代の巨大クジラ

 ペルー南部で発見された古代の巨大クジラを報告した研究(Bianucci et al., 2023)が報道されました。クジラ目(イルカ、クジラ、ネズミイルカを含む哺乳類の亜目)の化石記録は、陸上動物がどのようにして極端な適応を獲得し、完全な水中生活様式への移行を遂げたのか、明らかにしています。クジラ類では、これは最大体サイズの大幅な増大…
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ポーランドの鉄器時代と中世の人類集団のゲノムデータ

 ポーランドの鉄器時代と中世の人類集団のゲノムデータを報告した研究(Stolarek et al., 2023)が公表されました。近年の古代ゲノム研究の進展は目覚ましく、ヨーロッパは最も古代ゲノム研究の蓄積が多い地域と言えるでしょう(関連記事)。古代ゲノム研究は、歴史時代よりも文献のない先史時代の方が優先されている感もありますが、古代ゲ…
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大河ドラマ『どうする家康』第33回「裏切り者」

 今回は石川数正の出奔が描かれました。石川数正は初回から家康を支えてきた重鎮という位置づけだけに、ひねってくる傾向のある本作ではどう描かれるのか、注目していましたが、羽柴秀吉との取次を務めた石川数正が秀吉の強大な勢力を認識し、秀吉との和睦を考えているのに対して、小牧・長久手の戦いで羽柴軍に勝利した、と確信している他の徳川家臣は対秀吉強硬…
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樹木の年輪解析により示される中世フェノスカンジアの気候

 樹木の年輪解析により中世フェノスカンジアの気を示した研究(Björklund et al., 2023)が公表されました。地球システムモデルやさまざまな気候代理指標の情報源によって、地球温暖化は少なくとも紀元後において前例がない、と示されています。しかし、樹木の年輪は、数世紀にわたる気候の変化を反映する指標として使用でき、極端な気候の…
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サハラ砂漠におけるキツネの適応

 サハラ砂漠におけるキツネの適応に関する研究(Rocha et al., 2023)が公表されました。砂漠への動物の適応の進化的過程の解明は、気候変動への適応的反応を理解するのに重要です。キツネ属(Vulpes)の中には、世界最大の高温砂漠であるサハラ砂漠に生息するオジロスナギツネ(Vulpes rueppellii)やフェネック(Vu…
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松下憲一『中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史』

 講談社選書メチエの一冊として、2023年5月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は、中華の形成における北方遊牧民(もしくは狩猟民)の役割を重視し、その具体的事例として鮮卑の拓跋部を取り上げています。これら北方遊牧民の中華支配について通俗的には、野蛮な夷狄による中華の破壊か、未開な遊牧民の中華への同化として語られるのが一般的でし…
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北アメリカ大陸における更新世末の大型動物の絶滅要因

 北アメリカ大陸における更新世末の大型動物の絶滅要因に関する研究(O’keefe et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。更新世末には、世界各地に生息していた地球の大型哺乳類の約2/3が絶滅しました。更新世大型動物絶滅の(複数かもしれない)要因は、部分的には化石記録の低い時空間的解像度が考古学および環境の…
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カナリア諸島先住民の人口史

 カナリア諸島先住民の古代ゲノムデータを報告した研究(Serrano et al., 2023)が公表されました。カナリア諸島は大西洋の比較的低緯度に位置していますが、その入植が紀元後と遅かったこともあり、DNAの保存状態はそれなりに良好なようで、古代DNA研究が進められています。カナリア諸島への関心は、古代DNA研究が進められている地…
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ネオンテトラの避難行動

 ネオンテトラ(Paracheirodon innesi)の避難行動に関する研究(Larrieu et al., 2023)が公表されました。群衆運動は、昆虫から哺乳類まで、および運動性細胞のような非認知体系システムにおいて、異なる種間と異なる規模で観察されます。狭い開口部から脱出を余儀なくされた場合、ほとんどの陸生動物は粒状物質のよう…
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トルコ南東部の旧石器時代遺跡

 トルコ南東部の旧石器時代遺跡の調査の予備的な報告(Kodaş., 2023)が公表されました。トルコというかアナトリア半島は、現生人類(Homo sapiens)がアフリカからレヴァントを経てヨーロッパへと拡散するさいの重要な経路だった、と考えられます。とくに、新石器時代における農耕を伴うヨーロッパへの人類集団の拡散では、アナトリア半…
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大河ドラマ『どうする家康』第32回「小牧・長久手の激闘」

 今回は小牧・長久手の戦いの続きが描かれました。徳川軍が局地戦では羽柴軍を敗走させたとはいっても、全体的な戦局では羽柴軍の優位は否定できず、あえて勝敗を判断すれば勝者は徳川家康ではなく羽柴秀吉でしょうが、ここで得た武名が家康にとって大きな資産となり、天下人への道が開かれた、と言えそうです。同じく今回は、局地戦での徳川軍の勝利が強調されて…
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『卑弥呼』第114話「庭」

 『ビッグコミックオリジナル』2023年9月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハがミマト将軍とイクメとミマアキに、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)国のアビル王の毒殺のため、アビル王には不老長寿の秘薬(実は毒薬)を贈り、それ以外の山社(ヤマト)連合諸国の王には同じ色の粉末の身体によい薬を贈る、と明かしたところで終了しました。今回は、加…
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落合淳思『古代中国 説話と真相』

 筑摩選書の一冊として、筑摩書房より2023年7月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書では「説話」が、「歴史上事実として伝えられたが、実際らには事実ではないもの」という意味で用いられています。本書は、説話を事実として信じてしまえば、説話をどれだけ詳しく研究しても科学的な社会研究にはならず、作り話からは社会の実態を明らかにすること…
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フランス新石器時代の社会構造

 古代ゲノムデータからフランス新石器時代の社会構造を推測した研究(Rivollat et al., 2023)が公表されました。古代ゲノム研究はヨーロッパにおいてとくに発展しており、親族関係や社会構造についての解明も進んでいます。本論文は、フランスの新石器時代の遺跡を対象に、大規模な家系図の復元を提示しています。これら新石器時代住民は核…
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気候変動と人類の進化

 気候変動と人類の進化に関する二つの研究が公表されました。日本語の解説記事もあります。ヒトの進化について知られていることのほとんどは化石証拠に由来し、これらの化石は、現代人のように、気候や生態系の動態により形成された世界に由来します。これら過去の環境を推定する能力により、現代人の進化を形成した力をより深く理解できるようになります。過去の…
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始新世の小柄なクジラ

 始新世の小柄なクジラを報告した研究(Mattila et al., 2023)が公表されました。クジラが小型の陸生偶蹄類の祖先から出現して間もなく、その基底部系統(古鯨類)はより特殊な水生の生態系に生息するようになり、完全な水生の生活様式の採用までに至った驚異的な適応放散を経ました。この適応戦略は、地理的に広く分布する絶滅したバシロサ…
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石器時代ヨーロッパ中央部および東部の人口史

 石器時代ヨーロッパ中央部および東部の古代人のゲノムデータを報告した研究(Mattila et al., 2023)が公表されました。近年の古代ゲノム研究の発展には目覚ましいものがあり、ヨーロッパは最も進んでいる地域と言えるでしょう(関連記事)。農耕の開始は人類史における一大転機で、考古学でも古くから注目されており、古代ゲノム研究でも世…
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大河ドラマ『どうする家康』第31回「史上最大の決戦」

 今回は小牧・長久手の戦いの序盤までが描かれました。徳川家康にとっては、天下人になる基盤を築いた戦いとも言えるかもしれませんが、局地戦では羽柴軍を敗走させたとはいっても、全体的な戦局では羽柴軍の優位は否定できないでしょう。賤ヶ岳の戦い後、徳川と羽柴が直ちに敵対関係になったわけではなく、家康は羽柴秀吉への使者として石川数正を派遣し、秀吉も…
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ヨーロッパ南東部における農耕社会と牧畜社会の早期の接触

 ヨーロッパ南東部の新石器時代から前期青銅器時代までの古代人135個体のゲノムデータを報告した研究(Penske et al., 2023)が公表されました。完新世のヨーロッパにおいては、新石器時代におけるアナトリア半島からの農耕民、および後期新石器時代(Late Neolithic、略してLN)以降におけるポントス・カスピ海草原(ユー…
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上田信『戦国日本を見た中国人 海の物語『日本一鑑』を読む』

 講談社選書メチエの一冊として、2023年7月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は鄭舜功が著した『日本一鑑』を取り上げ、「外から」見た戦国時代の日本の様相を叙述しています。こうした「外国(人)」史料が貴重なのは、自身の文化に由来する日本の(習俗なども含めて広い意味での)文化への無理解や偏見があるとしても、当時の日本社会では常識…
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ヒト脳の進化において細胞の複雑性を促進した分子的特徴

 ヒト脳の進化において細胞の複雑性を促進した分子的特徴に関する研究(Caglayan et al., 2023)が公表されました。ヒト脳に固有の機能性には、ヒト特異的なゲノム変化が関与しています。ヒト脳に見られる細胞の不均一性と、遺伝子発現の複雑な調節は、ヒト特異的な分子的特徴を、細胞分解能で明らかにすることの必要性を浮き彫りにしていま…
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『卑弥呼』第13集発売

 待望の第13集が発売されました。第13集には、 口伝95「鏡奇譚」 https://sicambre.seesaa.net/article/202209article_21.html 口伝96「開戦の時」 https://sicambre.seesaa.net/article/202211article_6.html …
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南アメリカ大陸東部沿岸の古代人のゲノムデータ

 南アメリカ大陸東部の沿岸の古代人のゲノムデータを報告した研究(Ferraz et al., 2023)が公表されました。近年の古代ゲノム研究の進展は目覚ましく、これまでに歴史学や考古学や人類学では充分に把握できていなかった完新世人口史の側面の解明にも大きく貢献しています(関連記事)。アメリカ大陸の古代ゲノム研究も近年大きく進展している…
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大河ドラマ『どうする家康』第30回「新たなる覇者」

 今回は、本能寺の変の後の羽柴秀吉の台頭が描かれました。徳川家康が主人公なので、北条との戦いなど徳川の動向も描かれましたが、お市の方が主人公といった感もありました。お市の方は秀吉を警戒して柴田勝家と結婚した、と家康は推測していましたが、小谷城が陥落したさいに馴れ馴れしい秀吉をお市の方は一喝しており、遅くともこの頃から、秀吉へのお市の方の…
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現代人のシャベル型切歯

 今年(2023)は時には独自の文章を掲載しようと考え(関連記事)、ほぼ取り上げた文献を整理するだけになってしまうとはいえ、自分なりに整理することにも意味があると考えて、今回は現代人のシャベル型切歯について短くまとめます。アジア東方の人口集団では、いくつかの歯の特徴が「モンゴロイド歯科複合」と呼ばれる混合表現型としてまとめられており、後…
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『卑弥呼』第113話「謀略」

 『ビッグコミックオリジナル』2023年8月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが、丹(硫化水銀から構成される辰砂、水銀の原料)の石を砕き、調合した薬というか毒を、津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)国のアビル王に進呈するつもりだ、とイクメに語るところで終了しました。今回は、山社国(ヤマトノクニ)の中心地というか「首都」である山社(ヤ…
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小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』

 岩波ブックレットの一冊として、岩波書店より2023年7月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は、インターネットの日本語環境(詳しく調べていませんが、本書冒頭で取り上げられている事例から推測すると、多分多くの他の言語環境でも)では珍しくない、ナチスは「良いこと」もした、というさまざまな主張を具体的に検証します。この問題について詳…
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「反体制」考古学の問題点

 現在ではグラハム・ハンコック(Graham Hancock)氏に代表される、「反体制」考古学の問題点を指摘した論説(Aldenderfer., 2023)が公表されました。ハンコック氏の著書では1990年代半ばに刊行された『神々の指紋』が有名で、日本でも、テレビ番組で取り上げられるなど大きな話題になりました。ハンコック氏はその後も精力…
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癌の転帰の性差

 癌の転帰の性差に関する二つの研究が公表されました。一方の研究(Abdel-Hafiz et al., 2023)は、Y染色体を失った膀胱癌細胞が、免疫抑制性の高い腫瘍微小環境を生み出し、転帰の悪化の一因になったことを示します。Y染色体喪失(Loss of the Y chromosome、略してLOY)は、膀胱癌の10~40%を含む多…
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シチリアオオカミのゲノムデータ

 シチリアオオカミのゲノムデータを報告した研究(Ciucani et al., 2023)が公表されました。シチリアオオカミはシチリア島に生息しており、1930年代~1960年代に絶滅した、とされています。本論文は、シチリア島とイタリア半島のオオカミは同じ進化系統に由来し、シチリアオオカミは銅器時代のイヌの祖先系統(祖先系譜、祖先成分、…
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