フン人とアヴァール人とハンガリー征服者の遺伝的起源に関する研究(Maróti et al., 2022)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。アジアからヨーロッパへのフン人やアヴァール人やハンガリー人もしくはマジャール人と関連する人口移動の連続的な波は、カルパチア盆地の人口集団に永続的影響を残しました。これは…
マーク・W・モフェット(Mark W. Moffett)著、小野木明恵訳で、早川書房から2020年9月に刊行されました。原書の刊行は2019年です。電子書籍での購入です。本書は、ヒトの帰属意識形成の前提として、まず社会について取り上げます。社会的であること(他個体と積極的につながること)と、一つの種が何世代にもわたって存続する社会と呼…
マルタ共和国のゴゾ島の後期新石器時代人のゲノムデータを報告した研究(Ariano et al., 2022)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。先史時代における海の旅の重要性は、近東起源の農耕の地中海沿岸での急速な西方への拡大から明らかで、それにはキプロス島での10600年前頃のひじょうに早い出現が含まれま…
複雑な文化知識の保存に役立つ選択的な社会的学習に関する研究(Thompson et al., 2022)が公表されました。日本語の解説記事もあります。革新的な戦略は次世代に伝えるのが困難ですが、戦略のおかげで、人類は多様な生態系に進出して数世代にわたり成果をあげてきました。しかし、戦略が文化に蓄積する様子を説明するのはこれまで困難でし…
繁殖成功度の低下とヒト遺伝子に働く選択的制約との関連についての研究(Gardner et al., 2022)が公表されました。ヒト集団のゲノム規模塩基配列解読により、有害な遺伝的多様体に作用する純化選択の強度には遺伝子間で大きな差異がある、と明らかになっています。最も強い選択的制約を受けている遺伝子はメンデル遺伝病との関連でひじょう…
ラオスで発見されたホモ属の歯に関する研究(Demeter et al., 2022)が公表されました。前期~後期更新世にかけて、ホモ・エレクトス(Homo erectus)の存在はアジア、とくに現在の中国とインドネシアでよく証明されています。しかし、アジアにおけるほとんどの中期更新世後期のホモ属標本の分類学的帰属は、依然として論争にな…
シチリア島における中石器時代と新石器時代との間のゲノムと食性の不連続性に関する研究(Yu et al., 2022)が公表されました。人類史における最も影響力のある変化の一つは、比較的遊動的な狩猟採集から定住農耕への生計慣行の移行でした。ユーラシア西部における新石器化の一次地帯は肥沃な三日月地帯とアナトリア半島東部にまたがっていました…
先住民共同体の持続的なカキ漁業に関する研究(Reeder-Myers et al., 2022)が公表されました。カキは沿岸生態系の健全性を示す重要な指標で、世界中の地域社会で文化的および経済的に重要な存在となっています。しかし、19世紀に存在していたカキ礁域は、21世紀初頭までに80%も失われてしまいました。現在のカキ漁業の管理戦略…
ヨーロッパとアジア南西部の初期農耕民の遺伝的起源に関する研究(Marchi et al., 2022)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。先史時代遺跡の骨格遺骸の遺伝的分析は、「新石器時代革命」として考古学ではよく説明される過程を通じて、新たな人々や物質文化や慣行とともに8600年前頃にヨーロッパへと定住と…
ウィリアム・フォン・ヒッペル(William von Hippel)著、濱野大道訳で、ハーパーコリンズ・ノンフィクションより2019年10月に刊行されました。原書の刊行は2018年です。電子書籍での購入です。一部(ではないかもしれませんが)で評判がきわめて悪そうな進化心理学について、まとまった知見を得る目的で読みました。本書はまず、ヒ…
ウクライナのヴァーテバ洞窟(Verteba Cave)遺跡(VC)のトリピリャ(Trypillia)文化期の個体群のゲノムデータを報告した研究(Gelabert et al., 2022)が公表されました。ヨーロッパの新石器化は、劇的な技術的および文化的変化をもたらし、新たな生計慣行が含まれていました。この新石器化を説明するモデルには…
暁新世において有胎盤類で脳より先に筋肉が増えたことを報告する研究(Bertrand et al., 2022)が公表されました。日本語の解説記事もあります。哺乳類は脊椎動物の中で体の大きさに占める脳の割合が最も大きいものの、その進化過程は詳細には解明されていません。この研究は、アメリカ合衆国のニューメキシコ州サン・ファン盆地とコロラド…
タイ南部の狩猟採集民マニ人(Maniq)の人口史に関する研究(Göllner et al., 2022)が公表されました。ケンシウ人(Kensiu)としても知られるマニ人(Maniq)は、タイ南部の樹木の残る丘に住む、約250人の狩猟採集民です。マニ人は文化的に、アジア南東部本土(MSEA)の「セマン人(Semang)」集団の一つに分…
近世ポルトガルのアフリカ出身男性個体の学際的調査結果を報告した研究(Peyroteo-Stjerna et al., 2022)が公表されました。1930年10月1日、考古学者はポルトガルのテージョ(Tagus)川流域のカベッソ・ダ・アモレイラ(Cabeço da Amoreira)の貝塚で、注目すべき1基の墓を特定しました。ポルトガ…
ノルマンディーの新石器時代墓地の被葬者の遺伝的分析結果を報告した研究(Rivollat et al., 2022)が公表されました。ヒト集団に関する古代DNA研究は、社会組織、とくに生物学的関連性に関する習慣に光を当てることができます。記念碑と単一墓、集合埋葬と個体埋葬などさまざまな埋葬状況、したがって、社会組織の対照的形態にも関わら…
ホモ属の進化および拡散と気候の関係についての研究(Timmermann et al., 2022)が公表されました。過去200万年間の気候変動は、ホモ属の進化においてきわめて重要な役割を果たした、と長い間信じられてきました。しかし、人類学的に関心のある地域からの代表的な古気候データセットの数が限られていることを考えると、この関連性を定…
哺乳類における寿命に応じた体細胞変異率を報告した研究(Cagan et al., 2022)が公表されました。哺乳類は、一生の間ずっと変異を獲得します。この過程は癌を生じさせることが知られており、老化に寄与している、と提案されています。しかし、正常組織における体細胞変異率や体細胞変異のパターンは、ヒト以外ではほとんど知られていません。…
遺伝学と考古学の統合から初期現生人類(Homo sapiens)のアフリカからの拡散と分岐を推測した研究(Vallini et al., 2022)が公表されました。本論文はすでに昨年(2021年)5月、査読前に公開されており、大きな変更はないようですが、図が多少変更されていますし、何よりもひじょうに注目される研究で、本文にも多少の変…
フランスの鉄器時代人類集団の遺伝的構造に関する研究(Fischer et al., 2022)が公表されました。フランスの鉄器時代はフランス史において重要な位置を占めています。それは、ガリアの共同体が現代フランス人集団の直接的祖先として一般大衆には日頃から提示されているためです。この大きな関心は、物質文化と葬儀慣行を通じて鉄器時代の共…
霊長類の大脳における抑制性ニューロンの発生と進化に関する研究(Schmitz et al., 2022)が公表されました。神経解剖学では古くから、霊長類での脳の拡大には、抑制性ニューロン(IN)の形態的多様性の増大が含まれる、と考えられてきました。最近の研究では、霊長類特異的なニューロン群が分子レベルで明らかになっていますが、脳で進化…
戦国時代中期の楚の墓に葬られた貴族の出身地に関する研究(Xu et al., 2022)が公表されました。秦が6ヶ国を征服して統一を達成し、中国史において最初の帝国を樹立する前の2世紀は、戦国時代(紀元前475~紀元前221年)として知られています。学者たちは、戦国時代における頻繁で大規模な戦争が、南北「中国」全域のさまざまな人口集団…
イベリア半島北部のシャテルペロニアン(Châtelperronian)遺跡を報告した研究(Rios-Garaizar et al., 2022)が公表されました。ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)集団の消滅(関連記事)は、複雑で進行中の議論のままであり、内在的原因や気候変化やヨーロッパ東部における現生人類…
身長からヨーロッパ初期農耕民の健康悪化を推測した研究(Marciniak et al., 2022)が公表されました。肥沃な三日月地帯で12000年前頃に始まった農耕革命と、地球上の生息地の大半におけるその後の拡大もしくは独立した農耕開始は、ヒトの生計と社会体系と健康に顕著な変化を促進しました。一見すると逆説的ですが、農耕への移行は、…